君は神様。

志子

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異世界転生

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 俺、ことマルク・フランソンはフランソン男爵の三男だ。焦げ茶色の髪と目をしていていかにもモブっぽい顔立ちをしている。

 貴族を名乗っているけどそれは名ばかりで領地はちっさく、これといった特産もなく、質素倹約をモットーに細々とやっている。

 下っ端だけど文官として王城に勤めている親父は、仕事が忙しいのと家が遠いということで滅多に帰ってこない。でもその代わりにこまめに手紙を送ってくる。手紙の内容は家に帰りたい、家族に会いたい、早く長男に家督を譲って仕事もやめて母さんとゆっくりとしたいなど、つらつら書いている。親父ぃぃ。

 そんな泣き言ばかり書いている親父に母さんは「稼げるうちは稼いで来い!」とケツを叩く勢いで手紙を返してる。なお、母さんはじっとするタイプではなく農民に混じって畑を耕したり、牛の出産に立ち会ったり。物事に動じない性格で明るい人だ。自己主張が苦手で存在感が薄い親父とは正反対だ。親父、母さんとゆっくりしたいはまず無理だと思うぞ。

 さて、俺には二人の兄ちゃんがいる。

 長男のダリル兄ちゃんは親父そっくりで平凡な顔立ちにひょろひょろもやしで存在感が薄い。そのせいか十七歳になるにも関わらず未だ婚約者がいない状態だ。存在が薄すぎて学園でも幽霊のような扱いをされ、学園で行われてるパーティーでもスルーされているらしい。ダリル兄ちゃん……。

 次男で十五歳のオグル兄ちゃんは三年前、ダリル兄ちゃんと同じ学園に入学した。顔立ちは美人な母さんそっくりのイケメンで性格も母さん似なのだが、バリバリの文系で将来は父と同じ文官になることを目指している。ちなみに特待生だ。フランソン家の家計ではダリル兄ちゃんの学費と寮の生活費だけで精一杯だった。特待生になれば学費も生活費も免除される。オグル兄ちゃん頑張った!

 え? 親父が文官なら給料もいいんじゃないかって? だが 残念。親父の稼ぎは全部、領地の維持費、修繕費その他諸々で吹っ飛んでいる。

 話が逸れた。そして末っ子である俺は今年で七歳になる。見た目は父さんと瓜二つだけど体力面は母さん似だ。そして転生者だ。三歳の時、流行り病で生死をさまよっていた時に前世を思い出したのだ。

 前世の俺は地球の日本という国に住んでいた極々普通の独身サラリーマンだった。死因は不明。夜遅くまで残業していた後輩の仕事を手伝っていた時に突然目の前が真っ暗になったからだ。

 まさか生前ネットで読み漁っていた「死んだら異世界転生した」系の小説と同じ体験をするは……。はぁ、後輩には迷惑をかけてしまった。そしていつも俺のことを気にかけてくれていた友人のブチギレる顔が容易に思い浮かぶ。幸いなのは俺に家族や親せきと呼べる人がいなかったことだ。

「バート! グレーラビット狩ってきたー!」

 執事のバードに近所の森で狩ってきた魔物二匹を渡した。姿はウサギなのだが額に鋭い角が生えていて目つきも鋭い。そしてデカくて凶暴。全長が俺の背丈ほどある。

「おや、坊ちゃま。二匹も仕留めてくるとは立派ですな。毛皮も綺麗ですぞ。今夜の夕食は豪華ですな」

 顔の皺を深めてバードは笑った。今年で七十歳になるが、所作がとても綺麗なお爺ちゃんで祖父の代からこの家に仕えている。とても優秀なのに給料が雀の涙で申し訳ない。

 グレーラビットは草食といえど魔物なので肉の癖が強く下処理が結構大変だ。でもしっかり処理すれば凄くうまい肉になる。……まぁ、魔物の肉なので貴族には好まれていないが、この領地では貴重なたんぱく源だ。また毛皮は防寒具になる。

「この毛皮加工したらアレアさん家に持って行っていい?」

 アレアさんとは大切な領民で先月子どもが生まれた。この領地は冬が厳しいので冬が来る前に渡したい。

「坊ちゃまは本当にお優しいお方ですね」

 バードの顔の皺がより深くなった。

「帰ったわよー。あらっ! 立派なグレーラビットじゃない! え? 何? 一人で仕留めたの? 凄いじゃない! マルク!」

 金色の長髪を高く結い上げ庭師のような恰好をした泥だらけの美魔女……母さんが帰ってきて、俺が抱えているグレーラビットを見るや否や、わしゃわしゃと俺の頭を撫でまわした。あだだだっ! 母さん力が強いっ!

「か、母さんが早く帰ってくるなんて珍しいね。どしたの?」

 ぼさぼさになった髪を直しながら首を傾げた。玄関の置時計は三時を指したばかりだ。いつもは暗くなるまで帰って来ないのに。

「ヴィーに大至急戻ってこいと言われたのよ」
「ヴィレ叔父さんが?」

 ヴィレ叔父とは母さんの五つ下の弟でフランソン家で主に領主代理みたいなことをやって貰っている。親父もダリル兄ちゃんも居ないから、せめてダリル兄ちゃんが卒業するまでと母さんがお願いしたらしい。まぁ別の理由もあるんだけどね。本当は親父に代わって母さんがやるべきなんだけど、母さんはじっとしていられないタイプで……。あ、決裁はちゃんと目を通しているぞ。

 母さんは汚れた服装のままバードを連れてヴィレ叔父さんがいる執務室へ向かった。それからほんの数分後。玄関先で服やブーツについた土埃を払っていた俺は背後からバァン! と乱暴に扉が開く音が聞こえ肩を跳ね上げた。何事!? と背後を振り返れば般若顔の母さんがこっちにむかってずんずんと歩いてきた。え? え? なに? お、俺、何かしたっ!? 

「マルク。ちょっと実家に行ってくるわ」

 真っ青な顔でガクブルしている俺に母さんは静かにそう告げて外に出て行った。

 え? え? じ、実家? 伯爵家に? なんで?

 訳が分からず一人困惑していると背後から名前を呼ばれ振り返ると、ヴィレ叔父さんとバードが立っていた。

「ヴィ、ヴィレ叔父さん、今、母さんが実家に行くって……え?」

 母さんの実家って遠いよね? 確か馬車だと二週間は掛かるはず。馬に乗ればもっと早く着くだろうけど……。母さんのあの様子だと絶対馬のほうを取る。乗馬が得意だし。

「ブライアンから手紙が来てね」

 ブライアンとは母さんの実家にいる家令だ。会ったことないけど。確か年は五十ぐらいだったと聞く。その人から手紙が来て、母さんがブチ切れて実家へ……あっ。あることに思い至った俺は「まさか…」とヴィレ叔父を見上げた。

「マルクは鋭いね。……そうだよ。また、あの人の悪癖がでたんだ」

 美しすぎる顔・・・・・・を歪ませ吐き捨てるように言ったヴィレ叔父さんの言葉に、俺はゾワッと全身鳥肌がたった。
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