緑宝は優しさに包まれる〜癒しの王太子様が醜い僕を溺愛してきます〜

天宮叶

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夜の宝石

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ラルは、わからず屋!って言い捨てて僕の横を駆け足で通り過ぎて行った。そんな彼女に背を向けたまま僕も部屋へと向かって歩き出す。

涙は引っ込んでいて、そっと仮面越しに顔に触れてため息を零した。

ラルは僕が自分のことばかり責めていると言うけれど、そうじゃない。

この傷を負ったばかりの頃は熱湯をかけてきたあの子を恨んだし、同じ目に会えばいいと毎日願っていた。それにお金があるくせに回復魔法の使い手を呼んでくれなかったお父様やお母様にも不満を募らせていたんだ。

今ならどうして回復魔法の使い手が来なかったのかよく分かる。

当時、僕は我儘で傲慢で、人の気持ちなんてこれっぽっちも分からなくて、無駄に地位だけは高い鼻持ちならない公爵子息だったから、誰も金を積まれたって僕のために回復魔法を使うことはしたくなかったんだと思う。

部屋に戻るとお父様に言われた通りに衣装を脱いで、食事を持ってきてくれていたメイドさんに棄てる様にお願いした。

メイドさんは困惑していたけれど、僕はその困惑を見て見ぬふりをする。

こんなことをしたってお父様が僕のことを見てくれないことは分かっている。それでも、従順に逆らわずいい子にしていれば、また愛を貰えるのではないかと期待してしまうんだ。

ベッドに潜り込んでぎゅっと目を閉じた。

そうしたら目の前にフェリクス様の笑った顔が浮かんでくる。

その顔を思い浮かべれば、悲しいことも全然平気な気さえしてくるんだ。

「……フェリクス様会いたい……」

彼に会いたい。

笑いかけてくれるだけでいいから、僕の名前を呼んで僕の隣に居てくれないかな。

そんなの望んじゃないけないことだってちゃんと分かってる。でも、心の中で思うくらい許して欲しい。心だけは自由でありたいから。

ああ、ラルが第2王子と結ばれればいいのに。

そうすればお父様だってラルをフェリクス様と婚約させたいなんて思わないかもしれない。

そう考えて、やっぱり僕は最低で卑怯な人間だって自覚した。

僕ではフェリクス様に釣り合わないって怖がって逃げる癖に、フェリクス様が他の人を婚約者にするのを想像すると嫌だって思う。

こんな気持ち理解したくなかった。

それでも、坂道を転げ始めた石ころが止まれないように、フェリクス様の方に傾いていく心を止めることは出来ない。

「……ごめんなさい」

誰に言うでもなくそう呟いて、暗闇の中に意識が流れていくことに集中する。

そうすれば段々と思考はゆっくりと閉じていった。

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