婚約破棄の裏側で

豆狸

文字の大きさ
1 / 10

第一話 婚約破棄

しおりを挟む
 私の婚約者のブルーノ伯爵家のご子息カストロ様は足を怪我して、一ヶ月ほど自宅で療養なさっていました。
 療養の甲斐あって回復したので、この国の貴族子女が通う学園に今日から戻られたと聞いていましたが、ふたつ年上の彼とは学年と学科が違うのでまだお顔は拝見していません。
 案じる私の教室にカストロ様のご友人のネメジ様が来て、昼休みにカストロ様が中庭で待っていると教えてくださいました。ネメジ様はカストロ様と同じ騎士科の方なのです。

「スザンナったら、そんな嬉しそうな顔しちゃって。相手はビアンキ伯爵家へ入り婿予定のくせに、下町の酒場女と浮気している莫迦男なのよ?」

 いそいそと中庭へ向かおうとした私を心配したのか、親友のコスタ侯爵令嬢サーラ様がそんなことをおっしゃりながら同行してくださいました。
 言われた通り、ブルーノ伯爵家次男のカストロ様はビアンキ伯爵家のひとり娘である私のところへ婿に入る予定です。
 なのに私が学園に入学してしばらくしたころ、騎士科の方々と行った下町の酒場で働く女性デモネさんと恋に落ちたのです。

「あの女性と別れると言ってくださるのかもしれませんわ」
「どうかしらね。この一ヶ月、貴女の見舞いは拒んでいたんでしょう? 学園の階段から落ちて運ばれている途中で叫んでいたように、今も貴女に突き落とされたのだと思い込んでいるのかもしれなくてよ?」

 カストロ様が足に怪我をしたのは、学園の階段から落ちたからです。
 学園の制服を着た、私と同じ色の髪の女生徒に突き落とされたのだとおっしゃいました。
 その時間の私はサーラ様と一緒にいました。

 サーラ様に証言していただきましたので、もう誤解は解けていると思うのですけれど……彼を突き飛ばした女生徒は今も見つかっていないようです。
 おそらく故意に突き飛ばしたのではなく、偶然ぶつかっただけだったのでしょう。
 カストロ様が階段を落ちて足を怪我したと聞いて、恐ろしくて名乗り出られなくなったのではないでしょうか。

 私とカストロ様の婚約は、ビアンキ伯爵家とブルーノ伯爵家が共同事業をおこなっていることから結ばれた政略的なものです。当主である父親同士が同世代で親友だったこともあります。
 でもそんな事情とは関係なく、私はカストロ様に恋をしました。
 あの日、花畑で私を守ってくださった彼は、どんな物語に出てくる騎士よりも凛々しく勇ましかったのです。

「スザンナ!」

 中庭に着くと、中央の噴水のところにカストロ様がいらっしゃいました。
 彼の隣には申し訳なさそうな顔をしたネメジ様もいます。
 一ヶ月ぶりに名前を呼ばれて頬が緩んだ私に、カストロ様が宣言なさいます。

「俺は君との婚約を破棄する! 俺の心はデモネのものなんだ。それを理解せず、俺を殺して独占しようとするような恐ろしい女とは婚約していられない。政略結婚だと言われても無理だ!」
「……カストロ、様?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる

ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。 でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。 しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。 「すまん、別れてくれ」 「私の方が好きなんですって? お姉さま」 「お前はもういらない」 様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。 それは終わりであり始まりだった。 路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。 「なんだ? この可愛い……女性は?」 私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。

【完結】好きになったら命懸けです。どうか私をお嫁さんにして下さいませ〜!

金峯蓮華
恋愛
 公爵令嬢のシャーロットはデビュタントの日に一目惚れをしてしまった。  あの方は誰なんだろう? 私、あの方と結婚したい!   理想ドンピシャのあの方と結婚したい。    無鉄砲な天然美少女シャーロットの恋のお話。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。

ゆずこしょう
恋愛
女騎士として働いてきて、やっと幼馴染で許嫁のアドルフと結婚する事ができたエルヴィール(18) しかし半年後。魔物が大量発生し、今度はアドルフに徴集命令が下った。 「俺は魔物討伐なんか行けない…お前の方が昔から強いじゃないか。か、かわりにお前が行ってきてくれ!」 頑張って伸ばした髪を短く切られ、荷物を持たされるとそのまま有無を言わさず家から追い出された。 そして…5年の任期を終えて帰ってきたエルヴィールは…。

“ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う

棚から現ナマ
恋愛
いままで虐げられてきたから “ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う? 侯爵令嬢のアイリス=ハーナンは、成人を祝うパーティー会場の中央で、私から全てを奪ってきた両親と妹を相手に “ざまぁ” を行っていた。私の幼馴染である王子様に協力してもらってね! アーネスト王子、私の恋人のフリをよろしくね! 恋人のフリよ、フリ。フリって言っているでしょう! ちょっと近すぎるわよ。肩を抱かないでいいし、腰を抱き寄せないでいいから。抱きしめないでいいってば。だからフリって言っているじゃない。何で皆の前でプロポーズなんかするのよっ!! 頑張って “ざまぁ” しようとしているのに、何故か違う方向に話が行ってしまう、ハッピーエンドなお話。 他サイトにも投稿しています。

婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。

石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。 その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。 実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。 初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。 こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。

婚約破棄されても賞金稼ぎなので大丈夫ですわ!

豆狸
恋愛
お母様が亡くなって父が愛人親娘を伯爵邸に連れ込んでから、私はこの賞金稼ぎの仕事をするようになりました。 まずはお金がないとなにも出来ないのですもの。 実は予感がするのです。いつかあの三人──今はイリスィオ様も含めた四人が私に牙を剥くと。

処理中です...