31 / 51
再会と嫉妬
しおりを挟む
パーティー当日、不安に駆られながら馬車を降りた。目の前にはラミレス子爵家が聳え建っている。
婚約発表パーティーは、子爵家内にある大広間で行われる。大商人の権力と富を惜しみなく利用し作られた大広間は、豪華絢爛で他貴族と比べても立派だ。
緊張で震えながら門から子爵家内へと足を踏み入れようとしたとき、隣に立っていたデューク様に手を取られた。
「一人で行こうとするな」
「っ、ありがとうございます」
デューク様が隣に立ってくれているだけで、何倍も勇気が湧いてくる。
中庭を通り、大広間へ直接向かう。
すでに会場入りした貴族達で会場内は賑わいを見せていた。
わっと会場が湧くと、階段から腕を組んだジルバート様とオリビアが降りてくる。本当ならオリビアの立つ場所には僕が居たはず。それを思うと複雑な心地にもなる。
子爵家を出るときには恨みもあった。悲しくて、こんな扱いは耐えられないとすら思ったほどだ。
それでも、今はデューク様に出会えてよかったと本気で感じる。
未だに繋がっている手に力を込めると、デューク様が僕へ視線を向けてくれる。ふわりと、赤い瞳が細められる。不安な僕の心を汲み取り、落ちつかせようとしてくれている気がした。
「皆様、この度は私達の婚約発表パーティーに参加いただきありがとうございます。存分に楽しんでいかれてください」
久しぶりに聞くジルバート様の声には、微かな喜びが含まれているように聞こえる。幸せそうに、隣に立つオリビアへと視線を向けていた。
僕は彼のあんな表情を見たことがない。
いつだって完璧な婚約者として振る舞ってくれた。僕を励まし、ジルバート様の婚約者として立ててくれていた。優しくて、非の打ち所がない。けれど、一度として僕に感情の篭った視線を向けてくれたことはない。
それは僕も同じだったのだと今ならわかる。
──だから僕はジルバート様を責めることなどできない。
僕はジルバート様に居場所を求めていた。味方のいない子爵家で唯一の拠り所。政略的な婚姻。愛などなかった。
きっと依存を愛だと勘違いしていたんだ。
ジルバート様にとって僕から与えられる依存は負担でしかなかったのかもしれない。そんなとき、無邪気で純粋なオリビアがジルバート様を求めた。
きっと誰だって惹かれてしまう。
「あれがアルビーの弟か」
「っ……」
ポツリとデューク様が呟く。僕を見ていたはずの瞳が真っ直ぐにオリビアへと向けられている。
美しい純白の衣装を身に纏うオリビアは、まるで舞い降りた女神のように輝いている。燕尾の部分に入ったプリーツには、光を取り込み反射する軽い素材が使用されている。胸元を飾るジャボも、顔を覗かせるチーフですら上等品だと一目でわかった。
お父様達はオリビアに最高の衣装を仕立ててあげたのだろう。
ジルバート様も、対になるように同じ模様が刺繍されたタキシードを身に纏っている。
僕の憧れる美しさがそこにはあった。
デューク様もオリビアの美貌に目を奪われたのかもしれない。胸が酷く痛む。
(僕だけを見ていてください……)
胸の中を黒い煙が渦巻く。これは嫉妬だ。
婚約発表パーティーは、子爵家内にある大広間で行われる。大商人の権力と富を惜しみなく利用し作られた大広間は、豪華絢爛で他貴族と比べても立派だ。
緊張で震えながら門から子爵家内へと足を踏み入れようとしたとき、隣に立っていたデューク様に手を取られた。
「一人で行こうとするな」
「っ、ありがとうございます」
デューク様が隣に立ってくれているだけで、何倍も勇気が湧いてくる。
中庭を通り、大広間へ直接向かう。
すでに会場入りした貴族達で会場内は賑わいを見せていた。
わっと会場が湧くと、階段から腕を組んだジルバート様とオリビアが降りてくる。本当ならオリビアの立つ場所には僕が居たはず。それを思うと複雑な心地にもなる。
子爵家を出るときには恨みもあった。悲しくて、こんな扱いは耐えられないとすら思ったほどだ。
それでも、今はデューク様に出会えてよかったと本気で感じる。
未だに繋がっている手に力を込めると、デューク様が僕へ視線を向けてくれる。ふわりと、赤い瞳が細められる。不安な僕の心を汲み取り、落ちつかせようとしてくれている気がした。
「皆様、この度は私達の婚約発表パーティーに参加いただきありがとうございます。存分に楽しんでいかれてください」
久しぶりに聞くジルバート様の声には、微かな喜びが含まれているように聞こえる。幸せそうに、隣に立つオリビアへと視線を向けていた。
僕は彼のあんな表情を見たことがない。
いつだって完璧な婚約者として振る舞ってくれた。僕を励まし、ジルバート様の婚約者として立ててくれていた。優しくて、非の打ち所がない。けれど、一度として僕に感情の篭った視線を向けてくれたことはない。
それは僕も同じだったのだと今ならわかる。
──だから僕はジルバート様を責めることなどできない。
僕はジルバート様に居場所を求めていた。味方のいない子爵家で唯一の拠り所。政略的な婚姻。愛などなかった。
きっと依存を愛だと勘違いしていたんだ。
ジルバート様にとって僕から与えられる依存は負担でしかなかったのかもしれない。そんなとき、無邪気で純粋なオリビアがジルバート様を求めた。
きっと誰だって惹かれてしまう。
「あれがアルビーの弟か」
「っ……」
ポツリとデューク様が呟く。僕を見ていたはずの瞳が真っ直ぐにオリビアへと向けられている。
美しい純白の衣装を身に纏うオリビアは、まるで舞い降りた女神のように輝いている。燕尾の部分に入ったプリーツには、光を取り込み反射する軽い素材が使用されている。胸元を飾るジャボも、顔を覗かせるチーフですら上等品だと一目でわかった。
お父様達はオリビアに最高の衣装を仕立ててあげたのだろう。
ジルバート様も、対になるように同じ模様が刺繍されたタキシードを身に纏っている。
僕の憧れる美しさがそこにはあった。
デューク様もオリビアの美貌に目を奪われたのかもしれない。胸が酷く痛む。
(僕だけを見ていてください……)
胸の中を黒い煙が渦巻く。これは嫉妬だ。
410
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】選ばれない僕の生きる道
谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。
選ばれない僕が幸せを選ぶ話。
※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです
※設定は独自のものです
※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる