【完結】ずっと一緒にいたいから

隅枝 輝羽

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3.花火と温泉と俺の決意(受)

3-2

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 ◇◇◇ 

 花火大会って迫力あっていいけど混むよなって俺がちょっと口に出したら、そういうロマンチックなデートもしたいと言い出した進藤に合わせて、かなり前から予約した旅行。 

 運良く旅館の予約ができたときは進藤と小躍りした。といっても、花火が見える宿とか会場まで徒歩で行けるような宿ではない。そんな立地の良いところはもっとすごい争奪戦なのは前年までのレビューでわかっていたし、そもそももうキャンセル待ち状態だったからな。 

 この花火大会でいい雰囲気になったら、進藤に素直な自分の気持ちを伝えられるだろうか、俺はそんなことを考えていた……。 

 今日だって宿にアーリーチェックインをしたあと、二人で早くから場所取りに来ていた。どこの花火大会でも同じだと思うけど、時間までは場所の確保はできなくて規制線が張られていてさ。シートを持った地元民や観光客と一緒に進藤と待つのはちょっと楽しかったんだよな。最近は花火会場も指定席とか入場料を取るところも増えてきたらしいけど、今回は無料のところだ。 

「典明さん、ここ座っててください! オレ、飲み物と食べる物買ってきますから。本当に焼きそばだけでいいんですか?」 
「ん。屋台の焼きそば好きなんだ……」 
「了解! あと適当に美味そうなもの買ってきます。動いたら場所取られちゃうから見張っててくださいね」 
「大丈夫だって」 

 そんなやり取りをして進藤が買い物に行った。 
 旅先っていうのはやっぱり開放的になるのを実感する。これなら、雰囲気の後押しもあって、素直に俺も進藤のこと今は本気で好きだって言えるかもしれない。 

 いつまでも甘えてちゃだめだ、頑張れ、俺。 

「進藤、遅いな……」 

 場所がわからなくなったにしては、電話もかかってこないなぁなどと俺は場所取りしたところでひとり膝を抱えていた。 
 さすがに不安になって立ち上がると、かなり先ではあるが、進藤をすぐに見つけられてしまった自分に笑う。 

 なのに……直後に進藤にしがみつく可愛らしい女性の姿と、さらには進藤がその子にいい笑顔で話しかけているのが見えて、体温が一気に下がっていくような感じがした。 

「な……んで……」 

 耳がキーンとして、ストンとその場に座ると、もやもやズキズキした気持ち悪さが俺を襲ってくる。 

 ──だから、進藤みたいなやつには俺じゃなくて、そのうちもっと良い女性が現れるって思ってたじゃないか。でも、あんなにこの花火を楽しみにしてたのは進藤なのに……。 もしかして、出会っちゃったのか? こんな急に? 俺がちゃんと伝えなかったから?

 ぐるぐると脳内で考えてしまうのは、諦めと後悔。序盤の花火が打ち上がり始めたというのに、それを見る余裕すら俺にはなかった。 

  

「典明さん! 遅くなっちゃって……ん? 体調悪い?」 
「……いや」 

 見てるようで見えてない花火の方向を見つめながら、俺は別のことを考えて涙をこらえていた。進藤がさっきのことを話してこないのは、やっぱり隠しておきたいからなんだろう。 

 ──どうして、どうして、どうして……。 

 花火もラスト近くになり、連発で花火が打ち上がりだすと、進藤は俺の手を握ってきた。この手はなんだろう……なんか芯が冷えてるような感じで、よくわからない感じがする。  

「典明さん? って、ええっ?」 

 俺がぼーっと立ったままでいると進藤が俺の顔を布で擦ってくる。なのに、頬がいつまでも濡れていて気持ちが悪いんだ。 

 進藤が適当に荷物をバッグにつめている? どうしたんだろう、まだ花火終わってないのに。動けないままそう思って見ていると、進藤は俺の腕を引いた。 
 力が入らなくて俺は進藤に引かれるまま歩いているけど、時々人にぶつかってしまっているらしく、進藤が謝っている声が聞こえた。 

「典明さん、どうしたんです? 何かありましたか?」 
「さっき……」 
「うん?」 
「進藤が……女性と、抱き合ってるのを見た……」 
「へ? はぁ!?」 

 俯いたまま声を絞り出した俺の声は自分で聞いてもびっくりするくらい掠れていた。なんだこれ……自分の声なのか? そう思うのに、全然思ったように話せない。 
 しかも眼の前の進藤は固まってしまって何も言わないし。これが浮気がバレた男なのか? 

 いや、むしろ俺の方が遊びだったのかもしれない。お試し交際を始めたときは、進藤の想いを気の迷いじゃないかって思っていたはずなのに、そんなことなんて、すっかり忘れてしまっていた。いつの間にかすっかり進藤にハマってしまったのは俺じゃないか。 

 それにしても、言い訳もしないんだな。無言はつらい……そう思って俺が口に出す言葉は自己否定ばかりだった。 

「あんな、密着して嬉しそうな笑顔浮かべてるの見て……やっぱり、そうだよな……って」 
「まっ、て……なにが『そうだよな』なんです?」 
「俺なんかと関係持っちゃったのも、付き合ったのも、気の迷いなんだよ。お前みたいなやつにはやっぱりああいう可愛らしい女の子が……」 

 いつの間にか花火が終わり、人が解散して通り過ぎていくなか、二人の周りだけ時が止まっているような感覚さえある。 
 俺は進藤に振られる前に、自分から離れてやらなければと思うものの、言葉が紡げなくてまた涙が溢れてくる。 

「気の……迷いって……」 
「……。でも、や……だ。やっぱり、やだ……別れたくない。振らないで、くれ」 
「……え」 
「あ! さっきの!」 

 女性二人組が脇を通り過ぎるとき声をかけてきたので、俺はノロノロと顔を上げた。そこには浴衣姿の可愛らしい女性……。 

「さっきは迷惑かけてすいませんでした。鼻緒の応急処置ができたので、家に帰るまではギリギリ大丈夫そうです」 
「いや、オレなんかただの電信柱なんで……」 
「でもおかげで鼻緒直せたから、ほんとすみません。えっと……もしかして、その人がさっき言ってた可愛い恋人さん? なんで泣かせてるんです?」 
「だぁっ!」 

 進藤が俺の前に立ちふさがる。 

 ──迷惑? 鼻緒? 応急処置? 電信柱? ……可愛い恋人? 

 理解が追いつかないまま頭の中を単語が通り過ぎていく。 

「私が小夜の鼻緒を直してるときも、ずっと恋人のこと気にしてあんなに惚気てたのにもうケンカですか? だめですよ、後悔するからちゃんと話し合って」 
「はい……」 

 バイバイと二人の女性は歩いていった。 
 女性たちの言葉を聞いた俺は混乱して、驚きで涙は止まっていた。とはいうものの、どうしたらいいのかわからないままだ。 

「さて、典明さん。ちゃんと二人で話しましょ、ね?」 

 進藤に手を引かれながら土手を歩いていく。何か話しかけたほうがいいのかもしれないけど、どう言ったらいいのかわからなくて無言のまま歩いていた。でも進藤は俺の手を固く握っていて、それが妙に暖かくて安心する。 

  

 タクシーを呼んで旅館に帰って部屋に入ったのと同時に、進藤は俺を腕の中に閉じ込めた。そのまま二人で座布団の上に座り込むと、進藤は俺と向かい合って両手を握り、顔を覗き込んでくる。 

「オレは、典明さんと別れたいと思ったことないですよ。ていうか、典明さんに振られてもゴネます。絶対に別れない。無理。そんなことになったらきっとストーカーになります。典明さんのこと監禁しちゃうかも……オレを犯罪者にしたくなかったら放流しないで……」 

 握った俺の手に何度もキスを落としながら上目遣いに進藤が訴える。上目遣いなのに、そこにはゾクリとする冷たい炎が灯っているようだ。進藤は本気で言ってるかもしれない、って少し怖いのにそれと同時に歓喜で胸が震える。 

「さっきの……女の子……」 
「うん」 
「抱き合って、ない?」 
「ないです。まあ、もう一人がしゃがみこんで鼻緒直してる間、片足で立つの大変かなって肘は貸してあげたけど……こんなに典明さんを泣かせるくらいならやめとけばよかった」 

 俺は進藤の手をぎゅっと手を握り返した。進藤はずっと俺の目を見たまま瞬きすら忘れているようで、その視線はいつもの人懐こい進藤と違う。ちゃんと、ちゃんと話さないと、そう思うのにまた俺の目に涙が浮かんでくる。 

「俺が……いくら甘えても、好きって言っても、進藤信じてくれないし……この花火でちゃんと、伝えたいって……思ってたのに」 

 こんな、進藤を責めてるみたいな言い方したくないのに……俺がもっとちゃんと進藤に伝わるように言えばよかったのに。 

「ん。ごめんなさい。ずっと、人のいい典明さんを俺が押しきって、付き合ってもらってるって思い込んでました。典明さんてほら、優しくて押しに弱いから、そこにつけ込んだのわかってたんで。でも……オレもさっき少しショックでしたよ? こんなに好きって言ってるのに目移りしたみたいに言われて」 
「あ……」 
「でも、それはオレが不安にさせちゃったからですよね……だから、謝らないで? あー……なんか、典明さんを泣かせてオレのバカってめちゃめちゃ自分に苛立つ気持ちと、典明さんが別れたくないって泣いてくれた嬉しさで頭ぐちゃぐちゃ……」 

 進藤が俺を引き寄せ、背中をなでながら唸る。どうやら進藤にも葛藤があったみたいだとわかって、俺もそっと進藤に腕を回して肩口に顔を押しつけた。 

「あんな、可愛い女の子に……俺のこと惚気てた、のか?」 
「典明さん、あまり、女の子を可愛い可愛い言うのやめて。オレだって、典明さんを女の子に取られたら嫌だっていつも思ってるんだから……。でも、そうですよ。年上だけどすごく大事な可愛い男の恋人と見に来たって話してました」 

 男の恋人って……なんてこと他人に言ってるんだよ。恥ずかしい……と、さっきよりも強くぎゅうぎゅうと顔を押しつける。 

 でも、そうか、職場では完全に秘密にしてるから、旅先でならと他人に言ったのかもしれない。ちゃんと、進藤は俺のことを恋人だと宣言していてくれてたんだ……それなのに、俺は……進藤を信じなかった。せっかくの花火も台無しにして、進藤のことも傷つけたんだ。 

「……ごめん」 
「謝らないでくださいって。花火はまた見にくればいいです。でも典明さんの気持ちを知れたことのほうが、オレは……」 

 俺がデートを台無しにしてしまったというのに、頬を紅潮させている進藤を不思議な気持ちで見ていた。 

「典明さんってこんな……涙もろいほう?」 
「違う。けど、胸が苦しくて勝手に……」 
「あーもう。なんでこんなに可愛いんだよ。あ、そっか。そうだったんだ……」 
「なに?」 
「オレがいつも典明さんを可愛いって思ってしまうのは、典明さんがオレのこと好きで甘えてくれてるからだったのか、って。……ずっと態度に示してくれてたんだなって、思って。」 

 確かに俺は態度には出していた……つもりだし、それが通じないなとは思っていたのだけど、改めて進藤の口から聞く恥ずかしさといったらなかった。 

 背中に回した腕に力を入れて、進藤の首元に顔を埋めて擦りつける。すっかりこの進藤の匂いが心地よくなってる……ドキドキするのに落ち着く。 

「典明さん、大好きです」 
「お、れ……も………………好き」 
「嬉しい。絶対にオレのこと離さないで下さいね」 
「お前も……」 

 ふふっと笑った進藤が優しくキスをしてくる。いつもみたいなすべてを飲み込もうとするキスじゃなくて、慰めるような優しいキスだ。もどかしい……そんな気持ちになったのはむしろ俺の方で、進藤のシャツをきゅっと摘むと「抱いてくれないのか?」と口にした。 

「~~~~っ!」 

 これはいつもの進藤の反応だ。俺が求めると必ずこうなるか変な声をあげる。こればかりは気持ちが通じた今も俺にはまだよくわかっていない。 

「進藤?」 
「典明さん……好き、可愛い、大好き。誘ってくれるのも本心だとわかったら、なんかいつもより感動しちゃって……どうしよ」 

 進藤が可愛い……俺はふつふつと腹の底から湧いてくるような気持ちで、目の前の進藤を抱きしめた。それはいつも俺に見せるあの進藤の反応と同じで、こいつもこんな気持ちだったのかななんて思ったし、心臓がどうにかなってしまったみたいにも感じる。 
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