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第六十九話 師匠のメリルージュ。
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なんとアーシェリヲンは、表立って名乗れないとはいえ、グランダーグ王国の要人の子であった。
ガルドランは師匠のメリルージュに、アーシェリヲンを命がけで守れと命じられた。
「ところでなんでガル兄さんは、お母さんを知ってたんですか?」
「いえ、そのですね」
「ガル兄さんは僕の兄弟子なんですから、いつも通りでいいですって」
「……ふぅ。表ではなんとかする。でも助かった。それでな、俺の生まれた村はな、同じグランダーグにあるんだよ」
「え?」
「大陸の一番北にあるから、滅多に王都へ行くこともないし」
確かに、グランダーグは一つの国しかない大陸だが、それはかなり広大でもある。北の外れに村があったとしたら、アーシェリヲンでも覚え切れていない村もあっておかしくはないわけだ。
「なるほどですね。それならガルドランさんは」
「はい? なんですか?」
「アーシェリヲンちゃんの護衛騎士、ということになるんですね?」
「え? 俺がですか?」
ガルドランは何を言われたのかわからない状況。
「えぇそうよ。その代わりに、アーシェリヲンちゃんから言葉使いと振る舞いを学ぶようにね」
「も、もちろんですっ」
「大丈夫。フィリップくんもね、師匠の弟子なの」
「え? フィリップくんって、まさかあの騎士団長が、ですか?」
「そうよ。フィリップくんはね、何度か弟子入りを断られてるの」
「そうなんですか?」
アーシェリヲンは意外そうな表情をする。ガルドランもそう思っただろう。なにせ彼は、一度お願いしたら許可をもらえてしまったからだ。
「あのころね、貴族の子女たちがこぞって弟子になろうとしていた時期だったの。だからフィリップくんもその一人だと思われたのね。でも、何度も断られて、それでも諦めなかったから理由を聞いてくれたらしいの。そのとき、エリシアと結婚したいから、そう応えたらあっさり許可をもらえたそうなのね。その代わり、エリシアの婿に相応しいかどうか判断したの、師匠がね」
「なんという、……ということはまさか、ヴェンダドールの」
「えぇ。あそこのベリアスさんも師匠の弟子、わたくしの弟弟子よ。もちろん兄さんもわたくしの弟弟子。この界隈ではわたくしが一番早く、師匠の弟子になったんですもの」
ベリアス・ヴェンダドール。ヴェンダドール王国の現国王だ。だからヴェルミナが、ヴェンダドールすら動かそうとしたのには、そういう背景があったのだった。
「メリルージュ師匠って凄い人なんですね」
「えぇ。とても優しくて、ときに厳しくて、すごく良いお師匠さんなの」
「あれ? それなら探索者協会のガーミンさんは、お弟子さんなんですか?」
「そうです。あのおっさんは、どうなんですか?」
「あぁ、彼。彼は弟子ではないわ」
「え?」
「え?」
「だって彼は武官ではなく文官。ベリアスさんのお父様、先王の執事の息子だもの」
あれだけ立派な体格をしていながら、探索者上がりではなく文官だった。
「弟子入りをお願いしたそうだけど、師匠は教えることがないからと断ったそうなのよね……」
なんとも気の毒な話を知ってしまった。ガルドランは今度ガーミンと会ったら、少しは優しくできたらいいな、と思っただろう。
「アーシェリヲンちゃんに一つだけ偽りを教えてしまったのを謝らせてもらうわね」
「それはどんなことですか?」
「ヴェンダドールの神殿にいるウェルミナはね、わたくしの妹ではなくて、エリシアの一番上の姉。第一王女なの」
「そうだったんですか……」
ヴェルミナの話では、エリシアの姉たちは、各地の神殿で司祭長をしているとのこと。長女で第一王女のウェルミナは独身で、いずれヴェルミナの後を継いで総司祭長になることが決まっている。
第二王女、第三王女、第四王女、第五王女。四人に子はいるが、皆女の子しかおらず、第六王女のエリシアにだけ、男の子を授かった。本来であれば、王位継承はアーシェリヲンだったかもしれない。
「兄さんはね、テレジアちゃんを可愛がっているから、あの子を女王にするとか未だに言ってるんです」
「あー、そうですね。お爺ちゃんに撫でられるのを、お姉ちゃんはちょっと嫌がっていましたけど」
「そうなの?」
「はい。お姉ちゃんはお婆ちゃんのほうが好きなので」
「あらら。兄さん、残念だったのね」
笑っていいのか、どうしたらいいのか対応に悩むガルドラン。それでも、とんでもない事情を知ってしまった。
(これ、絶対に逃げられないぞ……)
ガルドランは、そう、覚悟を決めるのだった。
「そうそう、アーシェリヲンちゃん」
「なんですか?」
「レイラちゃんには、良くしてもらっているかしら?」
確か、レイラリースをアーシェリヲンの姉の代わりとして送り込んだものヴェルミナだったと聞いていた。
「はい。とても優しいです」
「それはそうよね。あの子はね、エリシアの上の姉。第五王女、アリシアの娘ですもの。それにあなたが生まれたばかりのときから、よく会いに行っていたみたいですからね」
「え? それじゃその、僕の本当のお姉ちゃんみたいじゃないですか?」
確かにレイラリースには、僅かだがエリシアの面影もあった。本当の従姉弟の間柄だったから、並んでいても姉弟のように見えたのだろう。
「そうね。『絶対に気に入ってもらって、いずれお婿さんにする』って張り切っていたのよ。アーシェリヲンちゃんが洗礼を受けるまではね」
「え?」
「だからエリシアもそうだったから、『うぇいとれす』になるんだって、アーシェリヲンちゃんが大好きなエリシアみたいになるんだって、小さなころから言ってたの。エリシアと同じ加護を授かって、また張り切っていたのよね」
「僕のせいで……」
「大丈夫よ。あの子は負けず嫌いで、絶対に諦めたりしない性格ですからね」
ガルドランは背筋に冷たいものを感じた。まだ小さかったあのとき、メリルージュに弟子入りしたときから、まさかこのようなことに巻き込まれるとは思っていなかった。
ガルドランが頭を痛めていたとき、司祭長室のドアが叩かれる。
『ヴェルミナ様。お客様をお通ししてもよろしいでしょうか?』
外から聞こえるのは、本来のここの主人、クレイディアだ。
「えぇ、お通ししてくださいな」
入ってきた女性を見て、アーシェリヲンとガルドランは絶句する。
「ご無沙汰しております、師匠」
「久しぶりね、ヴェルミナちゃん」
「……メリルージュ師匠?」
「し、師匠……」
お客様とは、メリルージュのことだったようだ。
「どう? 話は終わったかしら?」
「はい。ある程度ですが」
「それで、レイデットたちはどうしてたの?」
「はい。大変だったんです。兄さんと義姉さんが、自ら行くと言い出してしまって……」
ガルドランは師匠のメリルージュに、アーシェリヲンを命がけで守れと命じられた。
「ところでなんでガル兄さんは、お母さんを知ってたんですか?」
「いえ、そのですね」
「ガル兄さんは僕の兄弟子なんですから、いつも通りでいいですって」
「……ふぅ。表ではなんとかする。でも助かった。それでな、俺の生まれた村はな、同じグランダーグにあるんだよ」
「え?」
「大陸の一番北にあるから、滅多に王都へ行くこともないし」
確かに、グランダーグは一つの国しかない大陸だが、それはかなり広大でもある。北の外れに村があったとしたら、アーシェリヲンでも覚え切れていない村もあっておかしくはないわけだ。
「なるほどですね。それならガルドランさんは」
「はい? なんですか?」
「アーシェリヲンちゃんの護衛騎士、ということになるんですね?」
「え? 俺がですか?」
ガルドランは何を言われたのかわからない状況。
「えぇそうよ。その代わりに、アーシェリヲンちゃんから言葉使いと振る舞いを学ぶようにね」
「も、もちろんですっ」
「大丈夫。フィリップくんもね、師匠の弟子なの」
「え? フィリップくんって、まさかあの騎士団長が、ですか?」
「そうよ。フィリップくんはね、何度か弟子入りを断られてるの」
「そうなんですか?」
アーシェリヲンは意外そうな表情をする。ガルドランもそう思っただろう。なにせ彼は、一度お願いしたら許可をもらえてしまったからだ。
「あのころね、貴族の子女たちがこぞって弟子になろうとしていた時期だったの。だからフィリップくんもその一人だと思われたのね。でも、何度も断られて、それでも諦めなかったから理由を聞いてくれたらしいの。そのとき、エリシアと結婚したいから、そう応えたらあっさり許可をもらえたそうなのね。その代わり、エリシアの婿に相応しいかどうか判断したの、師匠がね」
「なんという、……ということはまさか、ヴェンダドールの」
「えぇ。あそこのベリアスさんも師匠の弟子、わたくしの弟弟子よ。もちろん兄さんもわたくしの弟弟子。この界隈ではわたくしが一番早く、師匠の弟子になったんですもの」
ベリアス・ヴェンダドール。ヴェンダドール王国の現国王だ。だからヴェルミナが、ヴェンダドールすら動かそうとしたのには、そういう背景があったのだった。
「メリルージュ師匠って凄い人なんですね」
「えぇ。とても優しくて、ときに厳しくて、すごく良いお師匠さんなの」
「あれ? それなら探索者協会のガーミンさんは、お弟子さんなんですか?」
「そうです。あのおっさんは、どうなんですか?」
「あぁ、彼。彼は弟子ではないわ」
「え?」
「え?」
「だって彼は武官ではなく文官。ベリアスさんのお父様、先王の執事の息子だもの」
あれだけ立派な体格をしていながら、探索者上がりではなく文官だった。
「弟子入りをお願いしたそうだけど、師匠は教えることがないからと断ったそうなのよね……」
なんとも気の毒な話を知ってしまった。ガルドランは今度ガーミンと会ったら、少しは優しくできたらいいな、と思っただろう。
「アーシェリヲンちゃんに一つだけ偽りを教えてしまったのを謝らせてもらうわね」
「それはどんなことですか?」
「ヴェンダドールの神殿にいるウェルミナはね、わたくしの妹ではなくて、エリシアの一番上の姉。第一王女なの」
「そうだったんですか……」
ヴェルミナの話では、エリシアの姉たちは、各地の神殿で司祭長をしているとのこと。長女で第一王女のウェルミナは独身で、いずれヴェルミナの後を継いで総司祭長になることが決まっている。
第二王女、第三王女、第四王女、第五王女。四人に子はいるが、皆女の子しかおらず、第六王女のエリシアにだけ、男の子を授かった。本来であれば、王位継承はアーシェリヲンだったかもしれない。
「兄さんはね、テレジアちゃんを可愛がっているから、あの子を女王にするとか未だに言ってるんです」
「あー、そうですね。お爺ちゃんに撫でられるのを、お姉ちゃんはちょっと嫌がっていましたけど」
「そうなの?」
「はい。お姉ちゃんはお婆ちゃんのほうが好きなので」
「あらら。兄さん、残念だったのね」
笑っていいのか、どうしたらいいのか対応に悩むガルドラン。それでも、とんでもない事情を知ってしまった。
(これ、絶対に逃げられないぞ……)
ガルドランは、そう、覚悟を決めるのだった。
「そうそう、アーシェリヲンちゃん」
「なんですか?」
「レイラちゃんには、良くしてもらっているかしら?」
確か、レイラリースをアーシェリヲンの姉の代わりとして送り込んだものヴェルミナだったと聞いていた。
「はい。とても優しいです」
「それはそうよね。あの子はね、エリシアの上の姉。第五王女、アリシアの娘ですもの。それにあなたが生まれたばかりのときから、よく会いに行っていたみたいですからね」
「え? それじゃその、僕の本当のお姉ちゃんみたいじゃないですか?」
確かにレイラリースには、僅かだがエリシアの面影もあった。本当の従姉弟の間柄だったから、並んでいても姉弟のように見えたのだろう。
「そうね。『絶対に気に入ってもらって、いずれお婿さんにする』って張り切っていたのよ。アーシェリヲンちゃんが洗礼を受けるまではね」
「え?」
「だからエリシアもそうだったから、『うぇいとれす』になるんだって、アーシェリヲンちゃんが大好きなエリシアみたいになるんだって、小さなころから言ってたの。エリシアと同じ加護を授かって、また張り切っていたのよね」
「僕のせいで……」
「大丈夫よ。あの子は負けず嫌いで、絶対に諦めたりしない性格ですからね」
ガルドランは背筋に冷たいものを感じた。まだ小さかったあのとき、メリルージュに弟子入りしたときから、まさかこのようなことに巻き込まれるとは思っていなかった。
ガルドランが頭を痛めていたとき、司祭長室のドアが叩かれる。
『ヴェルミナ様。お客様をお通ししてもよろしいでしょうか?』
外から聞こえるのは、本来のここの主人、クレイディアだ。
「えぇ、お通ししてくださいな」
入ってきた女性を見て、アーシェリヲンとガルドランは絶句する。
「ご無沙汰しております、師匠」
「久しぶりね、ヴェルミナちゃん」
「……メリルージュ師匠?」
「し、師匠……」
お客様とは、メリルージュのことだったようだ。
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