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第二話 蜂
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「ちょっと待ちなさいよっ!」
呆然とする私の代わりに、普段から気丈なサーラ様が叫んでくださいました。
「ブルーノ伯爵家のご次男様? 騎士科の貴方が間抜けにも学園の階段から落ちたとき、スザンナは私といましたのよ? コスタ侯爵家の令嬢にして次期当主の私の証言が信用出来ないとでも?」
「……コスタ侯爵令嬢、貴女はスザンナの親友だ。友情のためなら嘘もつくだろう」
「まあ!」
「それに、スザンナの凶行はそれだけではない。彼女から贈られた見舞いの花束の中に蜂が入っていたんだ。運良く蜂は死んでいたが、生きたままなら刺されて命を喪っていたかもしれない」
この国は大陸の南方にあり、どの地域も花に満ち溢れていることから養蜂業が盛んです。
蜜蜂が多いと、蜜蜂を餌にする肉食の雀蜂もやって来ます。
蜂に二度刺されると衝撃で死んでしまうことがあるとか、そもそも一気に群がられて刺されても死んでしまうことはよく知られています。そのため、蜂毒の解毒剤を研究している方もいらっしゃるのです。
ビアンキ伯爵家とブルーノ伯爵家は共同で蜂蜜酒を製造販売しています。
他家で販売している蜂蜜を使うと、地域ごとに咲く花が違うので蜂蜜酒の味が変わってきます。
そのため安定した味の蜂蜜を求めて両家でも養蜂をしているのです。
カストロ様は婚約が結ばれた直後に、見学に行った花畑で蜜蜂を狩りにやって来た雀蜂から私を守って刺されてしまったのです。
もう一度刺されたら命が危ないかもしれません。
この国の高位貴族家は複数の爵位と領地を持っていることが多いのですが、そうではない小さな貴族家の跡取り以外のご子息は自力で騎士となり騎士爵を得ておかないと、成人後に平民になってしまいます。学園の騎士科にはそういう貴族家の方々が多いのです。
婚約して我が家に婿入りすると決まる前から、カストロ様は騎士を目指していらっしゃいました。
私の婿となって一緒にビアンキ伯爵家を盛り立てていくよりも、自分自身のお力で家を興したいと思っていらっしゃったのでしょう。
「蜂なんてどこで入ったかわからないじゃないの!」
「……サーラ様」
「スザンナ?」
私は、私よりも熱くなってカストロ様を睨みつけるサーラ様を止めました。
凍りつきそうなほど冷たい視線で私を射てくるカストロ様を見つめて口を開きます。
「かしこまりました、カストロ様。先ほどおっしゃった通り私達の婚約は政略的なものです。私の父母には私から話しておきますので、ブルーノ伯爵家の小父様達にはカストロ様からお伝えになってください。……それと」
カストロ様は、ご自身が学園に入学したころから私を厭っていました。
蜂に刺された彼が心配なあまり、森などで演習する騎士科に入ることを反対していたので嫌われてしまったのでしょう。
それでもデモネさんに会うまでは、婚約者として最低限のお付き合いはしてくださっていたのですけれど。
「私が贈った花束に蜂が入っていたというのならお詫びいたします。ですが、わざと入れたりはしていません。貴方を害するようなことは、絶対に……」
そこまで言って、私は唇を噛みました。
涙が堪えきれなくなったのです。
震える声で別れの挨拶だけして、私はサーラ様に支えられるようにして中庭を去りました。周囲の好奇と嘲笑に満ちた瞳の中、カストロ様の視線はいつまでも冷たく私の背中を射続けていました。
呆然とする私の代わりに、普段から気丈なサーラ様が叫んでくださいました。
「ブルーノ伯爵家のご次男様? 騎士科の貴方が間抜けにも学園の階段から落ちたとき、スザンナは私といましたのよ? コスタ侯爵家の令嬢にして次期当主の私の証言が信用出来ないとでも?」
「……コスタ侯爵令嬢、貴女はスザンナの親友だ。友情のためなら嘘もつくだろう」
「まあ!」
「それに、スザンナの凶行はそれだけではない。彼女から贈られた見舞いの花束の中に蜂が入っていたんだ。運良く蜂は死んでいたが、生きたままなら刺されて命を喪っていたかもしれない」
この国は大陸の南方にあり、どの地域も花に満ち溢れていることから養蜂業が盛んです。
蜜蜂が多いと、蜜蜂を餌にする肉食の雀蜂もやって来ます。
蜂に二度刺されると衝撃で死んでしまうことがあるとか、そもそも一気に群がられて刺されても死んでしまうことはよく知られています。そのため、蜂毒の解毒剤を研究している方もいらっしゃるのです。
ビアンキ伯爵家とブルーノ伯爵家は共同で蜂蜜酒を製造販売しています。
他家で販売している蜂蜜を使うと、地域ごとに咲く花が違うので蜂蜜酒の味が変わってきます。
そのため安定した味の蜂蜜を求めて両家でも養蜂をしているのです。
カストロ様は婚約が結ばれた直後に、見学に行った花畑で蜜蜂を狩りにやって来た雀蜂から私を守って刺されてしまったのです。
もう一度刺されたら命が危ないかもしれません。
この国の高位貴族家は複数の爵位と領地を持っていることが多いのですが、そうではない小さな貴族家の跡取り以外のご子息は自力で騎士となり騎士爵を得ておかないと、成人後に平民になってしまいます。学園の騎士科にはそういう貴族家の方々が多いのです。
婚約して我が家に婿入りすると決まる前から、カストロ様は騎士を目指していらっしゃいました。
私の婿となって一緒にビアンキ伯爵家を盛り立てていくよりも、自分自身のお力で家を興したいと思っていらっしゃったのでしょう。
「蜂なんてどこで入ったかわからないじゃないの!」
「……サーラ様」
「スザンナ?」
私は、私よりも熱くなってカストロ様を睨みつけるサーラ様を止めました。
凍りつきそうなほど冷たい視線で私を射てくるカストロ様を見つめて口を開きます。
「かしこまりました、カストロ様。先ほどおっしゃった通り私達の婚約は政略的なものです。私の父母には私から話しておきますので、ブルーノ伯爵家の小父様達にはカストロ様からお伝えになってください。……それと」
カストロ様は、ご自身が学園に入学したころから私を厭っていました。
蜂に刺された彼が心配なあまり、森などで演習する騎士科に入ることを反対していたので嫌われてしまったのでしょう。
それでもデモネさんに会うまでは、婚約者として最低限のお付き合いはしてくださっていたのですけれど。
「私が贈った花束に蜂が入っていたというのならお詫びいたします。ですが、わざと入れたりはしていません。貴方を害するようなことは、絶対に……」
そこまで言って、私は唇を噛みました。
涙が堪えきれなくなったのです。
震える声で別れの挨拶だけして、私はサーラ様に支えられるようにして中庭を去りました。周囲の好奇と嘲笑に満ちた瞳の中、カストロ様の視線はいつまでも冷たく私の背中を射続けていました。
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