緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶

文字の大きさ
14 / 83
幸せのお裾分け

5

しおりを挟む
楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだって今日初めて知ったんだ。

フェリクス様とお話するのは楽しくて、美味しくて甘いお茶菓子とフェリクス様が入れてくれた紅茶を楽しみながら過ごす一時は僕にとってかけがえのない思い出になった。

「そろそろ帰らないと行けない時間だね」

「……はい」

寂しい……。

でも、そんなこと言えない。だって、絶対彼のことを困らせてしまうから。

だから、これだけは聞いてもいいだろうか。

「あの……、どうして誘ってくれたんですか」

僕が本当はコーラル=アルスタッドじゃないって気がついているはずなのに。それなのにどうしてコーラル=アルスタッドの名前で手紙を出したんですか。

もしも、僕じゃなくてラルがこのお茶会に来ていたら貴方はどうしていましたか?

「君が何を言いたいのか分かっているつもりだよ」

紅茶を一口飲んだ後、フェリクス様がそう言ってくすりと小さく笑を漏らした。

その笑みとカップが置かれた音が重なって僕の耳に届くと、何故か心臓を掴まれた様な気分にさせられた。

「……僕……」

先程まで紅茶を飲んでいたはずなのに、喉が酷く乾いていて喉奥に何かが詰まったような感覚がする。

「そんなに怖がらないで。今日のお茶会は私にとっては1種の賭けの様なものだったんだ」

「……賭け?」

「君がコーラル=アルスタッド嬢ではないことは最初から分かっていたよ。あの子は良くも悪くも社交界ではものすごく目立っているから。それと同時に、コーラル嬢に双子のお兄さんが居ることも知っている」

「……っ……ごめんなさい……」

きっと彼は怒っているんだろうって思った。
だから、謝罪の言葉を口に出して、必死に泣くのを我慢する。

顔の右側が痙攣したみたいにピクリと何度も動いていて、頭の中はどうしよう、嫌われた、って言葉でいっぱいになっていた。

僕の謝罪を聞いたフェリクス様が目をまん丸にして僕を見てくるから、もう一度謝ろうと口を開きかけた時、彼の大きな手が僕の手を包み込んできて、次は僕が目を丸くさせる。

「なにか勘違いをさせてしまったみたいだ」

「勘違いなんて……」

「私はただ、君の名前を聞きたかっただけなんだ。そのために賭けをした。コーラル嬢の名前でお茶会の誘いの手紙を出して君が来てくれるかどうか賭けたんだ」

「……え?」

「名前を教えて欲しいと初めて会った時にお願いしたのを覚えている?」

彼の問に頷くと、彼が安堵の表情を浮かべた。

「まだ、名前を教えて貰っていないから。だから、どうしても君から直接、君の声で君の名前を教えて欲しかったんだ」

フェリクス様の言葉を聞き終えた僕は思わず我慢していた涙をポロポロと流した。

記憶を辿ると、確かに彼は今日1度も僕のことをコーラルと呼んでいない。

「君さえ良ければ私に君の名前を教えてくれないかな?」

最初から分かっていて、僕をちゃんと僕として扱ってくれていたんだ。こんなに醜い僕に・・彼は優しくしてくれて、幸せな時間をくれていたんだ。

「……っ、僕っ……僕の名前はっ……」

「慌てないで、ゆっくりでいいから」

フェリクス様がそう言って僕の手を撫でてくれる。
だから、僕は言われた通りゆっくりゆっくり深呼吸して、ちゃんと彼に伝わるようにゴシゴシと空いている方の手で涙を拭って彼の目を見返した。

「……っ、僕の名前は、エスメラルダ=アルスタッドです」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...