79 / 83
幸せの在り方
3
しおりを挟む
話を終えてラルと2人部屋を出ると、ラルはオスマン様に会いに行くからと僕とは逆方向へと歩みを進めた。
その後ろ姿にもう一度心の中で別れを告げて、僕も彼女に背を向けて歩き出す。
「エスメラルダ様」
「ダリウスさん」
目の前から歩いてきたダリウスさんが僕の姿を見て声をかけてくれた。
立ち止まると彼を真っ直ぐに見上げて、お疲れ様ですって挨拶をする。
「火傷の跡は本当に消えてしまったのですね」
「……ええ。これで良かったのか僕にはまだ分かりません」
「……私はそれで良かったのだと思います。貴方には明るい道が似合うと思うから」
ダリウスさんは前みたいに口元に浅く笑みを浮かべながらそう答えてくれた。
「ありがとうございます」
それに返す言葉を僕はこれしか思い浮かばない。
そんな僕の手を取ってダリウスさんが僕の目の前に片足を上げて跪く。
「御婚約を心からお喜び申し上げます。ずっと伝えられずに居ましたが、ようやく決心がつきました」
「……ダリウスさん」
「これからは貴方のことも私に守らせて欲しいのです。どうか私にお二人の未来を導く手助けをさせて欲しい」
「……ぼ、僕……」
好きだったのだと彼は前に僕に伝えてくれた。
その想いが彼にまだ残っていたとしても、僕はそれに応えることは出来ない。
だから、僕は笑みを浮かべた。
「よろしくお願いします」
そうして、僕の手を取る彼の手に自身のもう片方の手を重ねる。
そんな僕の手に彼が忠誠の口付けを落とす。
あの日、起こった悲劇を忘れることはないのだと思う。
きっとそれはダリウスさんも同じだ。
火傷が消えてしまった様に、過去の傷が消えてしまうことはないけれど、少しずつ縫い合わせるようにあの日のことを過去のことだと思える日が来たら本当の意味でダリウスさんと笑い合える日が来るのだろうか。
未来のことは分からないけれど、今僕が伝えられる精一杯を彼にあげたいと思った。
「ねえ、ダリウスさん。あの日、クッキーをくれてありがとう。あの時は食べることが出来なかったけれどいつかまた食べさせて欲しいな」
「っ……ええ、勿論です」
「それから……」
跪く彼の前に僕も膝を着いて、視線を合わせると彼の瞳を真っ直ぐに見返す。
「僕のことを好きになってくれてありがとう。貴方のその心を間違いだなんて思わないで欲しい。ずっと伝えられなくてごめんなさい」
ダリウスさんの瞳が揺れて、一筋目尻から涙が溢れ落ちる。
その涙を拭うことは僕には出来なかった。
その後ろ姿にもう一度心の中で別れを告げて、僕も彼女に背を向けて歩き出す。
「エスメラルダ様」
「ダリウスさん」
目の前から歩いてきたダリウスさんが僕の姿を見て声をかけてくれた。
立ち止まると彼を真っ直ぐに見上げて、お疲れ様ですって挨拶をする。
「火傷の跡は本当に消えてしまったのですね」
「……ええ。これで良かったのか僕にはまだ分かりません」
「……私はそれで良かったのだと思います。貴方には明るい道が似合うと思うから」
ダリウスさんは前みたいに口元に浅く笑みを浮かべながらそう答えてくれた。
「ありがとうございます」
それに返す言葉を僕はこれしか思い浮かばない。
そんな僕の手を取ってダリウスさんが僕の目の前に片足を上げて跪く。
「御婚約を心からお喜び申し上げます。ずっと伝えられずに居ましたが、ようやく決心がつきました」
「……ダリウスさん」
「これからは貴方のことも私に守らせて欲しいのです。どうか私にお二人の未来を導く手助けをさせて欲しい」
「……ぼ、僕……」
好きだったのだと彼は前に僕に伝えてくれた。
その想いが彼にまだ残っていたとしても、僕はそれに応えることは出来ない。
だから、僕は笑みを浮かべた。
「よろしくお願いします」
そうして、僕の手を取る彼の手に自身のもう片方の手を重ねる。
そんな僕の手に彼が忠誠の口付けを落とす。
あの日、起こった悲劇を忘れることはないのだと思う。
きっとそれはダリウスさんも同じだ。
火傷が消えてしまった様に、過去の傷が消えてしまうことはないけれど、少しずつ縫い合わせるようにあの日のことを過去のことだと思える日が来たら本当の意味でダリウスさんと笑い合える日が来るのだろうか。
未来のことは分からないけれど、今僕が伝えられる精一杯を彼にあげたいと思った。
「ねえ、ダリウスさん。あの日、クッキーをくれてありがとう。あの時は食べることが出来なかったけれどいつかまた食べさせて欲しいな」
「っ……ええ、勿論です」
「それから……」
跪く彼の前に僕も膝を着いて、視線を合わせると彼の瞳を真っ直ぐに見返す。
「僕のことを好きになってくれてありがとう。貴方のその心を間違いだなんて思わないで欲しい。ずっと伝えられなくてごめんなさい」
ダリウスさんの瞳が揺れて、一筋目尻から涙が溢れ落ちる。
その涙を拭うことは僕には出来なかった。
36
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる