婚約破棄の裏側で

豆狸

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第八話 襲撃の夜

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(考えてみれば、白紙撤回で良かったかもな)

 王都にあるブルーノ伯爵邸。
 夜の自室で、カストロはスザンナとのことを思う。

(破棄ならば、婚約をしていたという記録は残る。白紙撤回で、初めから婚約自体がなかったということになったほうがせいせいする)

 カストロは、自分を突き落としたのはスザンナだと信じて疑っていない。
 調べても該当者が出なかったのが、なによりの証拠だ。
 花束に入っていた蜂もスザンナの仕業で間違いない。あれを見つけてくれたのはネメジだった。デモネからの見舞いの花束を届けに来てくれたネメジが見つけてくれたのだった。やっぱりね、と彼は言っていた。

(ネメジには世話になってるな……)

 学園で偶然スザンナと会ったときも、ネメジは彼女が怒りを滾らせて攻撃的にならないようにしなくてはいけないと、カストロに忠告してくれていた。
 階段から落ちたときに叫んだせいで、デモネと自分のことは知れ渡ってしまった。
 両親と兄はカストロとデモネを別れさせようとしたが、ネメジがふたりの手紙を運んでくれたことで引き裂かれずに済んだのだ。

(今夜も……)

 スザンナとの婚約が白紙撤回されて、渋々ながらも家族がカストロとデモネのことを認めてくれたものの、彼女がブルーノ伯爵邸を訪れることは禁じられている。
 学園を卒業したらカストロは家を追い出される。
 騎士になってデモネと結婚した後も、家へ戻ることは許さないと言われていた。

(浮気されたくらいで俺を殺そうとしたスザンナよりも、デモネのほうが素晴らしい女なのに。下積み騎士との貧しい生活でも、愛人ではなく正式な妻になれることが嬉しいと言ってくれたんだ。みんなが言うような金目当ての女ではないんだ!)

 カストロは、卒業するまでデモネに会いに行くな、とも命じられていた。
 会いに行ったら今すぐ家を追い出されて、学園に通うための学費も出してもらえなくなる。
 学園を退学になったら騎士にはなれないし、騎士になれなかったらデモネを養うことは出来ない。

 結婚後に彼女の酒場での稼ぎに頼るのは嫌だった。
 カストロは結婚したらすぐに、デモネには酒場での仕事を辞めてもらいたかった。
 あの酒場に来る客にはタチの悪いやからがいる。下町の闇に潜む裏社会の住人だ。

(酔客からデモネを庇ったのが、俺達の出会いだったよな……)

 幸せな記憶をたどりながら、カストロは家人が寝静まる時間になっても開けたままの自室の窓を見た。
 今夜、デモネがこの窓から会いに来てくれるのだ。
 卒業までにはまだ数ヶ月ある。そんなに会えないのは辛いだろうと、ネメジが手配してくれた。

(本当に、あいつにはどれだけ感謝してもし足りないな)

 ベッドの横の窓枠に手が置かれるのがわかった。
 カストロの部屋は二階にあるので、デモネが登れるように縄を垂らしてある。
 室内は暗い。明かりをつけたままにしていると、使用人が心配して現れるかもしれないからだ。

「……デモネ……」

(俺が抜け出して酒場に行ったほうが良かっただろうか。……今度はそうしよう)

 そんなことを思いながらベッドに上がって窓に近寄ったカストロは、登って来た人物に殴られた。
 騎士として鍛えて来たカストロだが、足を怪我して一ヶ月寝込んでいた後なので筋肉が落ちている。騎士科の授業でも基礎体力をつける訓練をしていた。
 弱った体では満足な抵抗も出来ず、そのままベッドに押し倒されて、顔に枕を押し付けられる。

 ──窓からやってきた人物はデモネではなかった。
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