劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ

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第五十七話 逆鱗一歩手前。

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「アーシェリヲンさんとリルメイヤーさんが長期間眠らされていた技術は、おそらく、人体実験を繰り返した結果の産物だと思われます。例えば、『深眠薬』は、せいぜい数日の効果しかありません。ですがそれを悪用したものと考えていくと、辻褄があってくるというものなのです。この魔道具がその効果を持続させるものであるなら、死んでいるのに近い状態を維持していた。そうすることで、揺れや音などの外的要因を排除できていたのでしょう」

 ヘイルウッドのいうことは、いわゆる仮死状態と同じことなのだろう。

「私も加護の資料を調べましたが、一ヶ月という長い間作用させることの可能なものは存在しませんでした。魔法は一度かけたものを永遠に継続させることは不可能です。唯一可能なのは、死を与えることだけ。薬と魔道具を重ねた結果だとして、アーシェリヲンさんが目を覚ましたあとも、リルメイヤーさんがまだ眠っていた。その違いはきっと、アーシェリヲンさんが持つ、魔力抵抗の高さが関係しているのかもしれませんね」

 アーシェリヲンがリルメイヤーの手枷足枷を外したことによって、眠りの状態が弱まった。あくまでも推測でしかないが、あながち外れではないのだろう。

「この事件をすべて解析し終えるには、膨大な時間と手間がかかるでしょう。今後のことを考えて、解析は続けていくべきだとは思います。ですが此度こたびの場合、その結果を待つよりも、諸悪の根源を絶つのが先だと判断しました」

 ヘイルウッドは後々必要になるだろう防衛策よりも、今すぐ対処が必要だと言っている。アーシェリヲンにもそれは十分わかっていることだろう。

「それでですね、アーシェリヲンさん」

 クレイディアが笑顔で話しかける。何かいいことがあったのだろうか、アーシェリヲンはそう思っただろう。だが、彼は気づいていない。彼女の目だけが笑っていなかったことを。

「私たちユカリコ教は、この事件の裏にいると思われる者が、この国のどこかにいると予想しているのです」
「え?」
「確かにそうですね。アーシェリヲンさんがいう場所は以前、事故よって廃棄せざるを得ない状況になった宿場町でした。ですが徒歩で三日程度の距離しかない場所なのに、いまだ復興させていない。そんな場所なのです……」
「え?」
「時間をかけて裏付けをとり、ことを明るみにすることも可能でしょう。ですが、私たちユカリコ教は総司祭長の意向により、昨日のうちに、ユカリコ教としてこの国に圧力をかけることを決定したのです」
「え?」
「それは偶然ですね。我々探索者協会も昨日、同様に圧力をかけさせてもらいました」
「え?」

 ヘイルウッドも笑顔だったが、目は同じように笑っていない。アーシェリヲンにはさっぱりわけがわからない状況。

「ユカリコ教は、この件が早急に片付かないと判断した場合、この国から撤退するであろうと、通知させていただいたわけです」
「え?」
「なるほど。我々と同じだったのですね。探索者協会も場合によっては撤退すると通知いたしました」
「え? え? 嘘ですよね?」
「本当ですよ、アーシェリヲンさん」
「えぇ、本気ですとも」
「そ、それでどうなったんですか?」
「はい。今朝方王家から緊急の通達がきました。王国騎士団と協力して事態にあたってほしいと。まさか国王自ら来られるとは思いませんでしたね」
「えぇ。私のところにも見えましたよ。憔悴しきっていましたね。自業自得です」
「えぇっ?」

 ヘイルウッドは、当たり前です、という表情。クレイディアは、苦笑していた。

「探索者協会もユカリコ教も、どうしてそこまでされるのですか?」
「我々探索者協会は、ヴェンダドール国王の意向です」
「え?」
「ユカリコ教についてはですね、あと数日したら、こちらにヴェルミナ様がいらっしゃいます。そとのきに直接おたずねになったらいいですよ」
「え? なんでヴェルミナさんが? でも陸路と海路で一ヶ月……」
「ユカリコ教には聖女ユカリコ様が残した、とても足の速い専用船があるのですよ。私も久しぶりにお会いするので楽しみにしているんです」
「……何がどうなっているんですか?」

 今回の騒動は、アーシェリヲンにとって予想外の展開になってしまう。ユカリコ教と探索者協会が、エリクアラード王国に圧力をかけてしまった。

 確かにユカリコ教も探索者協会も、国にありながら国に属さない組織である。もし撤退したとしたら、どれだけの損害になるだろう? 共存共栄をうたう両組織が、ここまでの行動に出るとは思えなかった。

「我々の調査でわかったことなのですが――」

 廃棄された宿場町には、誘拐犯の仲間と思われる者が今も出入りしているらしい。中一日しかなかったはずなのに、探索者の調査力は凄いものだと思わされた。

 あの宿場町は十年ほど前、当時の町長が亡くなったとき、町長宅が火事になってしまう。その後すぐに、盗賊らしき者たちが流れ込み、気がつけば暗部となってしまった。

 国と探索者協会が協力し、盗賊の排除を行ったのだが、到着する前に盗賊たちは町に火を放って逃げてしまう。そうして廃墟と化してしまった経緯があった。

 以前、また盗賊らしき人影を見かけたという情報が入るのだが、調査をする度に姿をくらます。噂が立つ度に調査をしたが結果は出ない。間違いなく宿場町が拠点となっているはずなのだが、いかんせん尻尾を出さない。それどころか、この国から宿場町までの距離では、ここ数年盗賊の被害が全くないのである。

 年に数回、調査に出かけていたのだが、思うような結果報告がない。昨年あたりから年に一度に変わり、それでも被害を受ける交易商人などの噂もなくなっていった。

 そこにきて今回の誘拐騒ぎ。もしかしたら、商人や旅人を襲うのではなく、目標を変えたのではないか? そう思ったのが昨日の話。

 探索者協会としては、『呪いの腕輪』を貸与したアーシェリヲンは将来を期待されている少年だ。そんな彼を誘拐されたとあっては、協会もそのような出方をするしかなかったのだろう。

 ドアがノックされる。

『お客様をお通ししてよろしいでしょうか?』
「はい。どうぞ」

 ドアを開けて入ってきたのは、ガルドランと比べても劣らない大男。

「クレイディア司祭長殿、失礼する」

 大柄なのにとても丁寧な会釈。アーシェリヲンも圧倒されるほどのものだ。

「いいえ、どういたしまして」

 身体を起こした彼の胸元には、カードがぶら下がっていた。そこに入っているラインは金色。アーシェリヲンの目も見えていたはずだ。

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