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第四話 運命の恋を諦めない①<一度目の伯爵令息>
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俺はジルベルト伯爵家の次男坊として生まれた。
優秀な兄上がいるので家は継げないし、ジルベルト家には伯爵以外の爵位もない。
どこかの家へ婿入りするか自力で騎士爵にでもなるしかない。実家の影響力を利用して商人になるという手もあるが……俺は、そっち方面には頭が働かない。
そんなわけで、母の親友が嫁いだ男爵家の令嬢との婚約は大歓迎だった。
婚約者のイザベルに一目惚れしたのもある。
イザベルは一見内気でおとなしそうに見えるけれど芯が強く、俺なんかよりも頭が良い。そして頭が良いからこそ、周囲の気持ちを察して自分が我慢することを選ぶ少女だった。
「お父様、なんのご用事かしら?」
馬車の中、俺の向かいに座ったイザベルが複雑そうな表情で首を傾げている。
彼女の父親の男爵はロクデナシだ。
イザベルとその母親である自分の正妻を放置して、王都の下町に囲っている愛人親娘のところへ入り浸っている。
いや、放置どころではない。
男爵家の運営は、イザベルとその母親に任せっきりなのだ。
血筋こそ正当な男爵家のものだが、貢献度でいえば彼はなんの価値もない寄生虫男だ。
……まあ、正直言うと、俺もそうなりそうな予感はする。
愛人を囲う気はかけらもないけれど、家や領地の運営には自信がないのだ。
武勇に自信はあるものの、大局的な見方が出来ていないと、いつも父や兄、学園の教師達に苦言を呈されている。
「ふふ」
「どうした、イザベル」
「カルロス様も一緒に帰ってきたらお父様が驚くだろうな、と思って。でも本当に良かったのですか? 私と一緒に早退したりなんかして」
「ああ、どうせ午後の授業は座学だ。出席しても寝るだけだからな」
「駄目ですよ、カルロス様」
「……そうだな。男爵の用事が早めに終わったら、俺に勉強を教えてくれ」
「良いですよ。一緒に卒業したいですもの。後一年あればきっと、きっと……再追試は免れるようになりますわ」
「言ったな? そんなに油断していると、首位の座は俺がいただいてしまうぞ」
「あら、宣戦布告ですか?」
イザベルの母親は悪い人間ではないと思う。
だが、夫に冷遇されている彼女にとって、夫にそっくりな娘への対応は難しいものだったのだろう。
母親の気持ちを敏感に察したイザベルは彼女から距離を取り、自分を磨くことで両親に認められようとした。今はこの王国の貴族子女が通う学園で首位の成績を取り続けている。
ロクデナシの男爵はイザベルの優秀さに気づいてもいないようで、会うたびに不肖の娘、などと言って俺を怒らせる。
俺が怒っているのを察して、その場を収めてくれるのもイザベルだ。
結婚前に男爵の不興を買って婚約解消されてはたまらないけれど、あの寄生虫男はさっさと斬り捨てておいたほうが良いんじゃないだろうか、と俺は思っている。俺は剣技には自信があるのだ。
男爵夫人は娘の優秀さに気づいているが、優秀になった理由にも気づいているからこそイザベルとの付き合い方に悩んでいる節が見受けられる。
自分から歩み寄ろうとしなかったことへの罪悪感があるのかもしれない。
でも俺のイザベルは、男爵夫人が微笑んでくれるだけで嬉しいと感じるだろう。俺がどんなに愛していても家族の愛情は与えられないので、男爵夫人は早くイザベルと向き合って欲しい。
もちろん結婚したら俺はイザベルの家族になるのだけれど、家族の前に恋人でありたいと願っている。
「……本当に、お父様はなんのご用事なのかしら?」
もう一度疑問を口にして、イザベルは不安そうな顔で俯いた。
今日は学園に男爵の使者という人間が来て、イザベルに早退を促したのだ。教師が伝えに来て、一緒に昼食中だった俺もついて行くことにした。
俺もイザベルも、なんとなく嫌な気配を感じていたのだ。
「男爵は下町で囲っていた愛人の娘を引き取って、来年から学園へ通わせたいと言っているんだったよな?」
「ええ。……お父様は、私ではなくその子に家を継がせたいのだと思うわ」
「そうか。……イザベルは、騎士爵家の嫁になるのは嫌か?」
「カルロス様?」
「剣技のほうは十分なんだ。後はイザベルが勉強を教えてくれたら、なんとか騎士爵に手が届くと思う。駄目だったらイザベルに商会を立ち上げてもらって、俺は用心棒になるつもりだ」
「共同経営者じゃないんですか?」
「俺に金勘定が出来ると思うなよ?」
「騎士爵にだってお金の計算は必要ですよ? お金は大事、なのですからね!」
もう、と頬を膨らませた後、イザベルは幸せそうに微笑んだ。
答えはまだいい。男爵の用事を聞いてからでも遅くない。
そう思ったのを後悔したのは、それからしばらくして、ふたりが乗った馬車を乱暴に停められた後のことだった──
優秀な兄上がいるので家は継げないし、ジルベルト家には伯爵以外の爵位もない。
どこかの家へ婿入りするか自力で騎士爵にでもなるしかない。実家の影響力を利用して商人になるという手もあるが……俺は、そっち方面には頭が働かない。
そんなわけで、母の親友が嫁いだ男爵家の令嬢との婚約は大歓迎だった。
婚約者のイザベルに一目惚れしたのもある。
イザベルは一見内気でおとなしそうに見えるけれど芯が強く、俺なんかよりも頭が良い。そして頭が良いからこそ、周囲の気持ちを察して自分が我慢することを選ぶ少女だった。
「お父様、なんのご用事かしら?」
馬車の中、俺の向かいに座ったイザベルが複雑そうな表情で首を傾げている。
彼女の父親の男爵はロクデナシだ。
イザベルとその母親である自分の正妻を放置して、王都の下町に囲っている愛人親娘のところへ入り浸っている。
いや、放置どころではない。
男爵家の運営は、イザベルとその母親に任せっきりなのだ。
血筋こそ正当な男爵家のものだが、貢献度でいえば彼はなんの価値もない寄生虫男だ。
……まあ、正直言うと、俺もそうなりそうな予感はする。
愛人を囲う気はかけらもないけれど、家や領地の運営には自信がないのだ。
武勇に自信はあるものの、大局的な見方が出来ていないと、いつも父や兄、学園の教師達に苦言を呈されている。
「ふふ」
「どうした、イザベル」
「カルロス様も一緒に帰ってきたらお父様が驚くだろうな、と思って。でも本当に良かったのですか? 私と一緒に早退したりなんかして」
「ああ、どうせ午後の授業は座学だ。出席しても寝るだけだからな」
「駄目ですよ、カルロス様」
「……そうだな。男爵の用事が早めに終わったら、俺に勉強を教えてくれ」
「良いですよ。一緒に卒業したいですもの。後一年あればきっと、きっと……再追試は免れるようになりますわ」
「言ったな? そんなに油断していると、首位の座は俺がいただいてしまうぞ」
「あら、宣戦布告ですか?」
イザベルの母親は悪い人間ではないと思う。
だが、夫に冷遇されている彼女にとって、夫にそっくりな娘への対応は難しいものだったのだろう。
母親の気持ちを敏感に察したイザベルは彼女から距離を取り、自分を磨くことで両親に認められようとした。今はこの王国の貴族子女が通う学園で首位の成績を取り続けている。
ロクデナシの男爵はイザベルの優秀さに気づいてもいないようで、会うたびに不肖の娘、などと言って俺を怒らせる。
俺が怒っているのを察して、その場を収めてくれるのもイザベルだ。
結婚前に男爵の不興を買って婚約解消されてはたまらないけれど、あの寄生虫男はさっさと斬り捨てておいたほうが良いんじゃないだろうか、と俺は思っている。俺は剣技には自信があるのだ。
男爵夫人は娘の優秀さに気づいているが、優秀になった理由にも気づいているからこそイザベルとの付き合い方に悩んでいる節が見受けられる。
自分から歩み寄ろうとしなかったことへの罪悪感があるのかもしれない。
でも俺のイザベルは、男爵夫人が微笑んでくれるだけで嬉しいと感じるだろう。俺がどんなに愛していても家族の愛情は与えられないので、男爵夫人は早くイザベルと向き合って欲しい。
もちろん結婚したら俺はイザベルの家族になるのだけれど、家族の前に恋人でありたいと願っている。
「……本当に、お父様はなんのご用事なのかしら?」
もう一度疑問を口にして、イザベルは不安そうな顔で俯いた。
今日は学園に男爵の使者という人間が来て、イザベルに早退を促したのだ。教師が伝えに来て、一緒に昼食中だった俺もついて行くことにした。
俺もイザベルも、なんとなく嫌な気配を感じていたのだ。
「男爵は下町で囲っていた愛人の娘を引き取って、来年から学園へ通わせたいと言っているんだったよな?」
「ええ。……お父様は、私ではなくその子に家を継がせたいのだと思うわ」
「そうか。……イザベルは、騎士爵家の嫁になるのは嫌か?」
「カルロス様?」
「剣技のほうは十分なんだ。後はイザベルが勉強を教えてくれたら、なんとか騎士爵に手が届くと思う。駄目だったらイザベルに商会を立ち上げてもらって、俺は用心棒になるつもりだ」
「共同経営者じゃないんですか?」
「俺に金勘定が出来ると思うなよ?」
「騎士爵にだってお金の計算は必要ですよ? お金は大事、なのですからね!」
もう、と頬を膨らませた後、イザベルは幸せそうに微笑んだ。
答えはまだいい。男爵の用事を聞いてからでも遅くない。
そう思ったのを後悔したのは、それからしばらくして、ふたりが乗った馬車を乱暴に停められた後のことだった──
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