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4.花火と温泉と囲い込み(攻)
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花火旅行のあとからは典明さんにはずっと名前で呼んでもらっている。
本当は典明さん的には旅行中だけの特別呼びだったみたいなんだけど、オレが拗ねまくってやだやだってわがまま言って、まんまと呼ばせることに成功したって感じ。
きっかけなんてなんでも良くて、せっかく気持ちも同じだってわかったから、今までの関係から典明さんに踏み出して欲しいんだよな。三歩進んで二歩下がるなんてオレは嫌だ。
だってさ、典明さんは本当に会社内で注目され始めてるから。
あのものすごく胸に響く歌声もそうだし、モサいけどよく見れば別にブサイクってこともなく──オレからしたらエロ可愛い以外ないけど──て、仕事のサポートは安心して頼めてさ。それに気づかれちゃったんだろう。いや、いずれそうなるのはわかってたんだけどさ。
オレは空気を読んで、先回りしたコミュニケーションをできるスキルがあるのだけが自慢だ。だから、実は旅行のあとから典明さんに内緒で各所に顔を出していろいろ交渉してるんだよな。今までいろいろ頑張ってコネを作っといて良かったって実感してるところ。
それもようやく形になって、新年度から会社の制度として組み込まれることになった。結構いろんな資料──他の会社とか世の中の動向とか──を集めたし、すぐ人に頼ってたオレからしたらかなり頑張ったよな。でも、オレの人生がかかってるし、真剣にもなるって!
典明さんとの関係を進めるにしても、とりあえずは周りから固めないとあの人は臆病だからなぁ……。安心してオレに囲われてもらうためにも、対策はきちんとやらないとってとこ。
それに、もうすぐまた社員旅行の時期になってしまう。オレからしたら、変な時期にやるなよって思うんだけど、入った新社員がちょっと慣れた頃ってのを狙ってるらしい。
たださ、それでより仲良くなれるかは人によるだろ? 典明さんタイプならまだ慣れきってない状態の旅行はかえって萎縮しそうだし。
以前のオレはそんなことなんて考えもしなかったけど、典明さんと付き合うようになって、違うタイプの人間のことを考えるようになったんだ。いや……典明さんだったらって考えるようになっただけだな、これ。
なんにしても、次の社員旅行では女子を避けるのが大変だと思うから、その前にある程度、な。
そんなことを計画していたら、女子社員に絡まれてめちゃくちゃおどおどしてる典明さんが見えて、脊髄反射で妨害してしまった。
あの女子たちは、なんで一年近く断られ続けているのにまだ諦めないんだよ……本当に油断も隙もないっつの。
妨害ついでに、今日は典明さんの家に行く約束もした。もともと、あとで約束しようと思っていたからちょうど良かったかもしれない。
定時なのに典明さんはまだ集中してキーボードを叩いている。顔が真剣だったからオレは声もかけられずに会社を出てきた。典明さん、大丈夫かな。
オレはいつものように一旦家に帰ろうとしたけど、思いついて典明さんの家の最寄り駅に直行する。
改札がひとつしかない駅だから見逃すことはないだろうと、ずっと改札を見ていた。典明さんがいつ帰ってくるのかわからないのにオレもよくやるよな。
でも、定期的に来る人の波の中に、もしかしたら典明さんがいるかもと思うと、見ているだけで楽しい。なんだろう、このワクワク感。
と、何度も吐き出される人の波を見送って、やっと待望の姿を見つけた。花火のときもだけど、どんなに人がいて遠くても典明さんはすぐわかる。
「典明さん」
「えっ? なんで」
「待ち伏せ、しちゃいました」
目をまんまるにしている典明さんに少しだけ申し訳なくなった。だって、別にストーカーしようとしたんじゃなくて、本当は一回帰るつもりなのを方向転換しただけなんだ……。
「帰ってないのか?」
「今日は帰ってないです。なんとなく、改札出てくる典明さんを見たくって」
「そ、うなのか。えっと、俺、鍋でも作ろうかなって思ってたんだけど、材料買ってもいい?」
「わあ、春のお鍋、いいですね。一緒に行きます。何鍋の予定です?」
典明さんの手料理を買い物時点から堪能できるなんて最高じゃないか。オレは喜んで買い物についていった。
今日は豆乳鍋にしたいって典明さんが言って、鍋つゆはパウチの豆乳鍋スープをカゴに入れていた。オレは作り方云々より、典明さんがいてくれることが大事だから問題ないんだけど!
「オレがカゴを持ちますよ。でも、典明さんが豆乳鍋とか意外でした。結構味が濃いのとか好きでしたよね」
「あ……う……。今日は優しい味の鍋が食べたくて……」
カゴを持って横に並ぶと一緒に買い物してる感出るなぁ。新婚みたいで顔が緩む……いや、いかんいかん、これじゃ典明さんに引かれてしまう。
典明さんは豆乳鍋スープに合わせて、野菜を何種類か選んだあと、調味料コーナーへ向かった。もちろんオレはカゴを持ってついていくんだけど。
不思議なことに典明さんはオレをちらっと見てタレを二種類カゴに追加していた。しかも、なんかちょっとお高いやつ。美味しそうではあるけどさ。
それにしても会話がめっちゃ少ない……。
「もう。もしかして典明さん照れてるんですか?」
「だって、こんなの……」
「同棲してるみたい?」
「う……」
「慣れてくださいね。予行練習です」
むしろ、オレの中じゃ新婚生活だから。言ったら典明さんが挙動不審になっちゃいそうだから言わないけど。
「ねね、典明さん、豆乳鍋って豚と鶏どっちが合うのかな、どっちが好きです?」
「骨付きなら鶏もいいと思うんだけど……水炊き用の骨付きないな。今日は豚にしようか。豚肉も美味しいから」
材料費も無理矢理典明さんに半額渡した。いつも断られるから、オレは押しつけたり別のものを渡したりしてるんだけど、いい加減オレに接待感覚はやめてほしいんだよな。
とはいえ、今日は詰めるつもりだし!
「ただいまー」
「なんで桂一郎がただいまなんだ」
「えぇ、いいじゃないですか。オレ、典明さんにおかえりって言われたいです」
「……おかえり」
一瞬微妙な顔をしたものの、すぐに口元を緩ませておかえりと言ってくれる典明さんは優しい。
実はここにはオレのお泊りセットがちゃんとある。でも一応は使う前に声はかけるようにしてるんだ。急に開けたら困ることか典明さんにもあるかもしれないし? まあ、そんなときはあとから問い詰めちゃうんだけどさ。
しばらく野菜をざくざく切っている典明さんを見ていたけど、カセットコンロはないのかって声をかけて、テーブルで鍋を煮ようと提案した。
だって、いつまでも台所から典明さんが出てきてくれないからさぁ。もちろんキッチンに立ってる典明さんもいいんだけど、やっぱ一緒にいたい。
「こういうのって、出来上がるまでふたりで話してるのもいいじゃないですか。いつの間にか蓋の穴から湯気が出てきて、蓋を開けた瞬間のワッていう楽しみとか」
「いや、まあ、でも本格的な鍋の季節は少し過ぎたよな」
「春もまだ寒い日があるから、鍋の季節でいいですよ」
眼の前で土鍋を火にかけながら出来上がるのを典明さんと待つ。
いつもならオレはこのくらいか、出来上がったくらいにここに到着してるから、こうやってのんびりできるのってやっぱいいなって思った。
うちの課って他の課より年度末が急激に忙しくなるわけじゃないけど、でもやっぱそれなりに他の時期よりは忙しくてさ。だから、こうやって典明さんとのんびりビールを飲んだり食事をしたりなんてなかったんだ。
新年度になって、忙しさはかなり落ち着いてきて、やっと今日は気合を入れて泊まりにこれた。土日一緒にいちゃいちゃしたいから金曜から来ちゃったんだもんね。あと、話したいこともあったし。
「やっと典明さんとイチャイチャできますね」
「鍋……」
「わかってますって! でもこうやってゆっくり話す時間もあまりなかったじゃないですか。会社では顔は見られるけど、典明さんよそよそしいし」
オレがわざとらしく頬を膨らませて見せると典明さんはもごもごと言い訳をしている。
そりゃ、オレだってわかってるんだよ、典明さんがうっかりオレに甘えないように、必要以上に気を使ってること。話しかけたときはよそよそしいのに、ふと顔を上げると目が合うことが多いんだからきゅんとしちゃうだろ。
で、きゅんとしたオレは、ついついなんでもないことまで典明さんに聞きに行っちゃうんだけどね。
「お前、昔より聞きに来すぎ。仕事できなくなってる人みたいじゃないか」
「だってぇ……」
「……俺も話せるのは嬉しいけど」
「典明さん好き。あ、湯気」
典明さんが蓋を開けると、ぽこぽこと白いスープが沸騰して、湯気とともにいい匂いが漂う。ビールでいい感じに空腹感が煽られていたから、口の中に唾液が湧いてきた。
「あー、いい匂い! 典明さん、食べましょ」
「好きなタレ使ってな」
ははぁ、オレがどんなタレを好きでもいいように二種類買ってたのか。もう、典明さんてば優しいんだから。
「おれ、どっちも使いたいです」
「じゃあ、とんすい二つ使っていいぞ。俺はポン酢だけでいい」
「この器ってとんすいって言うんですね。オレずっと取皿って呼んでました」
典明さんてこういうのよく知ってるよなぁ。オレなんて調べようと思ったこともないのにさ。
この、とんすいってやつは深緑で厚みがあって手に馴染むし、豆乳の白い色も映える。おしゃれな器だなって思ってたら、典明さんのお祖父さんの作品って聞いてびっくりした。もしかして典明さんもこういうの作ったことあるのかな……だったら見てみたい。
豆乳鍋はポン酢も胡麻ダレもどっちもよく合った。ポン酢はまろやかな豆乳に爽やかな柑橘系の酸味が加わるし、胡麻ダレはコクをさらに追加してきて香ばしさが加わる感じ。
美味しくて箸が止まらなくて、二人であっという間に食べてしまった……雑炊を作ったら美味すぎるんだもん。なんかドリアの中身みたいな、リゾットみたいな、和風なのに洋風みたいな不思議な感じだった。
「豆乳だからな……チーズとかあったらもっとよかったかもな」
「あ、それ絶対合いますね。今度やるときは買っておきましょうよ」
一緒に後片付けをしながら、次回やるならチーズ必須だなって思っていた。違う味の鍋もいいけど、オレはまた典明さんとこの鍋がしたいな。
このあとする話をなんとか上手く持っていって、その記念の鍋にしたいってひっそり思っていた。
本当は典明さん的には旅行中だけの特別呼びだったみたいなんだけど、オレが拗ねまくってやだやだってわがまま言って、まんまと呼ばせることに成功したって感じ。
きっかけなんてなんでも良くて、せっかく気持ちも同じだってわかったから、今までの関係から典明さんに踏み出して欲しいんだよな。三歩進んで二歩下がるなんてオレは嫌だ。
だってさ、典明さんは本当に会社内で注目され始めてるから。
あのものすごく胸に響く歌声もそうだし、モサいけどよく見れば別にブサイクってこともなく──オレからしたらエロ可愛い以外ないけど──て、仕事のサポートは安心して頼めてさ。それに気づかれちゃったんだろう。いや、いずれそうなるのはわかってたんだけどさ。
オレは空気を読んで、先回りしたコミュニケーションをできるスキルがあるのだけが自慢だ。だから、実は旅行のあとから典明さんに内緒で各所に顔を出していろいろ交渉してるんだよな。今までいろいろ頑張ってコネを作っといて良かったって実感してるところ。
それもようやく形になって、新年度から会社の制度として組み込まれることになった。結構いろんな資料──他の会社とか世の中の動向とか──を集めたし、すぐ人に頼ってたオレからしたらかなり頑張ったよな。でも、オレの人生がかかってるし、真剣にもなるって!
典明さんとの関係を進めるにしても、とりあえずは周りから固めないとあの人は臆病だからなぁ……。安心してオレに囲われてもらうためにも、対策はきちんとやらないとってとこ。
それに、もうすぐまた社員旅行の時期になってしまう。オレからしたら、変な時期にやるなよって思うんだけど、入った新社員がちょっと慣れた頃ってのを狙ってるらしい。
たださ、それでより仲良くなれるかは人によるだろ? 典明さんタイプならまだ慣れきってない状態の旅行はかえって萎縮しそうだし。
以前のオレはそんなことなんて考えもしなかったけど、典明さんと付き合うようになって、違うタイプの人間のことを考えるようになったんだ。いや……典明さんだったらって考えるようになっただけだな、これ。
なんにしても、次の社員旅行では女子を避けるのが大変だと思うから、その前にある程度、な。
そんなことを計画していたら、女子社員に絡まれてめちゃくちゃおどおどしてる典明さんが見えて、脊髄反射で妨害してしまった。
あの女子たちは、なんで一年近く断られ続けているのにまだ諦めないんだよ……本当に油断も隙もないっつの。
妨害ついでに、今日は典明さんの家に行く約束もした。もともと、あとで約束しようと思っていたからちょうど良かったかもしれない。
定時なのに典明さんはまだ集中してキーボードを叩いている。顔が真剣だったからオレは声もかけられずに会社を出てきた。典明さん、大丈夫かな。
オレはいつものように一旦家に帰ろうとしたけど、思いついて典明さんの家の最寄り駅に直行する。
改札がひとつしかない駅だから見逃すことはないだろうと、ずっと改札を見ていた。典明さんがいつ帰ってくるのかわからないのにオレもよくやるよな。
でも、定期的に来る人の波の中に、もしかしたら典明さんがいるかもと思うと、見ているだけで楽しい。なんだろう、このワクワク感。
と、何度も吐き出される人の波を見送って、やっと待望の姿を見つけた。花火のときもだけど、どんなに人がいて遠くても典明さんはすぐわかる。
「典明さん」
「えっ? なんで」
「待ち伏せ、しちゃいました」
目をまんまるにしている典明さんに少しだけ申し訳なくなった。だって、別にストーカーしようとしたんじゃなくて、本当は一回帰るつもりなのを方向転換しただけなんだ……。
「帰ってないのか?」
「今日は帰ってないです。なんとなく、改札出てくる典明さんを見たくって」
「そ、うなのか。えっと、俺、鍋でも作ろうかなって思ってたんだけど、材料買ってもいい?」
「わあ、春のお鍋、いいですね。一緒に行きます。何鍋の予定です?」
典明さんの手料理を買い物時点から堪能できるなんて最高じゃないか。オレは喜んで買い物についていった。
今日は豆乳鍋にしたいって典明さんが言って、鍋つゆはパウチの豆乳鍋スープをカゴに入れていた。オレは作り方云々より、典明さんがいてくれることが大事だから問題ないんだけど!
「オレがカゴを持ちますよ。でも、典明さんが豆乳鍋とか意外でした。結構味が濃いのとか好きでしたよね」
「あ……う……。今日は優しい味の鍋が食べたくて……」
カゴを持って横に並ぶと一緒に買い物してる感出るなぁ。新婚みたいで顔が緩む……いや、いかんいかん、これじゃ典明さんに引かれてしまう。
典明さんは豆乳鍋スープに合わせて、野菜を何種類か選んだあと、調味料コーナーへ向かった。もちろんオレはカゴを持ってついていくんだけど。
不思議なことに典明さんはオレをちらっと見てタレを二種類カゴに追加していた。しかも、なんかちょっとお高いやつ。美味しそうではあるけどさ。
それにしても会話がめっちゃ少ない……。
「もう。もしかして典明さん照れてるんですか?」
「だって、こんなの……」
「同棲してるみたい?」
「う……」
「慣れてくださいね。予行練習です」
むしろ、オレの中じゃ新婚生活だから。言ったら典明さんが挙動不審になっちゃいそうだから言わないけど。
「ねね、典明さん、豆乳鍋って豚と鶏どっちが合うのかな、どっちが好きです?」
「骨付きなら鶏もいいと思うんだけど……水炊き用の骨付きないな。今日は豚にしようか。豚肉も美味しいから」
材料費も無理矢理典明さんに半額渡した。いつも断られるから、オレは押しつけたり別のものを渡したりしてるんだけど、いい加減オレに接待感覚はやめてほしいんだよな。
とはいえ、今日は詰めるつもりだし!
「ただいまー」
「なんで桂一郎がただいまなんだ」
「えぇ、いいじゃないですか。オレ、典明さんにおかえりって言われたいです」
「……おかえり」
一瞬微妙な顔をしたものの、すぐに口元を緩ませておかえりと言ってくれる典明さんは優しい。
実はここにはオレのお泊りセットがちゃんとある。でも一応は使う前に声はかけるようにしてるんだ。急に開けたら困ることか典明さんにもあるかもしれないし? まあ、そんなときはあとから問い詰めちゃうんだけどさ。
しばらく野菜をざくざく切っている典明さんを見ていたけど、カセットコンロはないのかって声をかけて、テーブルで鍋を煮ようと提案した。
だって、いつまでも台所から典明さんが出てきてくれないからさぁ。もちろんキッチンに立ってる典明さんもいいんだけど、やっぱ一緒にいたい。
「こういうのって、出来上がるまでふたりで話してるのもいいじゃないですか。いつの間にか蓋の穴から湯気が出てきて、蓋を開けた瞬間のワッていう楽しみとか」
「いや、まあ、でも本格的な鍋の季節は少し過ぎたよな」
「春もまだ寒い日があるから、鍋の季節でいいですよ」
眼の前で土鍋を火にかけながら出来上がるのを典明さんと待つ。
いつもならオレはこのくらいか、出来上がったくらいにここに到着してるから、こうやってのんびりできるのってやっぱいいなって思った。
うちの課って他の課より年度末が急激に忙しくなるわけじゃないけど、でもやっぱそれなりに他の時期よりは忙しくてさ。だから、こうやって典明さんとのんびりビールを飲んだり食事をしたりなんてなかったんだ。
新年度になって、忙しさはかなり落ち着いてきて、やっと今日は気合を入れて泊まりにこれた。土日一緒にいちゃいちゃしたいから金曜から来ちゃったんだもんね。あと、話したいこともあったし。
「やっと典明さんとイチャイチャできますね」
「鍋……」
「わかってますって! でもこうやってゆっくり話す時間もあまりなかったじゃないですか。会社では顔は見られるけど、典明さんよそよそしいし」
オレがわざとらしく頬を膨らませて見せると典明さんはもごもごと言い訳をしている。
そりゃ、オレだってわかってるんだよ、典明さんがうっかりオレに甘えないように、必要以上に気を使ってること。話しかけたときはよそよそしいのに、ふと顔を上げると目が合うことが多いんだからきゅんとしちゃうだろ。
で、きゅんとしたオレは、ついついなんでもないことまで典明さんに聞きに行っちゃうんだけどね。
「お前、昔より聞きに来すぎ。仕事できなくなってる人みたいじゃないか」
「だってぇ……」
「……俺も話せるのは嬉しいけど」
「典明さん好き。あ、湯気」
典明さんが蓋を開けると、ぽこぽこと白いスープが沸騰して、湯気とともにいい匂いが漂う。ビールでいい感じに空腹感が煽られていたから、口の中に唾液が湧いてきた。
「あー、いい匂い! 典明さん、食べましょ」
「好きなタレ使ってな」
ははぁ、オレがどんなタレを好きでもいいように二種類買ってたのか。もう、典明さんてば優しいんだから。
「おれ、どっちも使いたいです」
「じゃあ、とんすい二つ使っていいぞ。俺はポン酢だけでいい」
「この器ってとんすいって言うんですね。オレずっと取皿って呼んでました」
典明さんてこういうのよく知ってるよなぁ。オレなんて調べようと思ったこともないのにさ。
この、とんすいってやつは深緑で厚みがあって手に馴染むし、豆乳の白い色も映える。おしゃれな器だなって思ってたら、典明さんのお祖父さんの作品って聞いてびっくりした。もしかして典明さんもこういうの作ったことあるのかな……だったら見てみたい。
豆乳鍋はポン酢も胡麻ダレもどっちもよく合った。ポン酢はまろやかな豆乳に爽やかな柑橘系の酸味が加わるし、胡麻ダレはコクをさらに追加してきて香ばしさが加わる感じ。
美味しくて箸が止まらなくて、二人であっという間に食べてしまった……雑炊を作ったら美味すぎるんだもん。なんかドリアの中身みたいな、リゾットみたいな、和風なのに洋風みたいな不思議な感じだった。
「豆乳だからな……チーズとかあったらもっとよかったかもな」
「あ、それ絶対合いますね。今度やるときは買っておきましょうよ」
一緒に後片付けをしながら、次回やるならチーズ必須だなって思っていた。違う味の鍋もいいけど、オレはまた典明さんとこの鍋がしたいな。
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