君は神様。

志子

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未知の力

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 付与魔導具って、えっと、攻撃力上昇とか、防御力上昇とか、耐久力増強とかの効果を持った道具や魔石……いわゆるアイテムって奴だよね? え? 俺、アイテムなの?

「マルクは物ではりません。人間です」

 母さんが大公に鋭い視線を向け強い口調で言った。

「すまない、言い方が悪かった。マルク君は付与魔導具と酷似した体質を持っている。付与魔法と違ってマルク君は自分の魔力を消費することもなく、触れるだけで相手の魔力を増幅させたようだ」

 その言葉に俺の脳裏にブラックベアと対峙した時のことが浮かんだ。俺を庇ってブラックベアの前に出たエルトリオンの腕を……俺は掴んだ。そしてつい先程の出来事の時、エルトリオンは俺の腕を掴んでいた。え? 待って。エルトリオンいつ気付いた? 

「そしてマルク君と同じ体質を持った人間が過去にもいた。………ドルディア王朝に」

 「ドルディア……王朝……」と母さんが呟いたかと思うと、何かに思い当たったのか「まさか……」と目を見開いた。

「相変わらず男爵夫人は察しがいい。そのまさかだ」

 大公の言葉に母さんの顔色が悪くなった。え、な、なに? ドルディア王朝でなにがあったの? 完全に置いてけぼりなんだけど。誰か説明して。

「マルク君。すまないね、これ以上のことはここで話すことはできないんだ」

 困ったように笑う大公。わちゃー、めっちゃ顔に出てたんですねっ!

「ただ一つ言えるのは君は今非常に危ない立場にいるということだ」

 あ、危ない立場……ですか。大公がエルトリオンのほうを見た。

「見たところ、エルトリオン君はあれだけの大技を放ったにも関わらず魔力切れをまったく起こしていない。……魔力を消費していないのではないかね? エルトリオン君?」

 口を噤むエルトリオンに大公の目が細くなった。

「付与魔導具では不可能だ。その不可能をマルク君はやった」

 「だが」と大公は言葉を続いた。

「どんな力にも必ず代償はある」

 「だい……しょう……」とエルトリオンが呟いた。

「魔導具だって永久に使える訳じゃない。いつかは壊れる。無茶な使い方をすれば尚更。ならマルク君だってその力に対する代償が何かしらあるはずだ。例えば………マルク君の命そのものとか」
「………い゛ッ!」

 エルトリオンが俺の手首をギリッと強く握ってきて思わず声をあげそうになった。ちょっ! 痛いんですけどっ! エルトリオンさんっ! 落ち着けっ!

「マルクが死ぬってことですか?」
「例えばの話だ、男爵夫人。だが、ないとは言い切れない。魔法だってそうだろ? 自分の魔力を過信して命を落とす馬鹿もいる」
「………」
「過去に同じ人間がいたと言えど、その力に関する情報はほとんどない。だからその力がマルク君の身体にどんな影響を与えるか分からない」

 「そこでだ」と大公が言葉を続ける。

「マルク君とエルトリオン君。この二人を魔塔に迎え入れたい」
「エルトリオンもですか?」

 母さんが一瞬眉を寄せた後、ハッとした表情をした。

「先程の魔法……」

 母さんの言葉に大公は「ああ」と頷いた。

「魔法は想像だ。だがその想像を形にすることは一朝一夕でできることではない。想像を形作るための知識と努力、そして何よりもそれを必ず実現させるという強い意思が必要だ。……そもそも浄化魔法は救うためのものであって命を奪うものではない」

 大公がエルトリオン君を見た。

「その常識を君は壊した。君の想像で」
「…………」
「今はあの魔法が君のだとここにいる者以外誰も気付いていない。だがこの先もそうだとは限らない。勘のいい人間なら君に気付くだろう。……そして最悪の場合マルク君の存在も気付かれる」

 びくりとエルトリオンの肩が跳ねた。

「欲深い人間なら君を奇跡の子として祀り上げ、マルク君を道具のように扱うだろう」

 俺の手首を掴んでいるエルトリオンの手が小刻みに震え、俯く横顔が酷く青褪めていた。俺は安心させようと震えているエルトリオンの手を空いてる方の手で包み込みぎゅっと握った。

「そうなる前に君たちにその力の扱い方と身を守るための知識を身に着けて貰いたい」
「身を……守る……ため」

 エルトリオンが小さく呟いた。

「知識は武器になる。それに万が一君たちの存在が公になったとしても私の庇護下にあれば、おいそれと手を出す馬鹿はいない」
「………王族、でも?」

 ちょっ! エルトリオンさんっ!? その言葉は不敬すぎんっ!? 母さんとヴィレ叔父も固まっちゃってるよっ!

「絶対とは言い切れないが、努力はしよう」

 口角をあげる大公。なんか目が完全に「おもしろい奴」と言っている気がするが気のせいか? 大公が母さんのほうを見た。

「できるのであれば今日、二人を連れて行きたい」
「今日ですか?」

 驚く母さんに大公が「ああ」と頷いた。母さんは一瞬言葉を失った後深く息を吐き出し「……わかりました」と答えた。

「学生時の大公の判断に間違いはありませんでしたので信じます。………ただし魔術の実験以外は」

 大公の後ろに立っていた美男が「ぶっ!」と噴き出した。よく見ると美女の肩が小刻みに震えている。「あー…まぁ、あれは若気の至りというか……」と大公は気まずそうに視線を反らした。何をやったこの人は。

「……ごほん。これから我々は教会から受けていた例の件を調査してくる。一時いっとき後にこちらに戻ってくるので、それまでに準備していてほしい」
「わかり、ました。……夫には」
「王都に戻り次第私から伝える」
「……はい」

 大公は立ち上がり美男美女を連れて森のほうへ向かった。大公をしっかり見送った後、玄関ホールに戻ると母さんが俺とエルトリオンの前に片膝をついた。

「二人とも突然のことで戸惑っているわよね。私もそう……。まさかこんな……っ。マルク、ごめ……」
「母さんはなにも悪くないよ」

 俺は母さんの言葉を遮った。母さんが何を思い何を言おうしたのか分かったからだ。

 ずっと昔、仲の良かった領民の子……サブが亡くなった。サブは生まれつき身体が丈夫じゃなかったがとても明るい子だった。質素な葬儀の中、母親がサブの亡骸が入った簡素な棺に縋って「こんな体に生んでごめんさい」と何度も何度も謝っていた姿が目に焼き付いて離れなかった。

 俺を見上げる母さんの顔は、自分を酷く責めているサブの母親の顔と同じだった。

「母さんは悪くない。何も悪くない」

 もっと他にいい言葉があったかもしれない。でもなんて言えばいいのか……分からなかった。

「大公は信頼できる人だって母さん言ったでしょ? 俺たくさん学ぶから。さすが父さんと母さんの子どもだっ! って誇りに思ってもらえるよう、たくさん、たくさんがんばるから」

 だからどうか自分を責めないで。

 母さんは顔をくしゃっと歪め、俺を引き寄せ強く抱きしめて「ありがとう。ありがとうマルク」と震える声で言った。



「大公が来る前に準備しましょうか。………エルトリオンはその前に少し私とお話ししましょう?」

 俺から身体をは離し、鼻を啜って目を真っ赤にした母さんの言葉にエルトリオンがぎこちなく頷いた。バードやメイドたちには母さんのほうから俺の体質とエルトリオンの魔法を伏せて説明するとのこと。俺は自分の部屋に戻され、母さんはエルトリオンを連れて自分の部屋へ向かった。

「んー……いざ詰めるとなると……ねぇなぁ」

 腕を組んでベッドの上にある鞄に詰め込んだ下着類と数着の衣類に外套……そして数枚の押し花の栞を見下ろした。魔獣用の防具やナイフを持って行っても大丈夫だろうか。大公に確認してもいいかな? 「あとは……」と他にあるかと考えていたらドアをノックする音が聞えた。「はーい」と返事するとドアの向こうから「僕、エル……だけど」と返ってきた。ドアを開けると廊下にエルトリオンが俯いて立っていた。

「入るか?」

 そう聞くとエルトリオンは小さく「うん……」と頷いて遠慮がちに入ってきた。エルトリオンはベッドの上にある鞄に気付くとそのまま視線を止めた。

「いやー何持っていけばいいか分かんなくてさー」

 俺はドアを閉めてベッドのほうへ行き鞄を隅に寄せ空いたスペースに腰を下ろし、エルトリオンに隣に座るようぽんぽんとベッドを叩いた。エルトリオンは一瞬視線を彷徨わせた後、おずおずと俺の隣に腰を下ろした。

「魔塔って王都ン中にあんのかな? それとも冒険小説みたいな樹海の中にあんのかな? こう魔法の本が天井まで積み重なっていたりとかー、いろんな実験の道具があちこちにあったりとかさぁ」

 魔塔と聞いて想像するものを言っていると「……マルク」とエルトリオンが口を開いた。「んー…なんだー?」
とエルトリオンの方を見た。エルトリオンは俯いたままだ。

「マルク」
「うん」
「マルク…………ないで」
「………」
「……おね、がい。ぼくを……きらいに……ならないで」
「なんねぇーよ」

 俺はエルトリオンの頭を自分の胸に引き寄せた。

「エルは俺の力に気付いても、それを使おうとしなかったじゃん」

 大公の殺気に思わず俺の力を使ってしまったけど、あれはしゃーないと思う。うん。あれは大公が悪いと思う。

「気付いたのがエルで良かった。俺のこと守ってくれてあんがとな」

 エルが緩く首を振った。

「守れ……てない。ぜんぜん……守れて……ない。僕のせいで、マルクは……みんなから…引き離され……」
「アベルおじさんとこのクルトは七歳の時に隣町の鍛冶屋に弟子入りした。ジョンおじさんところのリーナは九歳の時にお針子として二つ隣の町へに行った。デニスは十歳の時、漁師町へ行った。……みんな、俺よりずっと早く親元を離れてる」

 前世みたいな労働基準法なんてないし、子どもだって大切な労働力だ。俺は領主の子どもだったから自由でいさせてくれた。

「遅かれ早かれ俺はこの家を出て行くんだ。どうせならこれを機会に雑用係でもいいから魔塔で雇ってくれないかなぁって考えてる」

 「ふっ……」とエルから小さく笑った声が聞えた。

「それに俺は一人じゃない。俺の傍にはすっごい頼もしい奴がいるんだ。そいつは魔獣や薬草、魔法の知識が凄くて、ナイフの扱い方も身のこなしも凄くてさ。……俺はそいつが人一倍、いや二倍も三倍も努力していることを知っている。そんでそいつは新しい魔法を生み出した。そんなすごい奴が俺の傍にいてくれる」

 真っ赤になった目を見開いて俺を見上げてきたエルに俺は笑った。

「俺はどんなことがあってもエルの手を離さない。絶対に。だからエルもさ、俺の手を離さないでほしい」

 エルの蜂蜜色の目が揺れ動き、くしゃっと顔を歪め俺の腰辺りを抱きしめた。

「……うん。……うん。僕もどんなことがあってもマルクの手を離さない。絶対に……絶対に」
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