緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶

文字の大きさ
9 / 83
癒しの王太子

4.

しおりを挟む
確かに目が見えないのは不便だと思っていた。けれど、そこでふと疑問が浮かんだ。

「……どうして良くしてくれるんですか」

彼とは今日が初対面だし、良くしてもらう理由がない。

僕の質問に彼はまた驚いた顔をすると、僕の手を再び取って、なぜでしょうって呟いた。

「私の力はとても便利です。周りにはこの力を貸してくれと良く頼られるんですよ」

「……そんなの理不尽です」

「どうして?」

「貴方は利用されてるだけだから……王太子様なのに……」

「王太子だからこそ、この力は皆のために使うのですよ。けれど、貴方のことは何故か王太子としてではなく自分自身として治してあげたいと思っています」

そう言って微笑んだ彼の顔を見てドキリと胸が鳴った。

「……何も返せないです」

「それでかまいません。それに、貴方が初めてなんですよ」

「……なにがですか?」

「私の治療を断ったのは、貴方が初めてなんです。なんだかそれが嬉しくて……。変ですよね」

くすくすと笑いながら彼が僕の仮面へと触れてきた。ぎゅっと目をつぶると、彼の手からまた淡い光が漏れて僕の顔の右側を照らす。

一瞬右目が熱くなって、光が収まると火傷でただれて開かなくなっていた瞳がすんなりと開くことに気がついた。

思わず仮面の下に指を滑り込ませて確認すると、火傷のザラりとした感覚は残っていて、本当に目だけを治してくれたのが分かった。

「見えますか?」

「……はい……」

貴方の顔が良く見えます。

久しぶりに開いた右目は思ったよりも違和感がなく、片目で見るよりも確実に視野の広くなった僕にはフェリクス王太子様の顔が先程よりも良く見えた。

その事に感動する。

嬉しくてなんだか泣いてしまいそうだった。

「本当に傷は治さなくていいのかい?」

少し砕けた口調で尋ねられて、僕は小さく頷き返す。

「これでいいんです。ありがとうございます」

微かに口元に笑みを浮かべてお礼を伝えた。引き釣れた右側が邪魔をして上手く笑うことは出来ないけれど、彼に僕が喜んでいることが伝わればいいと思った。

「貴方はとても強い人ですね」

そう言って彼が握っていた僕の手を離した。

その事に名残惜しさを感じる。

「……強くなんてありません」

こう答えるのが精一杯だった。
僕は弱虫だ。この傷を治したくないと言うくせに、人に見られることは怖がっている。
醜い自分を誰かに見られて、気持ち悪いと言われてしまうことが嫌だ。

だから、強くなんてない。
ただ、強がっているだけなんだ。

「貴方の名前を伺ってもいいですか?」

「……っ……」

なんて答えるか迷って口ごもる。

僕は今日ラルとしてここに来ている。だけど、僕自身は自分の名前を彼に知って欲しいと思ってしまっている。

「……コーラル……コーラル=アルスタッドです」

でも、やっぱり双子の妹の幸せを壊すことは出来ないって思ったんだ。

「コーラル、いい名前ですね。」

「……僕なんかに敬語はやめてください」

気になっていたことを言えば彼がふわりと笑ってくれた。

「コーラル、美しい貴方に幸多からんことを願うよ」

彼の言葉が僕の中に染み渡る。
それなのに、どうしてこんなにも苦しいんだろう。

「……っ」

思わず逃げるように彼の前から駆け出していた。

彼が驚いてコーラルって名前を呼ぶけれど僕は立ち止まることはせずに必死に走り続けた。

涙が溢れてきて、顔を濡らすのも気にせずにただひたすら走り続けて、自分の乗ってきた馬車を見つけると構わずに乗り込んで御者にすぐに出すように伝えたんだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...