13 / 36
第10話:代償の光 ― カナタ章 ―
しおりを挟む
夜明け前の街は静まり返り、遠くで緊急サイレンだけが鳴り響いていた。
昨日の裂け目から神殿への誘導で少し酷使した手のひらに、軽く痺れるような感覚を覚える。
「……まだ、少し痺れる……」
そう呟き、カナタは手のひらを軽く振る。
その時、月神殿から緊急通信が入る。翼竜の増殖が周辺区を侵食し、一部の地区が壊滅状態になりつつあるという知らせだった。
現場へ向かったカナタの目の前には、翼竜の大群と怯える民間人たち。
服部が指揮を執っていたが、状況は明らかに劣勢だ。
「カナタ!増殖源は地下の裂け目だ。封じ込められるか?」
「大丈夫です。行きます。」
カナタは深く息を吸い、体の奥に押し込めてきた力をゆっくりと解き放つ。
瓦礫が浮き、光の壁が空間を包む。民間人たちの傷は次々と淡い光に包まれていく。
翼竜はじりじりと後退する。
だが、昨夜の無理が確実に体を蝕んでいた。光の壁を維持するたび、手のひらの光は震え、体が重くなる。意識の端に薄暗い不安が漂う。
「限界が来てるだろ。下がれ!」
「僕なら……大丈夫です。」
言葉とは裏腹に、力が入らず指先の震えは止まらない。視界は徐々に狭まっていく。それでも増殖を止めなければ街は崩壊する。 カナタは最後の力を注ぎ込み、眩い光を放ち続けた。
その瞬間、膝から力が抜ける。
「……あっ……」
「カナタ!」
服部は咄嗟に飛び込み、カナタを抱き留めた。
意識が薄れゆくカナタは少年らしい弱音をこぼした。
「……少し、無理を……すみません」
服部はその囁きを聞き、眉を寄せる。
「大丈夫だ、カナタ。民間人たちは無事だ。……もう十分だ」
その言葉にカナタは、ふっと安心したように微笑むと、完全に意識を手放した。
それを見ていたかのように緊急帰還命令が出た。
――月神子カナタを至急帰還させよーー
命令と共に服部はカナタを抱きかかえたまま、急いで月神殿へ向かう。胸の奥には不安と、微かな違和感があった。
――なんだ、あの帰還命令のタイミング。それにこいつ……やはりただの月神子じゃない。あの光の出力は、普通じゃない……
――
目を開けると、柔らかな光が視界に入る。
「……ここは……」
天井の装飾、壁のモニター、静かな電子音。ここは月神殿の医療区の特別治療室だった。
起き上がろうとすると、体が軽くふらつく。試しに手のひらに力を集めようとするが、力の流れがいつもよりわずかに重い。
その時、扉が開き、服部が心配そうに速足で近づいてくる。
「大丈夫か」
カナタは少年らしい目で笑みを返す。
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
服部は腕を組んだまま、困ったように苦笑いした。
「大丈夫かどうかは、本人の言葉じゃなくて状況で判断したいんだが……。昨日のあの力、本当に普通じゃなかったぞ」
カナタは肩をすくめて静かに笑う。
「必要だったので」
その瞬間、神殿の監視室から通信が届く。
「月神子。昨日の任務中の出力は想定を超過。体調管理の指示を受けてください」
「……分かりました」
通信室からの淡々とした声には、明らかな警戒が滲んでいた。
健康管理の名目の奥には、カナタの力の異質さを探る視線がある。 カナタは気づかないふりをして目を伏せた。
服部がそっと肩に手を置く。
「昨日は本当に助かった。ありがとな。」
「こちらこそ……皆さんが無事でなによりです」
言葉は多くないが、二人の間には確かな信頼が生まれていた。
カナタはベッドの上で軽く伸びをして、窓越しに外の空を見上げた。街はまだ混乱している。しかし遠くの月は、何もないかのように静かに部屋へ光を差し込ませていた。
「……守らないと」
その呟きには、静かな決意が宿っていた。
あの力……ただの月神子じゃない、特別すぎる……
服部の視線は、胸に微かな疑問と上層部への警戒を残した。
昨日の裂け目から神殿への誘導で少し酷使した手のひらに、軽く痺れるような感覚を覚える。
「……まだ、少し痺れる……」
そう呟き、カナタは手のひらを軽く振る。
その時、月神殿から緊急通信が入る。翼竜の増殖が周辺区を侵食し、一部の地区が壊滅状態になりつつあるという知らせだった。
現場へ向かったカナタの目の前には、翼竜の大群と怯える民間人たち。
服部が指揮を執っていたが、状況は明らかに劣勢だ。
「カナタ!増殖源は地下の裂け目だ。封じ込められるか?」
「大丈夫です。行きます。」
カナタは深く息を吸い、体の奥に押し込めてきた力をゆっくりと解き放つ。
瓦礫が浮き、光の壁が空間を包む。民間人たちの傷は次々と淡い光に包まれていく。
翼竜はじりじりと後退する。
だが、昨夜の無理が確実に体を蝕んでいた。光の壁を維持するたび、手のひらの光は震え、体が重くなる。意識の端に薄暗い不安が漂う。
「限界が来てるだろ。下がれ!」
「僕なら……大丈夫です。」
言葉とは裏腹に、力が入らず指先の震えは止まらない。視界は徐々に狭まっていく。それでも増殖を止めなければ街は崩壊する。 カナタは最後の力を注ぎ込み、眩い光を放ち続けた。
その瞬間、膝から力が抜ける。
「……あっ……」
「カナタ!」
服部は咄嗟に飛び込み、カナタを抱き留めた。
意識が薄れゆくカナタは少年らしい弱音をこぼした。
「……少し、無理を……すみません」
服部はその囁きを聞き、眉を寄せる。
「大丈夫だ、カナタ。民間人たちは無事だ。……もう十分だ」
その言葉にカナタは、ふっと安心したように微笑むと、完全に意識を手放した。
それを見ていたかのように緊急帰還命令が出た。
――月神子カナタを至急帰還させよーー
命令と共に服部はカナタを抱きかかえたまま、急いで月神殿へ向かう。胸の奥には不安と、微かな違和感があった。
――なんだ、あの帰還命令のタイミング。それにこいつ……やはりただの月神子じゃない。あの光の出力は、普通じゃない……
――
目を開けると、柔らかな光が視界に入る。
「……ここは……」
天井の装飾、壁のモニター、静かな電子音。ここは月神殿の医療区の特別治療室だった。
起き上がろうとすると、体が軽くふらつく。試しに手のひらに力を集めようとするが、力の流れがいつもよりわずかに重い。
その時、扉が開き、服部が心配そうに速足で近づいてくる。
「大丈夫か」
カナタは少年らしい目で笑みを返す。
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」
服部は腕を組んだまま、困ったように苦笑いした。
「大丈夫かどうかは、本人の言葉じゃなくて状況で判断したいんだが……。昨日のあの力、本当に普通じゃなかったぞ」
カナタは肩をすくめて静かに笑う。
「必要だったので」
その瞬間、神殿の監視室から通信が届く。
「月神子。昨日の任務中の出力は想定を超過。体調管理の指示を受けてください」
「……分かりました」
通信室からの淡々とした声には、明らかな警戒が滲んでいた。
健康管理の名目の奥には、カナタの力の異質さを探る視線がある。 カナタは気づかないふりをして目を伏せた。
服部がそっと肩に手を置く。
「昨日は本当に助かった。ありがとな。」
「こちらこそ……皆さんが無事でなによりです」
言葉は多くないが、二人の間には確かな信頼が生まれていた。
カナタはベッドの上で軽く伸びをして、窓越しに外の空を見上げた。街はまだ混乱している。しかし遠くの月は、何もないかのように静かに部屋へ光を差し込ませていた。
「……守らないと」
その呟きには、静かな決意が宿っていた。
あの力……ただの月神子じゃない、特別すぎる……
服部の視線は、胸に微かな疑問と上層部への警戒を残した。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~
Masa&G
ファンタジー
王女セリーナが連れ去られた。犯人は、貧しい村出身の二人の男。だが、彼らの瞳にあったのは憎しみではなく――痛みだった。
閉ざされた小屋で、セリーナは知る。彼らが抱える“事情”と、王国が見落としてきた現実に。
恐怖、怒り、そして理解。交わるはずのなかった三人の心が、やがて静かに溶け合っていく。
「助けてあげて」。母の残した言葉を胸に、セリーナは自らの“選択”を迫られる。
――これは、王女として生きる前に、人としての答えを、彼女は見つけにいく。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる