2 / 4
2
しおりを挟む
「どうして! どうしてでございますか! あの子がなにをしたとおっしゃるのです? トンマーゾ陛下はあの子を、スコンフィッタを愛していらしたのではないのですか?」
「……不貞の罪だ。スコンフィッタは私の婚約者となったにもかかわらず、若い兵士達と関係を持っていた」
「そんな……そんなわけありません! スコンフィッタは陛下のことを心から愛していました。あの子が陛下の婚約者になったことを妬むだれかの仕業ではないのですか? 私も……何度か危険なことがございました」
レベッカはテスタ王国の大広間に集まった貴族達を見た。
年ごろの娘を持ち、自分の血を王家に入れたいと望んでいる連中だ。
彼女の隣に立つエドアルドが鼻を鳴らす。彼は魔の森開拓の最前線でレベッカとともにいた。安全な王宮から身勝手な指示を飛ばしていただけのトンマーゾよりも多くの時間を彼女と過ごしていた。レベッカを襲おうとした男達に残っていた雇用主の匂いも覚えている。
「そうだったのか? なぜ私に言わなかった!」
トンマーゾの言葉に、レベッカは不思議そうに首を傾げる。
彼女の代わりにエドアルドが口を開いた。
「レベッカはトンマーゾ殿に手紙を書いていた。俺達獣人は耳が良いのでな、風が運んできた彼女の手紙に対するそちらの側近殿の口上を覚えている。──生死を賭けた戦場で男が荒ぶるのは当然のこと。清らかであるべき聖女でありながら男の劣情を煽る自分を恥じよ。それが、トンマーゾ殿からレベッカへの返答ではなかったのかな?」
「私はそんなこと言っていない! レベッカ殿がそんな手紙を送って来ていたことも知らなかったぞ!」
トンマーゾは顔色を青くして縮み上がった側近と貴族達を睨みつけた。
喜々としてレベッカの悪口を彼の耳に注ぎ込み、彼女の追放を先導した者達だ。
追放されたときも冷静だったレベッカが、激しい怒りを込めて叫ぶ。
「そんなことどうでも良いではありませんか! 今大事なのはスコンフィッタのことです! ああ、可哀相な妹。トンマーゾ陛下はあの子を愛していたのではないのですか? 腕力で勝てない相手に穢されたことがあの子の罪だと? 同じ国の人間相手に聖女の力で攻撃出来るはずがないではありませんか!」
「スコンフィッタはそなたのように魔の森開拓の前線には出向いていなかった。この王宮で兵士と戯れているところを見つかったのだ。自分の意思で関係を持っていたのだ」
「あの子は優しい子です。その兵士はどこかの貴族に脅されていたのでしょう。家族を人質に取られていたのかもしれません。だから襲われたのに相手を庇って、自分が悪者であるという振りをしたのですわ!」
「スコンフィッタは兵士を庇ったりしなかった。自分は悪くないと叫んだが、調査の末事実がわかった。彼女は男と交わって、相手の魔力を奪おうとしていたのだ」
「あの子をどれだけ貶めれば気が済むのです」
大広間に冷たい空気が張り詰めた。
それはレベッカからあふれ出している。
聖女の持つ浄化の力だ。清らか過ぎる純粋な力は、そうではない存在を傷つける。一番損傷を受けるのは邪悪な魔物だが、聖女自身に祝福を受けて許されていなければ人間であっても無傷ではいられない。
「レベッカ」
エドアルドに名前を呼ばれて、レベッカは我に返ったようだった。
その瞳から、ホロホロと涙が零れ落ちる。透き通り光り輝く、宝石のような涙が。
先ほどの浄化の力を考えても、彼女は神に選ばれた聖女以外のなにものでもない。どうして三年前は彼女を聖女でないと見做して追放してしまったのだろう。大広間の人間は、自分達の過去の行動が信じられないでいた。
「もしあの子が自分の意思で、魔力を求めて殿方と交わったのだとしたら、それはトンマーゾ陛下のためではありませんか。少しでも魔力を高めて、陛下のために聖女として力を振るおうとしていたのではありませんか。それを……牢になど!」
トンマーゾは、スコンフィッタの不貞をきっかけに過去のことを調査し、真実を知ってからずっと疑問に思っていたことを口にした。
「……不貞の罪だ。スコンフィッタは私の婚約者となったにもかかわらず、若い兵士達と関係を持っていた」
「そんな……そんなわけありません! スコンフィッタは陛下のことを心から愛していました。あの子が陛下の婚約者になったことを妬むだれかの仕業ではないのですか? 私も……何度か危険なことがございました」
レベッカはテスタ王国の大広間に集まった貴族達を見た。
年ごろの娘を持ち、自分の血を王家に入れたいと望んでいる連中だ。
彼女の隣に立つエドアルドが鼻を鳴らす。彼は魔の森開拓の最前線でレベッカとともにいた。安全な王宮から身勝手な指示を飛ばしていただけのトンマーゾよりも多くの時間を彼女と過ごしていた。レベッカを襲おうとした男達に残っていた雇用主の匂いも覚えている。
「そうだったのか? なぜ私に言わなかった!」
トンマーゾの言葉に、レベッカは不思議そうに首を傾げる。
彼女の代わりにエドアルドが口を開いた。
「レベッカはトンマーゾ殿に手紙を書いていた。俺達獣人は耳が良いのでな、風が運んできた彼女の手紙に対するそちらの側近殿の口上を覚えている。──生死を賭けた戦場で男が荒ぶるのは当然のこと。清らかであるべき聖女でありながら男の劣情を煽る自分を恥じよ。それが、トンマーゾ殿からレベッカへの返答ではなかったのかな?」
「私はそんなこと言っていない! レベッカ殿がそんな手紙を送って来ていたことも知らなかったぞ!」
トンマーゾは顔色を青くして縮み上がった側近と貴族達を睨みつけた。
喜々としてレベッカの悪口を彼の耳に注ぎ込み、彼女の追放を先導した者達だ。
追放されたときも冷静だったレベッカが、激しい怒りを込めて叫ぶ。
「そんなことどうでも良いではありませんか! 今大事なのはスコンフィッタのことです! ああ、可哀相な妹。トンマーゾ陛下はあの子を愛していたのではないのですか? 腕力で勝てない相手に穢されたことがあの子の罪だと? 同じ国の人間相手に聖女の力で攻撃出来るはずがないではありませんか!」
「スコンフィッタはそなたのように魔の森開拓の前線には出向いていなかった。この王宮で兵士と戯れているところを見つかったのだ。自分の意思で関係を持っていたのだ」
「あの子は優しい子です。その兵士はどこかの貴族に脅されていたのでしょう。家族を人質に取られていたのかもしれません。だから襲われたのに相手を庇って、自分が悪者であるという振りをしたのですわ!」
「スコンフィッタは兵士を庇ったりしなかった。自分は悪くないと叫んだが、調査の末事実がわかった。彼女は男と交わって、相手の魔力を奪おうとしていたのだ」
「あの子をどれだけ貶めれば気が済むのです」
大広間に冷たい空気が張り詰めた。
それはレベッカからあふれ出している。
聖女の持つ浄化の力だ。清らか過ぎる純粋な力は、そうではない存在を傷つける。一番損傷を受けるのは邪悪な魔物だが、聖女自身に祝福を受けて許されていなければ人間であっても無傷ではいられない。
「レベッカ」
エドアルドに名前を呼ばれて、レベッカは我に返ったようだった。
その瞳から、ホロホロと涙が零れ落ちる。透き通り光り輝く、宝石のような涙が。
先ほどの浄化の力を考えても、彼女は神に選ばれた聖女以外のなにものでもない。どうして三年前は彼女を聖女でないと見做して追放してしまったのだろう。大広間の人間は、自分達の過去の行動が信じられないでいた。
「もしあの子が自分の意思で、魔力を求めて殿方と交わったのだとしたら、それはトンマーゾ陛下のためではありませんか。少しでも魔力を高めて、陛下のために聖女として力を振るおうとしていたのではありませんか。それを……牢になど!」
トンマーゾは、スコンフィッタの不貞をきっかけに過去のことを調査し、真実を知ってからずっと疑問に思っていたことを口にした。
452
あなたにおすすめの小説
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
もう、振り回されるのは終わりです!
こもろう
恋愛
新しい恋人のフランシスを連れた婚約者のエルドレッド王子から、婚約破棄を大々的に告げられる侯爵令嬢のアリシア。
「もう、振り回されるのはうんざりです!」
そう叫んでしまったアリシアの真実とその後の話。
【完結】「かわいそう」な公女のプライド
干野ワニ
恋愛
馬車事故で片脚の自由を奪われたフロレットは、それを理由に婚約者までをも失い、過保護な姉から「かわいそう」と口癖のように言われながら日々を過ごしていた。
だが自分は、本当に「かわいそう」なのだろうか?
前を向き続けた令嬢が、真の理解者を得て幸せになる話。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう
水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。
しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。
マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。
マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。
そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。
しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。
怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。
そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。
そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……
王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?
愚かこそが罪《完結》
アーエル
恋愛
貴族として、まあ、これで最後だと私は開き直ってでたパーティー。
王家主催だから断れなかったと言う理由もある。
そんなパーティーをぶち壊そうとする輩あり。
はあ?
私にプロポーズ?
アンタ頭大丈夫?
指輪を勝手に通そうとしてもある契約で反発している。
って、それって使用禁止の魔導具『隷属の指輪』じゃん!
このバカ、王太子だけどぶっ飛ばしちゃってもいいよね?
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる