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第十話 はじめての王都。
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ウィンヘイム伯爵領から王都へと向かう短い旅。朝早く領を出て、きがつけば昼を過ぎていた。
お昼ごはんは屋敷から持参したお弁当で済ませた。本来フィリップはこの時間、騎士団へ勤務している。そのため父と母と一緒に食べる昼ごはんは、久しぶりだったからか、アーシェリヲンは嬉しく思えた。
窓の隙間から、すれ違う馬車などが時折目にできるようになった。御者席に座る家人が言うには、そろそろ王都へ着くとのことだ。
フィリップが以前話してくれた言葉が気に入っていた。それは『我々貴族は領民に食べさせてもらっている。だから領民を守らなければならないんだ』というものだった。
王都が近づくにつれて、自分が授かる加護がどんなものか気になってくる。父のような加護を授かって強くなれば、王国の人たちを守ることができる。エリシアのような加護を授かれば、人々を癒やしてあげられる。
そんな考えが、アーシェリヲンの頭の中でぐるぐる回っていた。だから少しだけ不安な表情になってしまったのだろう。ただそんな不安は、彼の手をエリシアがにそっと包んでくれる温かさから紛れていたのかもしれない。
ややあって、アーシェリヲンたちが乗る馬車は王都へたどり着いた。窓の隙間から見えていた海はどこへやら? 外は綺麗な町並みが続く景色へと変わっていた。
城下町に入ると、馬車が余裕で通れる幅の道が続いている。王城へ続くであろうこちら側と、アーシェリヲンたちが来た、城下町の外へ向かう道が分離帯のような石組みで別れている。
アーシェリヲンたちが向かっているのは王城ではない。徐々に人の姿が多くなっていくと、商店が建ち並ぶ地区に入ったようだ。
馬車の速度が落ちていくと、沢山の人が列をなして並んでいる場所にたどり着く。その建物には『れすとらん』という看板がついていた。
「お父さん、お母さん。あれ、『れすとらん』って書いてあるよ? あぁああ、通り過ぎちゃった……」
その『れすとらん』と書いてあった建物のある角を回ると、その裏側へ続く横道に馬車は入っていく。おそらく同じ建物の裏側なのだろう。大きな門があって、ゆっくりと開いていく。そこへアーシェリヲンたちの馬車が入っていく。馬車が入りきると、門が閉まっていった。
おそらくここは神殿の通用門なのだろう。御者をしていた家人は、入場の手続きをしているようだ。そのためまだ、馬車のドアが開いていない。
「アーシェ。『れすとらん』と神殿はね、同じ建物にあるんだよ」
「そうなの? お父さん、あ、お父様」
「んー、なんだかくすぐったいな。でもそうだよ」
「アーシェ」
「はい、おかあ、んー。お母様」
「いい子ね。洗礼が終わったらね、ここで一緒に晩ごはんを食べましょうか?」
「いいの?」
「えぇ。洗礼が終わったあとならね、外へ出てもそれほど問題ではないの」
「そうだな。それなら俺も久しぶりに――」
「あら? あなたは王都へ来たときは毎回食べてると聞いていましたけど?」
「いやその、だな。アーシェにバラさなくてもいいじゃないか……。それにほらな、俺はひとりじゃなく、部下を連れてきているから――」
「はいはいはい。アーシェ、さっさと洗礼を終わらせてしまいましょう。今夜は王都に泊まるの。ここにはね、お母さんのいたお屋敷があるのよ」
正確には、ウィンヘイム本家であり侯爵家。『れすとらん』で『うぇいとれす』をしていたときに、お世話になっていた屋敷が王都にはあるのだ。そこへ宿泊することになっている。テレジアが洗礼をした際もこちらへ宿泊し、『れすとらん』でお祝いをしたのだった。
「はい。お母様。楽しみです」
入場の手続きが終わったようで、馬車のドアが開いた。
「お待たせ致しました。お入りくださいとのことです」
「ありがとう」
最初にフィリップが出て、次にエリシアが出る。その際は、フィリップがエリシアに手を差し伸べていた。最後にアーシェリヲンが出ると、エリシアが彼を抱き上げてしまう。
「アーシェリヲン様、十歳の誕生日、おめでとうございます。では、いってらっしゃいませ」
御者を務めてくれていた家人が深々と一礼をする。
「うん。ありがとう」
家人はこのあと、ここでただ待っているわけではない。アーシェリヲンが洗礼を受ける際の、『お布施』を納入することになっている。
ウィンヘイム伯爵家が用意したものは、領内で採れたばかりで脱穀前の小麦が入った麻袋を複数個と、果実を乾燥させて作ったドライフルーツの入った樽が複数個。
合わせるとそれなりに高価な代物になってしまうが、食料品であれば喜んで受け取ってもらえる。これらはすべて、『れすとらん』や神殿で消費される。神殿で受け取ってもらえる『お布施』は、いわば仕入れみたいなものなのだろう。
ここ、ユカリコ教の神殿と呼ばれる建物は、『れすとらん』区画、運営する神殿の区画、ユカリコ教の礼拝堂、この三つが含まれている。
一般の子供たちが洗礼を受けるのは礼拝堂。だがこの国を含めた王族の王子や王女、貴族の子女らは、洗礼後に『お披露目』をする習慣があることから人目に触れるわけにはいかない。
そのため、礼拝堂ではなく神殿区画の一室にある個室で洗礼を受けることになっていた。アーシェリヲンも貴族の一員であることから、こちらの一室で洗礼を受ける予定になっている。
神殿に入ると、巫女が案内役として待っていた。藤色の衣服を身に纏った姿は、神の使いというよりは高級な宿の従業員に見えてしまう。なぜなら、彼らが纏っているものは、表にある『れすとらん』の『うぇいとれす』が身につける制服と似ているからだろう。
さきほどチラリと見えた『れすとらん』の『うぇいとれす』の制服。確かにアーシェリヲンが見ても可愛らしく、綺麗に見えたはずだ。
巫女に案内されて到着した場所は、エリシアとフィリップには見覚えのある場所。テレジアもエリシアはもちろん、騎士爵家で生まれたフィリップもここで洗礼を受けた。
神殿の一番奥にある部屋で、十メートルくらい四方の広さがある。壁の色は落ち着ける白に近い薄紫。床は木製の材料で組まれたもの。これらは『れすとらん』でも使われている建材だ。
清涼感のある香りが漂っているのはおそらく、香草を使っているのかもしれない。緊張しているだろう、洗礼を受ける子たちを考えてのことだと思われる。
お昼ごはんは屋敷から持参したお弁当で済ませた。本来フィリップはこの時間、騎士団へ勤務している。そのため父と母と一緒に食べる昼ごはんは、久しぶりだったからか、アーシェリヲンは嬉しく思えた。
窓の隙間から、すれ違う馬車などが時折目にできるようになった。御者席に座る家人が言うには、そろそろ王都へ着くとのことだ。
フィリップが以前話してくれた言葉が気に入っていた。それは『我々貴族は領民に食べさせてもらっている。だから領民を守らなければならないんだ』というものだった。
王都が近づくにつれて、自分が授かる加護がどんなものか気になってくる。父のような加護を授かって強くなれば、王国の人たちを守ることができる。エリシアのような加護を授かれば、人々を癒やしてあげられる。
そんな考えが、アーシェリヲンの頭の中でぐるぐる回っていた。だから少しだけ不安な表情になってしまったのだろう。ただそんな不安は、彼の手をエリシアがにそっと包んでくれる温かさから紛れていたのかもしれない。
ややあって、アーシェリヲンたちが乗る馬車は王都へたどり着いた。窓の隙間から見えていた海はどこへやら? 外は綺麗な町並みが続く景色へと変わっていた。
城下町に入ると、馬車が余裕で通れる幅の道が続いている。王城へ続くであろうこちら側と、アーシェリヲンたちが来た、城下町の外へ向かう道が分離帯のような石組みで別れている。
アーシェリヲンたちが向かっているのは王城ではない。徐々に人の姿が多くなっていくと、商店が建ち並ぶ地区に入ったようだ。
馬車の速度が落ちていくと、沢山の人が列をなして並んでいる場所にたどり着く。その建物には『れすとらん』という看板がついていた。
「お父さん、お母さん。あれ、『れすとらん』って書いてあるよ? あぁああ、通り過ぎちゃった……」
その『れすとらん』と書いてあった建物のある角を回ると、その裏側へ続く横道に馬車は入っていく。おそらく同じ建物の裏側なのだろう。大きな門があって、ゆっくりと開いていく。そこへアーシェリヲンたちの馬車が入っていく。馬車が入りきると、門が閉まっていった。
おそらくここは神殿の通用門なのだろう。御者をしていた家人は、入場の手続きをしているようだ。そのためまだ、馬車のドアが開いていない。
「アーシェ。『れすとらん』と神殿はね、同じ建物にあるんだよ」
「そうなの? お父さん、あ、お父様」
「んー、なんだかくすぐったいな。でもそうだよ」
「アーシェ」
「はい、おかあ、んー。お母様」
「いい子ね。洗礼が終わったらね、ここで一緒に晩ごはんを食べましょうか?」
「いいの?」
「えぇ。洗礼が終わったあとならね、外へ出てもそれほど問題ではないの」
「そうだな。それなら俺も久しぶりに――」
「あら? あなたは王都へ来たときは毎回食べてると聞いていましたけど?」
「いやその、だな。アーシェにバラさなくてもいいじゃないか……。それにほらな、俺はひとりじゃなく、部下を連れてきているから――」
「はいはいはい。アーシェ、さっさと洗礼を終わらせてしまいましょう。今夜は王都に泊まるの。ここにはね、お母さんのいたお屋敷があるのよ」
正確には、ウィンヘイム本家であり侯爵家。『れすとらん』で『うぇいとれす』をしていたときに、お世話になっていた屋敷が王都にはあるのだ。そこへ宿泊することになっている。テレジアが洗礼をした際もこちらへ宿泊し、『れすとらん』でお祝いをしたのだった。
「はい。お母様。楽しみです」
入場の手続きが終わったようで、馬車のドアが開いた。
「お待たせ致しました。お入りくださいとのことです」
「ありがとう」
最初にフィリップが出て、次にエリシアが出る。その際は、フィリップがエリシアに手を差し伸べていた。最後にアーシェリヲンが出ると、エリシアが彼を抱き上げてしまう。
「アーシェリヲン様、十歳の誕生日、おめでとうございます。では、いってらっしゃいませ」
御者を務めてくれていた家人が深々と一礼をする。
「うん。ありがとう」
家人はこのあと、ここでただ待っているわけではない。アーシェリヲンが洗礼を受ける際の、『お布施』を納入することになっている。
ウィンヘイム伯爵家が用意したものは、領内で採れたばかりで脱穀前の小麦が入った麻袋を複数個と、果実を乾燥させて作ったドライフルーツの入った樽が複数個。
合わせるとそれなりに高価な代物になってしまうが、食料品であれば喜んで受け取ってもらえる。これらはすべて、『れすとらん』や神殿で消費される。神殿で受け取ってもらえる『お布施』は、いわば仕入れみたいなものなのだろう。
ここ、ユカリコ教の神殿と呼ばれる建物は、『れすとらん』区画、運営する神殿の区画、ユカリコ教の礼拝堂、この三つが含まれている。
一般の子供たちが洗礼を受けるのは礼拝堂。だがこの国を含めた王族の王子や王女、貴族の子女らは、洗礼後に『お披露目』をする習慣があることから人目に触れるわけにはいかない。
そのため、礼拝堂ではなく神殿区画の一室にある個室で洗礼を受けることになっていた。アーシェリヲンも貴族の一員であることから、こちらの一室で洗礼を受ける予定になっている。
神殿に入ると、巫女が案内役として待っていた。藤色の衣服を身に纏った姿は、神の使いというよりは高級な宿の従業員に見えてしまう。なぜなら、彼らが纏っているものは、表にある『れすとらん』の『うぇいとれす』が身につける制服と似ているからだろう。
さきほどチラリと見えた『れすとらん』の『うぇいとれす』の制服。確かにアーシェリヲンが見ても可愛らしく、綺麗に見えたはずだ。
巫女に案内されて到着した場所は、エリシアとフィリップには見覚えのある場所。テレジアもエリシアはもちろん、騎士爵家で生まれたフィリップもここで洗礼を受けた。
神殿の一番奥にある部屋で、十メートルくらい四方の広さがある。壁の色は落ち着ける白に近い薄紫。床は木製の材料で組まれたもの。これらは『れすとらん』でも使われている建材だ。
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