君は神様。

志子

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魔塔からの来訪者

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 突然空から光の針が森の中に向かって無数に落ちて領地の教会は大パニック。しかもそれが浄化魔法っぽくて、だが今まで見たことのない形状をしていて……。もう一体何事だ⁉ てなった。

 森にいた俺たち……いや、光属性のエルトリオンが疑われたが、エルトリオンの魔力量であれを出すのは不可能だし、魔力切れを起こしていないということから疑いが晴れた。じゃぁ、あれは一体誰が? となったが俺たちも突然目の前で起きたので分からないと首を横に振った。

 森から出る前にエルトリオンに「このことは誰にも話すな」と言った。母さんはエルトリオンを教会に入れることを拒否していた。理由は聞かされなかったが、母さんがぼそっと呟いた「あンのエロじじぃどもが」という言葉で察してしまった。だからこの件でエルトリオンが教会から目を付けられるのを避けたかった。

 帰宅後、母さんとヴィレ叔父には隠さず話した。母さんは少し悩んだ後、どこかに手紙を出していた。それから二週間後。魔塔から美男美女を一人ずつ引き連れたイケオジが男爵家にやってきた。

「久しいな! フランソン男爵夫人! 学園以来だな。学生の時より生き生きしているようで何よりだ」
「お久しぶりです。ヘッセル大公。大公も充実した日々を送っているようですね」

 玄関先で友好的な笑みを浮かべるイケオジ……ヘッセル大公と、美しい所作でカーテシーをする母さん。その後ろでヴィレ叔父と俺とエルトリオンは胸に手を当てて頭を下げた。なお、母さんはいつものパンツスタイルではなくドレス姿だ。飾り気のないシンプルなドレスなのに母さんが着るとグッと華やかになる。凄い。

 グルモア・ヘッセル大公。

 魔塔のトップであり、現国王の弟君。早々に王族から籍を抜いて臣下となり、十二歳で魔塔のトップの座を実力で勝ち取った秀才。これは誰もが知っている有名な話だ。そんな凄いお方と母さんは学園で一年間だけ同じクラスだったという。

 母さん曰く、魔術に関して信頼できるのは大公しかおらず、一か八かで手紙を出したという。ただ大公とは時々言葉を交わす程度だったので、相談にのってくれるかどうか分らなかったらしい。しかし大公からそちらに行くという手紙が爆速……飛行魔術で届き凄く驚いたという。俺としては母さんがそんな凄いお方と一年間同じクラス……いや、同級生だったことに驚きだよ。兄ちゃんたちは知っていたのかな? 

(ん?)

 不意に大公と目が合いドキッとする。え? な、なに? でもそれは一瞬で大公は母さんのほうを見た。

「例の件について教会から現場を見てほしいと依頼が来ていたんだ。……そこにタイミングよく夫人の手紙が来てね。内容からして私が動いたほうがいいと判断した」

 大公がエルトリオンを見て目を細めた。エルトリオンさん無表情はやめて。美人の無表情は怖いから!

「さて、男爵夫人とゆっくりと話をしたいところだが生憎時間がなくてな。手紙にも記したが庭を借りても?」
「ええ、こちらです」

 手紙にはエルトリオンの力を直接見たいと記されていた。庭に着くと美男美女が庭全体に認識妨害の結界と、防音と衝撃吸収の結界をそれぞれ張った。といっても俺には何も見えず、何も感じなかった。隣にいるヴィレ叔父さんは「凄い……」と呟いていた。ヴィレ叔父さんには見えてるみたい。どんな感じなのか後で聞こっ! なお、あの美男美女は国王が信頼している人間だという。大公が「いやー、兄さんに世間体を気にしろっ! とこっぴどく怒られてねぇ」と肩を竦めた。何をやらかしたんだこの人。つまりあの美男美女はこの人のストッパーということなのか? うわー。天才魔導師のストッパーって……。俺だったら確実に胃に穴が開くわーと思わず胃の辺りを摩った。

 美男が懐から大きな包みを取り出し地面に置いた。その包みは穢れを纏っていた。え? それずっと持ってたの? どうやって? その包みから二メートルほど離れた場所にエルトリオンと大公が立ち、そこから更に離れた場所に残りのメンバーが立った。エルトリオンの傍を離れる際、大公が母さんに「これから起こることはすべて私に責があり、男爵家と男爵家に関わる者すべてに罪はない」と小声で言ったのが聞えた。母さんは少し目を見開いた後「……わかりました」とため息を付くように言った。そのため息はまるで「またか」という呆れのようなものを感じた。

「さて、エルトリオン君。君の浄化魔法を見せてほしい」
「はい」

 エルトリオンは包みに向かって手を翳す。教会の人なら祈りのポーズを取るけど、エルトリオンはしない。包みがぽわっと光に包まれ徐々に穢れが消えていったが、完全に消すことはできなかった。エルトリオンは手を下ろし深く息を吐き出した。

「すみません……これが限界です」
「ふむ。そうか」

 大公が少し黙った……次の瞬間。鋭い殺気が俺の身体を貫いた。

「………っっ!」

 身体中を鋭い刃物で切り刻まれたかのような感覚に意識を飛ばしかけた時、無数の巨大な光の針が大公に向かって落とされた。地面が揺れ土煙が舞い上がる。

「エ、エル……?」

 地面に尻もちをついた俺の腕をいつの間にかエルトリオンが掴んでいた。

「やはり君は気付いてたようだな」

 土煙の中から大公が姿を現した。無傷だ。そのことにほっとしたと同時に青褪めた。エルトリオンがとんでもないことをやらかしたっ!

「チッ!」

 エルトリオンが大公を睨みながら舌打ちをした。ちょっ! エルトリオンさんっ!? と、その時「パンッ!」 という乾いた音が響いた。音のするほうを見ると母さんが胸元で両手を合わせていた。

「……ヘッセル大公。私の息子にいきなり殺意を向けるなど……どういうおつもりですか?」

 母さんの地を這うような声音にぶるりと身体が震えた。貴族の笑みを浮かべているが、完全に目が笑っていない。ヤバい、ブチギレてる。ってか、さっきの殺気は大公のだったの!? なんで!?

「夫人、申し訳ない。こうでもしないとと思ってな。マルク君もすまないことをした」

 頭を下げる大公にぎょっとする。簡単に頭を下げていいのっ!?  大公が謝罪した以上、こちらは何も言えない。いや、そもそも下級貴族が意見することすらできないのだ。母さんは元伯爵家の娘だから多少は言えるのだろうか? うぅ、貴族社会について勉強しよう。男爵だし三男だし、社交にでることなんてないし、関係ないやーと言っていた過去の自分を殴りたい。母さんは小さく息を吐きだした。

「なぜこのようなことをしたのか、理由をお聞きしても?」
「ああ」
「エルトリオン、あなたもよ」
「………はい」

 俺の腕を掴むエルトリオンの手が震えた気がした。応接室に移動し、三人掛けのソファに大公が座りその後ろに美女美男二人が立った。そういえばこの二人、大公に光の針が落ちてもその場から一歩も動いてなかったな。大公だから大丈夫って思ったのかな? いや、それでも元といえど王族なのだから身を守るとか……。

「私が一切手を出すなと言ったからね」

 へぁ? と俺は大公を見た。え? もしかして俺、声に出していた?

「はは、思いっきり顔に出ていたよ? ……君は面白いね。……エルトリオン君は実に威勢いい子どもだ」

 顔にってまじか。あと面白いってなに? というかエルトリオンさん、お願いだから大公を睨むのやめて! ただでさえヤバいことやらかしたんだかさっ! 大公は気にも留めてないけど、心の中までは分かんないからさっ! エルトリオンを落ち着かせようと俺の手首を掴んでいる彼の手をポンポンと叩いた。

 「さて……」

 母さんのほうを見た大公の表情は真剣そのものだった。

「本来、このことを口外することはない。が、私は夫人のことを高く評価している。……夫人は信じるに値する人間だとね」
「恐れ多いことです」

 大公の言葉に母さんは困惑している。大公から評価されるようなことしたっけ? みたいな感じだ。

「それと夫人の弟君には席を外して貰おうと思っていたが……」

 大公が向けた視線の先には青い顔で俯くヴィレ叔父さんの姿があった。全然気付かなかったっ! 具合悪くなった?!

「エルトリオン君の力を見てから君は顔色を悪くしていた」

 大公の視線がスッと細くなった。

「どうやら君はソレを知っているようだね? どこで知った?」
「………たまたまここに立ち寄ったという行商人から買った……どなたかの日記です。アガルド語で綴られていたので興味本位で……」
「ほう、君はドルディア王朝の文字が読めるのか?」

 大公が関心した声を上げた。え、ドルディア王朝ってなに?

「全部ではありませんが……その、詩がとても美しかったので……もっと知りたいと思い……」
「たまたま買ったその日記にソレが書かれていたと」
「はい……。でも、その人の空想だろうと思ってました。現実的に有り得ないと……」

 二人が何を言っているのかさっぱり分からない。でも会話に割り込むことは大変失礼なので終わるまで黙っている。

「ああ、有り得ない。だがその有り得ないが、今ここに、存在している」
「……ッッ!」

 ヴィレ叔父さんの顔色が一層悪くなった。……二人の様子からしてヤバそうなことが起こっているということは分かった。エルトリオンのあの力ってそんなにヤバいのか? 大公が母さんのほうを見た。母さんの表情が硬くなる。

「夫人。エルトリオン君が見せたあの力は、エルトリオン君自身のものではない」
「それは、どういう……」
「マルク君がエルトリオン君の力を増幅させたのだ」

 はい?

「……マルクが……ですか? しかしマルクは付与魔法を覚えておりませんし、第一魔法を扱えるだけの魔力を持っていません」

 母の言葉に俺は心の中で何度も頷いた。大公はそれに緩く頭を振った。

「そうだったらどんなに良かったことか……。マルク君はね、肉体と意思を持った……付与なんだ」


 は?
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