1 / 83
失った愛
1
しおりを挟む
「なんて可愛いんだ!」
「貴方達以上に美しい子はこの世には存在しないわ」
それは聞き慣れた言葉だった。
部屋の隅に置いてある、ボロきれみたいなシーツが敷かれたベッドの端っこに膝を立てて蹲りながら、昔嫌という程に聞かされた言葉を脳内で繰り返し思い出す。
「エスメラルダ入るわよ!」
「ラル……」
部屋に入ってきた双子の妹のコーラルの愛称を呼ぶと、顔を上げた僕に視線を向けた彼女が美しい顔を明らかに顰めた。
昔は彼女ともとても仲が良くて、何時だって一緒に居たはずなのに彼女はそのことを忘れてしまったらしい。
「その顔でこっちを見ないで」
「……ごめん」
咄嗟に包帯が巻かれた顔を手で抑える。
痛みは無い。ただ、包帯越しからも感じるザラりとした感覚に自分ですら気持ち悪いと感じた。
「……ところで何か用?」
片方しか見えない目で彼女をチラチラと見ながら尋ねると、ラルは苛立ちを隠すことも無く近くにあった小物入れを手に取って床へと投げつけた。
それを見つめながら、またかって思う。
嫌なことがあると直ぐに癇癪を起こして僕の所に来ては物を壊すのは昔から変わらない。
「王太子様が26歳の誕生日に婚約者を選ぶんですって!」
「そうなんだね……でも、どうしてラルが怒っているの?」
恐る恐る尋ねれば、彼女は赤い顔を更に真っ赤にさせて床に叩きつけて壊れてしまった小箱を蹴りつける。
「18歳以上の貴族の女子は皆その婚約者選びに参加しないといけないのよ!!私は公爵家の一人娘だから婚約者最有力候補だってお父様が言うの!そんなの嫌よっ」
「……でも、王太子様の婚約者ならその内王妃さまになれるじゃないか……」
あまりラルを刺激しないようにそう言うと、彼女は嫌だ嫌だと首を振って駄々をこねる。
そんな彼女を見つめながら、僕にどうして欲しいのだろうかと思ってしまった。僕もラルと同じ18歳だ。けれど、男だからその婚約者選びには参加出来ない。
それに、僕のこの見た目ではもし性別が女子だったとしても選ばれることは無いだろう。
「どうしてそんなに嫌なの?」
「だって王太子様はかっこよくないんだもの!!」
僕の言葉にラルがとんでもないことを口走って思わず眉を寄せた。
僕は8歳の頃からこの部屋にほぼ軟禁状態で、外のことは分からない。だけれど、ラルが度々ここに足を運んでは、こんなことがあった!誰が婚約した!って噂好きの夫人みたいに聞かせてくれるから多少は皇太子様のことを知っている。
第2王子のオスマン様はそれはそれは見目の麗しい美男子で、その弟と比べると王太子様は見劣りする見目をしているらしい。
ラルは第2王子の婚約者になりたいと昔から言っていたから、今回の婚約者候補選びは彼女の第2王子夫人への道を阻む障害物の様な認識なのだと思った。
「貴方達以上に美しい子はこの世には存在しないわ」
それは聞き慣れた言葉だった。
部屋の隅に置いてある、ボロきれみたいなシーツが敷かれたベッドの端っこに膝を立てて蹲りながら、昔嫌という程に聞かされた言葉を脳内で繰り返し思い出す。
「エスメラルダ入るわよ!」
「ラル……」
部屋に入ってきた双子の妹のコーラルの愛称を呼ぶと、顔を上げた僕に視線を向けた彼女が美しい顔を明らかに顰めた。
昔は彼女ともとても仲が良くて、何時だって一緒に居たはずなのに彼女はそのことを忘れてしまったらしい。
「その顔でこっちを見ないで」
「……ごめん」
咄嗟に包帯が巻かれた顔を手で抑える。
痛みは無い。ただ、包帯越しからも感じるザラりとした感覚に自分ですら気持ち悪いと感じた。
「……ところで何か用?」
片方しか見えない目で彼女をチラチラと見ながら尋ねると、ラルは苛立ちを隠すことも無く近くにあった小物入れを手に取って床へと投げつけた。
それを見つめながら、またかって思う。
嫌なことがあると直ぐに癇癪を起こして僕の所に来ては物を壊すのは昔から変わらない。
「王太子様が26歳の誕生日に婚約者を選ぶんですって!」
「そうなんだね……でも、どうしてラルが怒っているの?」
恐る恐る尋ねれば、彼女は赤い顔を更に真っ赤にさせて床に叩きつけて壊れてしまった小箱を蹴りつける。
「18歳以上の貴族の女子は皆その婚約者選びに参加しないといけないのよ!!私は公爵家の一人娘だから婚約者最有力候補だってお父様が言うの!そんなの嫌よっ」
「……でも、王太子様の婚約者ならその内王妃さまになれるじゃないか……」
あまりラルを刺激しないようにそう言うと、彼女は嫌だ嫌だと首を振って駄々をこねる。
そんな彼女を見つめながら、僕にどうして欲しいのだろうかと思ってしまった。僕もラルと同じ18歳だ。けれど、男だからその婚約者選びには参加出来ない。
それに、僕のこの見た目ではもし性別が女子だったとしても選ばれることは無いだろう。
「どうしてそんなに嫌なの?」
「だって王太子様はかっこよくないんだもの!!」
僕の言葉にラルがとんでもないことを口走って思わず眉を寄せた。
僕は8歳の頃からこの部屋にほぼ軟禁状態で、外のことは分からない。だけれど、ラルが度々ここに足を運んでは、こんなことがあった!誰が婚約した!って噂好きの夫人みたいに聞かせてくれるから多少は皇太子様のことを知っている。
第2王子のオスマン様はそれはそれは見目の麗しい美男子で、その弟と比べると王太子様は見劣りする見目をしているらしい。
ラルは第2王子の婚約者になりたいと昔から言っていたから、今回の婚約者候補選びは彼女の第2王子夫人への道を阻む障害物の様な認識なのだと思った。
43
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる