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第六話 コンスタンサからの手紙
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お元気でしょうか、バスコ王太子殿下。
私の手紙をお読みになっているということは、デスグラーサ王太子妃殿下のお産みになったお子が殿下のお子ではなかったということでしょうか。
だからといって、妃殿下の愛を疑わないであげてください。
妃殿下は、心から殿下を愛していらっしゃいます。
ただ、妃殿下はその場にいる一番身分と地位が高く力と財産を持っている人間を愛さずにはいられないだけなのです。
ですので、殿下が妃殿下から離れなければ、もう二度とほかの殿方に身を任せるようなことはありません。
もし私を正妃に迎えてくださっていたら、愛妾として迎えた妃殿下を管理し、ほかの殿方を近づけないようにするつもりでした。
それが無理でも、殿下の公務を代行することで、少しでも殿下が妃殿下から離れる時間を減らして差し上げるつもりでした。
殿下に信頼していただけなかった私がいけなかったとはいえ、残念でなりません。
ずっと前から妃殿下の言動を知っていたのにお伝えしなかったのは、私の浅ましい想いのせいでございます。
本人に悪気はなく、常に本気で相手に対応しているとはいえ、貴族社会においては複数の殿方と関係を結ぶ人間は蔑まれます。
そんな人間を娘として王太子殿下に近づけたロバト侯爵が失脚して、私が殿下の婚約者でなくなるのが怖かったので、妃殿下のことを秘密にしていたのでございます。
それに、殿下は妃殿下を愛していらっしゃったでしょう?
私は殿下をお慕いしておりました。
殿下に愛されていなかったのはわかっています。
どんなに私が愛しても、それは殿下のお望みの愛ではなかったのでございましょう。
それでも私は幸せでした。
愛人に夢中の父には愛されず、仕事に夢中の母にも振り向かれず、どんなに分家の叔父様達に大切にしていただいても心に穴が開いていて、生きることに倦んでいた私が今生まれてきたことを神に感謝しているのは、殿下とお会いして殿下を愛することが出来たからなのです。
私には殿下の望む幸せというものはわかりません。
でも殿下が妃殿下を愛していらっしゃることはわかります。
殿下といるときの妃殿下が、殿下を愛していることもわかります。
殿下がいらっしゃらないときの妃殿下の行動を知ったら、殿下が傷つき笑顔を曇らせてしまうこともわかっていました。
どんなに私が愛しても、けして得られなかった殿下の笑顔が曇るなんて嫌でした。
私に向けられたものでなくても、殿下にはずっと笑顔でいて欲しかったのです。
幸い学園で妃殿下と仲良くしていた殿方は、本当は自分を愛している妃殿下が王太子殿下の権力で無理矢理従わされているのだと、勝手に納得してくださっていました。
妃殿下は身分と地位が高く力と財産を持った殿方しか人間として認めていません。
ですので私は、そんな妃殿下に不当な扱いを受けていた令嬢や平民の特待生、この国と制度が違うので妃殿下には身分が高いと見做されていなかった留学生の皆様に謝罪し賠償することで沈黙を約束してもらっていました。
もっともそれは私が王太子妃になるという前提の話だったので、もう約束はなかったものとされているかもしれません。
特に留学生の方々が本国に戻って、殿下と妃殿下のことをどう報告なさっているかまでは予測不能です。
私が正妃となっていたら、他国との外交で王太子殿下方に関する悪い噂を抑え込むつもりだったのですが、今となってはどうしようもないことですね。
殿下、妃殿下と離縁してはいけません。
妃殿下を処分しようなどと考えてはいけません。
正当な婚約を破棄してまで選んだ相手なのです。学園の卒業パーティで騒動を起こしてまで結ばれた相手なのです。ここで妃殿下を切り捨てたら、さらに悪評が広がります。
この状況で側妃や愛妾を迎えるのも悪手でしかありません。
なにがあろうとも、真実の愛だったとして美談に仕立て上げるしかないのです。
子どもは死産だったことにして孤児院に送れば良いでしょう。
殿下が妃殿下から離れないでいたら、いつかは殿下のお子が産まれます。
殿下は妃殿下を愛していらっしゃるのでしょう?
妃殿下だって殿下を愛していらっしゃいます。
そしてこうなった以上、おふたりに別離という道はございません。
バスコ王太子殿下、コンスタンサは今も殿下をお慕いしています。
どんなに私が愛しても、殿下を笑顔に出来ないのはわかっております。
それでも私は殿下の幸せを祈っています。
私はこの国を出て行きます。
お側にいてお力になることが出来ないのなら、このままこの国にいても意味はありませんし、勘当されたとはいえロバト侯爵家の血を引く王太子殿下の元婚約者の私を利用しようとするものも現れるかもしれません。
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
──これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
私の手紙をお読みになっているということは、デスグラーサ王太子妃殿下のお産みになったお子が殿下のお子ではなかったということでしょうか。
だからといって、妃殿下の愛を疑わないであげてください。
妃殿下は、心から殿下を愛していらっしゃいます。
ただ、妃殿下はその場にいる一番身分と地位が高く力と財産を持っている人間を愛さずにはいられないだけなのです。
ですので、殿下が妃殿下から離れなければ、もう二度とほかの殿方に身を任せるようなことはありません。
もし私を正妃に迎えてくださっていたら、愛妾として迎えた妃殿下を管理し、ほかの殿方を近づけないようにするつもりでした。
それが無理でも、殿下の公務を代行することで、少しでも殿下が妃殿下から離れる時間を減らして差し上げるつもりでした。
殿下に信頼していただけなかった私がいけなかったとはいえ、残念でなりません。
ずっと前から妃殿下の言動を知っていたのにお伝えしなかったのは、私の浅ましい想いのせいでございます。
本人に悪気はなく、常に本気で相手に対応しているとはいえ、貴族社会においては複数の殿方と関係を結ぶ人間は蔑まれます。
そんな人間を娘として王太子殿下に近づけたロバト侯爵が失脚して、私が殿下の婚約者でなくなるのが怖かったので、妃殿下のことを秘密にしていたのでございます。
それに、殿下は妃殿下を愛していらっしゃったでしょう?
私は殿下をお慕いしておりました。
殿下に愛されていなかったのはわかっています。
どんなに私が愛しても、それは殿下のお望みの愛ではなかったのでございましょう。
それでも私は幸せでした。
愛人に夢中の父には愛されず、仕事に夢中の母にも振り向かれず、どんなに分家の叔父様達に大切にしていただいても心に穴が開いていて、生きることに倦んでいた私が今生まれてきたことを神に感謝しているのは、殿下とお会いして殿下を愛することが出来たからなのです。
私には殿下の望む幸せというものはわかりません。
でも殿下が妃殿下を愛していらっしゃることはわかります。
殿下といるときの妃殿下が、殿下を愛していることもわかります。
殿下がいらっしゃらないときの妃殿下の行動を知ったら、殿下が傷つき笑顔を曇らせてしまうこともわかっていました。
どんなに私が愛しても、けして得られなかった殿下の笑顔が曇るなんて嫌でした。
私に向けられたものでなくても、殿下にはずっと笑顔でいて欲しかったのです。
幸い学園で妃殿下と仲良くしていた殿方は、本当は自分を愛している妃殿下が王太子殿下の権力で無理矢理従わされているのだと、勝手に納得してくださっていました。
妃殿下は身分と地位が高く力と財産を持った殿方しか人間として認めていません。
ですので私は、そんな妃殿下に不当な扱いを受けていた令嬢や平民の特待生、この国と制度が違うので妃殿下には身分が高いと見做されていなかった留学生の皆様に謝罪し賠償することで沈黙を約束してもらっていました。
もっともそれは私が王太子妃になるという前提の話だったので、もう約束はなかったものとされているかもしれません。
特に留学生の方々が本国に戻って、殿下と妃殿下のことをどう報告なさっているかまでは予測不能です。
私が正妃となっていたら、他国との外交で王太子殿下方に関する悪い噂を抑え込むつもりだったのですが、今となってはどうしようもないことですね。
殿下、妃殿下と離縁してはいけません。
妃殿下を処分しようなどと考えてはいけません。
正当な婚約を破棄してまで選んだ相手なのです。学園の卒業パーティで騒動を起こしてまで結ばれた相手なのです。ここで妃殿下を切り捨てたら、さらに悪評が広がります。
この状況で側妃や愛妾を迎えるのも悪手でしかありません。
なにがあろうとも、真実の愛だったとして美談に仕立て上げるしかないのです。
子どもは死産だったことにして孤児院に送れば良いでしょう。
殿下が妃殿下から離れないでいたら、いつかは殿下のお子が産まれます。
殿下は妃殿下を愛していらっしゃるのでしょう?
妃殿下だって殿下を愛していらっしゃいます。
そしてこうなった以上、おふたりに別離という道はございません。
バスコ王太子殿下、コンスタンサは今も殿下をお慕いしています。
どんなに私が愛しても、殿下を笑顔に出来ないのはわかっております。
それでも私は殿下の幸せを祈っています。
私はこの国を出て行きます。
お側にいてお力になることが出来ないのなら、このままこの国にいても意味はありませんし、勘当されたとはいえロバト侯爵家の血を引く王太子殿下の元婚約者の私を利用しようとするものも現れるかもしれません。
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
──これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
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