4 / 10
第四話 解毒剤
しおりを挟む
私の言葉に、パトリツィオ様が頷きます。
「ああ、そうだね。婚約関係でなくなったのなら、そこまでは出来ないだろう」
「父にもお願いしたのですが、パトリツィオ様のほうからもブルーノ伯爵家にお勧めしていただけないでしょうか」
薬には使用期限というものがあります。
年月によって薬効が劣化して、効き目が無くなってしまうのです。
私は使用期限が切れる前に新しいものを注文して、ブルーノ伯爵家に届けていただいていました。
もちろん養蜂業が盛んな国なので、貴族家にも学園にも解毒剤は常備されています。
でもそういったものは使用期限が長い分、薬効が弱いのです。
パトリツィオ様の研究で創り出された新しい解毒剤は、使用期限が短い代わりに薬効が強いものでした。学園に入学してサーラ様と出会い、パトリツィオ様の研究についてお聞きしてからは我がビアンキ伯爵家も研究への支援をさせていただいています。
パトリツィオ様が優しい微笑みを浮かべて首肯してくださいます。
「わかった。私のほうからブルーノ伯爵家に話をしてみよう」
「お兄様に商品の売り込みなんか出来るのかしら? スザンナと知り合って蜂毒の恐ろしさを教えてもらわなかったら私、今でもお兄様は毒の研究に明け暮れる変わり者だと思っていたわよ。なにもおっしゃってくださらなかったのだもの!」
コスタ侯爵夫人はサーラ様達が幼かったころに、蜂毒で亡くなっています。
その際、サーラ様も蜂に刺されたのだそうです。
コスタ侯爵は養蜂業から手を引き、サーラ様を危険と思われる場所に行かせないことで守っていらっしゃいました。ですがパトリツィオ様は、蜂毒の解毒剤を研究することでお母様の無念を晴らし、サーラ様を守ろうとなさっていたのです。
……無口な方なので、全然伝わっていませんでしたが。
学園に入学して騎士科の授業を見学して、これまで以上にカストロ様が心配になった私がサーラ様を通じてパトリツィオ様に蜂毒の解毒剤を注文したことで、おふたりの仲にも変化が起きました。
パトリツィオ様とお話になったサーラ様が、彼の気持ちを知ったからです。
今のサーラ様とパトリツィオ様は、仲の良いご兄妹です。
「それよりスザンナ」
「なんですか、サーラ様」
「新しい婚約者に、うちのお兄様はいかが? せっかく顔が良いのに無口でなにを考えているのかわからない兄だけど、貴女ならお兄様の良さをわかってくださるでしょう?」
「……サーラ」
サーラ様の言葉に私が目を白黒させていると、パトリツィオ様が彼女の名前を呼んで窘めてくださいました。
「ふふっ。でも悪い話ではないと思うわよ? 私、スザンナが妹になったら嬉しいわ」
「その場合、私のほうが姉になるのではないでしょうか?」
「あら、私が姉よ。私のクリスティアンはお兄様より年上だもの」
クリスティアン様はサーラ様の婚約者でコスタ侯爵家の家臣の方です。
今はコスタ侯爵家の領地のほうで、次期当主の婚約者として鍛えられていると聞いています。
サーラ様は子どものころから彼が好きだったのだそうです。跡取り娘になったおかげで彼を婿に出来るようになったのだと、嬉しそうにおっしゃっていました。
パトリツィオ様が当主の座を妹のサーラ様に譲ったのは、研究に没頭したいからだけではなかったのかもしれません。
……余計なことだったかもしれませんが、パトリツィオ様の解毒剤があれば、これからのカストロ様も安心でしょう。
こうして、いつまでも心配と称して執着していてはいけないとわかっています。
だけど私の心には今でも、襲い来る蜂から私を守ってくれた幼い騎士の姿が輝いているのです。
「ああ、そうだね。婚約関係でなくなったのなら、そこまでは出来ないだろう」
「父にもお願いしたのですが、パトリツィオ様のほうからもブルーノ伯爵家にお勧めしていただけないでしょうか」
薬には使用期限というものがあります。
年月によって薬効が劣化して、効き目が無くなってしまうのです。
私は使用期限が切れる前に新しいものを注文して、ブルーノ伯爵家に届けていただいていました。
もちろん養蜂業が盛んな国なので、貴族家にも学園にも解毒剤は常備されています。
でもそういったものは使用期限が長い分、薬効が弱いのです。
パトリツィオ様の研究で創り出された新しい解毒剤は、使用期限が短い代わりに薬効が強いものでした。学園に入学してサーラ様と出会い、パトリツィオ様の研究についてお聞きしてからは我がビアンキ伯爵家も研究への支援をさせていただいています。
パトリツィオ様が優しい微笑みを浮かべて首肯してくださいます。
「わかった。私のほうからブルーノ伯爵家に話をしてみよう」
「お兄様に商品の売り込みなんか出来るのかしら? スザンナと知り合って蜂毒の恐ろしさを教えてもらわなかったら私、今でもお兄様は毒の研究に明け暮れる変わり者だと思っていたわよ。なにもおっしゃってくださらなかったのだもの!」
コスタ侯爵夫人はサーラ様達が幼かったころに、蜂毒で亡くなっています。
その際、サーラ様も蜂に刺されたのだそうです。
コスタ侯爵は養蜂業から手を引き、サーラ様を危険と思われる場所に行かせないことで守っていらっしゃいました。ですがパトリツィオ様は、蜂毒の解毒剤を研究することでお母様の無念を晴らし、サーラ様を守ろうとなさっていたのです。
……無口な方なので、全然伝わっていませんでしたが。
学園に入学して騎士科の授業を見学して、これまで以上にカストロ様が心配になった私がサーラ様を通じてパトリツィオ様に蜂毒の解毒剤を注文したことで、おふたりの仲にも変化が起きました。
パトリツィオ様とお話になったサーラ様が、彼の気持ちを知ったからです。
今のサーラ様とパトリツィオ様は、仲の良いご兄妹です。
「それよりスザンナ」
「なんですか、サーラ様」
「新しい婚約者に、うちのお兄様はいかが? せっかく顔が良いのに無口でなにを考えているのかわからない兄だけど、貴女ならお兄様の良さをわかってくださるでしょう?」
「……サーラ」
サーラ様の言葉に私が目を白黒させていると、パトリツィオ様が彼女の名前を呼んで窘めてくださいました。
「ふふっ。でも悪い話ではないと思うわよ? 私、スザンナが妹になったら嬉しいわ」
「その場合、私のほうが姉になるのではないでしょうか?」
「あら、私が姉よ。私のクリスティアンはお兄様より年上だもの」
クリスティアン様はサーラ様の婚約者でコスタ侯爵家の家臣の方です。
今はコスタ侯爵家の領地のほうで、次期当主の婚約者として鍛えられていると聞いています。
サーラ様は子どものころから彼が好きだったのだそうです。跡取り娘になったおかげで彼を婿に出来るようになったのだと、嬉しそうにおっしゃっていました。
パトリツィオ様が当主の座を妹のサーラ様に譲ったのは、研究に没頭したいからだけではなかったのかもしれません。
……余計なことだったかもしれませんが、パトリツィオ様の解毒剤があれば、これからのカストロ様も安心でしょう。
こうして、いつまでも心配と称して執着していてはいけないとわかっています。
だけど私の心には今でも、襲い来る蜂から私を守ってくれた幼い騎士の姿が輝いているのです。
316
あなたにおすすめの小説
前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!
お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。
……。
…………。
「レオくぅーん!いま会いに行きます!」
妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる
ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。
でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。
しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。
「すまん、別れてくれ」
「私の方が好きなんですって? お姉さま」
「お前はもういらない」
様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。
それは終わりであり始まりだった。
路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。
「なんだ? この可愛い……女性は?」
私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。
ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。
夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。
ゆずこしょう
恋愛
女騎士として働いてきて、やっと幼馴染で許嫁のアドルフと結婚する事ができたエルヴィール(18)
しかし半年後。魔物が大量発生し、今度はアドルフに徴集命令が下った。
「俺は魔物討伐なんか行けない…お前の方が昔から強いじゃないか。か、かわりにお前が行ってきてくれ!」
頑張って伸ばした髪を短く切られ、荷物を持たされるとそのまま有無を言わさず家から追い出された。
そして…5年の任期を終えて帰ってきたエルヴィールは…。
“ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う
棚から現ナマ
恋愛
いままで虐げられてきたから “ざまぁ” をします……。だけど、思っていたのと何だか違う? 侯爵令嬢のアイリス=ハーナンは、成人を祝うパーティー会場の中央で、私から全てを奪ってきた両親と妹を相手に “ざまぁ” を行っていた。私の幼馴染である王子様に協力してもらってね! アーネスト王子、私の恋人のフリをよろしくね! 恋人のフリよ、フリ。フリって言っているでしょう! ちょっと近すぎるわよ。肩を抱かないでいいし、腰を抱き寄せないでいいから。抱きしめないでいいってば。だからフリって言っているじゃない。何で皆の前でプロポーズなんかするのよっ!! 頑張って “ざまぁ” しようとしているのに、何故か違う方向に話が行ってしまう、ハッピーエンドなお話。
他サイトにも投稿しています。
【完結】好きになったら命懸けです。どうか私をお嫁さんにして下さいませ〜!
金峯蓮華
恋愛
公爵令嬢のシャーロットはデビュタントの日に一目惚れをしてしまった。
あの方は誰なんだろう? 私、あの方と結婚したい!
理想ドンピシャのあの方と結婚したい。
無鉄砲な天然美少女シャーロットの恋のお話。
婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。
石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。
その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。
実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。
初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。
こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。
婚約破棄されても賞金稼ぎなので大丈夫ですわ!
豆狸
恋愛
お母様が亡くなって父が愛人親娘を伯爵邸に連れ込んでから、私はこの賞金稼ぎの仕事をするようになりました。
まずはお金がないとなにも出来ないのですもの。
実は予感がするのです。いつかあの三人──今はイリスィオ様も含めた四人が私に牙を剥くと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる