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婚約回避をするためには主人公を見つければいいんだ!
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フィーロの第二性別検査はすぐに行われた。
結果はやはりベータ。アルファを期待していた両親はひどく落胆し、フィーロを怒鳴ろうとしたが傍にいたゼンが庇ったことで叱責されることはなかった。
「お兄様はすごいです。魔術協会の一級魔術師だと聞きました。それにアルファだとも……」
フィーロを部屋に送り届けて、二人でお茶をしているとそう言われて手を止めた。
ベータだったことを相当気にしているようだ。
「肩書きは努力次第でいくらでも手に入る。第二性別など気にする必要はない」
「……それでも悔しいです」
出生の関係もありフィーロはどこか心の奥底に劣等感をくすぶらせている。
下手に慰めても効果はないだろう。特にゼンは表向きは優秀なアルファであり、一級魔術師だ。
一級魔術師は魔術師の中でも優れたものだけが手にすることのできる称号だ。騎士団長と並んで力のある地位。
ゼンは一年前、一級魔術師の資格を最年少で獲得した魔術の天才だ。あくまで表向きはだけれど……。
「フィーロはまだ伯爵家に来たばかりだ。なによりも先に自分の健康のことを考えろ。ほらもっと食え。遠慮はしなくていい」
テーブルに並べられた茶菓子を適当に皿に乗せてやる。
遠慮しているのかフィーロは食がやたらと細い。これでは出したくても力も出ない。
「お兄様は騎士団長様と肩を並べるくらいお強いのですよね?騎士団長様はどんな方なのですか?」
騎士団長という言葉につい反応して口元がひくつく。
フィーロに絶対に会わせてはいけない人物。それが若くしてエイリーク公爵家の当主であり騎士団長であるルーカス・エイリークだからだ。
小説の中のルーカスとゼンは犬猿の仲で、ゼンはなにかとルーカスを敵対視していた。フィーロを利用してルーカスを窮地に陥れようとしたこともある。
(まあ、それがバレて一級魔術師の地位を剥奪されて僻地に追いやられるんだけど……)
と、そんなふうに悠長に構えている場合ではない。
ゼンもフィーロもルーカスにだけは関わってはいけない。そう!絶対に!
「フィーロ、そんなことよりこのマカロンを食べてみてくれ。俺がフィーロのために買ってきたんだ」
「わぁ!こんなに綺麗なお菓子初めて食べます!いいんですか?」
「あぁ、好きなだけ食べていい」
どうやら上手く話をそらすことができたようだ。
味わうようちまちまとマカロンを食べているフィーロはリスのようで可愛らしい。尊い姿を拝みながら、ゼンも目の前に置かれてあるチョコ菓子を口に入れた。ゼンの好み通り苦めに仕上げられたそれは、サクッと音を鳴らして口内でほぐれていく。
まだ記憶を取り戻す前、甘いものが苦手なゼンは甘いチョコ菓子を誤って出してしまったメイドを首にしたことがある。その件があってからゼンの食べるものはベテランの料理長とメイド長が用意することになったそうだ。
(流石冷血大魔王様……)
それが過去の自分の行いだと思うと恥ずかしいやら申し訳ないやら……。
お礼をいうだけで怖がられてしまうため、いたたまれない気持ちを抱えている。
フィーロに優しくするのも裏があると思われているようだ。
「フィーロ付きのメイドを用意しないといけないな。歳は近いほうがいいか?」
「その……おまかせしてもいいでしょうか?」
「わかった。すぐに手配をしておく」
ふとあることに思い至った。
確かこの時期はフィーロとルーカスの婚約の話が出る時期だったはず。
(ということは彼もすでにこの屋敷にいるはずだ)
この小説世界の主人公──シャノンは伯爵家に仕えるメイドの連れ子だ。重い病にかかったメイドがメイド長に口利きしてもらいシャノンを伯爵家に置いてもらえるように頼んだため、シャノンは伯爵家の使用人部屋に住んでいる。
(くそ~、記憶を取り戻す前は周りにまったく興味がなかったからシャノンがどこに居るのかすら把握してない)
これはまずいことになった。
あと数日もすればルーカスが屋敷に訪ねてくる。急に決まった婚約話だったためゼンもこのことを知らなかった。
しかもフィーロはオメガだと偽ってルーカスに嫁がされそうになる。
「俺が必ず守ってやるからな」
「?」
マカロンを頬張っていたフィーロが首を傾げながら見つめてきた。その表情があまりにも可愛くてニヤけてしまいそうになる。けれどゼンの強固な顔面はピクリとも動かなかった。
そもそもフィーロがルーカスに嫁ぐこととなった流れがあまりにもひどい。
フィーロがベータだとわかり、平民出身で平凡なフィーロのことを両親は邪魔だと考えた。そこでライバルとも呼べる仲である公爵家にフィーロを押し付けてしまおうと考えたわけだ。
騎士団長であるルーカスは立場上、一級魔術師であるゼンの実家の頼みを無下にはできない。仲は悪くとも互いに国を防衛する役割を担う機関のトップだ。それなりに礼儀はわきまえなくてはならないうえに、今回の婚約話が上手く行けば親交も深まる。
(けど両親はフィーロをオメガだと偽って婚約させるんだよな)
婚約の期間を設けてから婚姻が普通の流れだ。
フィーロはその期間でルーカスに恋をするが、ルーカスは早い段階からフィーロがベータだと気付いてしまう。
しかもフィーロの機嫌取りのために通っていた伯爵家でシャノンに出会ってしまうため、フィーロは婚約者からも愛してもらえず結局孤独は埋められなかった。
「お兄様考え事をされているんですか?」
「フィーロのことを考えていた。この先、きっと辛いことがたくさん起こるだろう。だが、俺だけはお前の味方だと信じてくれるか?」
唐突にこんなことを言われても驚くだけだとはわかっている。
それでも伝えたかった。可愛い弟が幸せを掴めるのであれば、仕える手はすべて使ってしまおうとすら考えているほどだ。
「僕にこんなにも優しくしてくれるのはお兄様だけです。お父様もお母様も僕のことを嫌っているし、使用人は妾の子だと言います。でもお兄様は違うから、僕はお兄様のことなら信じられます」
「ありがとうフィーロ」
なんて良い子なんだ!
こんなに可愛い子をいじめるなんて許せない。絶対に守ってやりたい。
そうと決まれば作戦を練らなければいけない。
(主人公ならどんなタイミングで出会っても大丈夫なんじゃないか?)
そんな考えが頭の中に浮かんだ。
シャノンを事前に見つけておいて、当日話し合いの場に連れてくればいい。そうすれば自然とルーカスはシャノンに目を留めるはず。なんたって二人は運命の番いだから。
そうと決まればシャノンを探そう。
「フィーロ、俺はこれから予定があるから部屋で好きに過ごしていろ」
「……はい」
寂しそうにしょぼんとした表情を浮かべたフィーロが立ち上がる。ゼンも立ち上がると、しょぼしょぼのフィーロの頭を撫でてやる。
ぱっと顔を上げたフィーロが、不安げな青い瞳を向けてきた。
「屋敷内には居るから安心しろ」
「っ、はい」
へにょりと顔を崩して笑みを浮かべるフィーロは本当に可愛い。こんなに可愛い子が悪役令息になるだなんて考えられなかった。
結果はやはりベータ。アルファを期待していた両親はひどく落胆し、フィーロを怒鳴ろうとしたが傍にいたゼンが庇ったことで叱責されることはなかった。
「お兄様はすごいです。魔術協会の一級魔術師だと聞きました。それにアルファだとも……」
フィーロを部屋に送り届けて、二人でお茶をしているとそう言われて手を止めた。
ベータだったことを相当気にしているようだ。
「肩書きは努力次第でいくらでも手に入る。第二性別など気にする必要はない」
「……それでも悔しいです」
出生の関係もありフィーロはどこか心の奥底に劣等感をくすぶらせている。
下手に慰めても効果はないだろう。特にゼンは表向きは優秀なアルファであり、一級魔術師だ。
一級魔術師は魔術師の中でも優れたものだけが手にすることのできる称号だ。騎士団長と並んで力のある地位。
ゼンは一年前、一級魔術師の資格を最年少で獲得した魔術の天才だ。あくまで表向きはだけれど……。
「フィーロはまだ伯爵家に来たばかりだ。なによりも先に自分の健康のことを考えろ。ほらもっと食え。遠慮はしなくていい」
テーブルに並べられた茶菓子を適当に皿に乗せてやる。
遠慮しているのかフィーロは食がやたらと細い。これでは出したくても力も出ない。
「お兄様は騎士団長様と肩を並べるくらいお強いのですよね?騎士団長様はどんな方なのですか?」
騎士団長という言葉につい反応して口元がひくつく。
フィーロに絶対に会わせてはいけない人物。それが若くしてエイリーク公爵家の当主であり騎士団長であるルーカス・エイリークだからだ。
小説の中のルーカスとゼンは犬猿の仲で、ゼンはなにかとルーカスを敵対視していた。フィーロを利用してルーカスを窮地に陥れようとしたこともある。
(まあ、それがバレて一級魔術師の地位を剥奪されて僻地に追いやられるんだけど……)
と、そんなふうに悠長に構えている場合ではない。
ゼンもフィーロもルーカスにだけは関わってはいけない。そう!絶対に!
「フィーロ、そんなことよりこのマカロンを食べてみてくれ。俺がフィーロのために買ってきたんだ」
「わぁ!こんなに綺麗なお菓子初めて食べます!いいんですか?」
「あぁ、好きなだけ食べていい」
どうやら上手く話をそらすことができたようだ。
味わうようちまちまとマカロンを食べているフィーロはリスのようで可愛らしい。尊い姿を拝みながら、ゼンも目の前に置かれてあるチョコ菓子を口に入れた。ゼンの好み通り苦めに仕上げられたそれは、サクッと音を鳴らして口内でほぐれていく。
まだ記憶を取り戻す前、甘いものが苦手なゼンは甘いチョコ菓子を誤って出してしまったメイドを首にしたことがある。その件があってからゼンの食べるものはベテランの料理長とメイド長が用意することになったそうだ。
(流石冷血大魔王様……)
それが過去の自分の行いだと思うと恥ずかしいやら申し訳ないやら……。
お礼をいうだけで怖がられてしまうため、いたたまれない気持ちを抱えている。
フィーロに優しくするのも裏があると思われているようだ。
「フィーロ付きのメイドを用意しないといけないな。歳は近いほうがいいか?」
「その……おまかせしてもいいでしょうか?」
「わかった。すぐに手配をしておく」
ふとあることに思い至った。
確かこの時期はフィーロとルーカスの婚約の話が出る時期だったはず。
(ということは彼もすでにこの屋敷にいるはずだ)
この小説世界の主人公──シャノンは伯爵家に仕えるメイドの連れ子だ。重い病にかかったメイドがメイド長に口利きしてもらいシャノンを伯爵家に置いてもらえるように頼んだため、シャノンは伯爵家の使用人部屋に住んでいる。
(くそ~、記憶を取り戻す前は周りにまったく興味がなかったからシャノンがどこに居るのかすら把握してない)
これはまずいことになった。
あと数日もすればルーカスが屋敷に訪ねてくる。急に決まった婚約話だったためゼンもこのことを知らなかった。
しかもフィーロはオメガだと偽ってルーカスに嫁がされそうになる。
「俺が必ず守ってやるからな」
「?」
マカロンを頬張っていたフィーロが首を傾げながら見つめてきた。その表情があまりにも可愛くてニヤけてしまいそうになる。けれどゼンの強固な顔面はピクリとも動かなかった。
そもそもフィーロがルーカスに嫁ぐこととなった流れがあまりにもひどい。
フィーロがベータだとわかり、平民出身で平凡なフィーロのことを両親は邪魔だと考えた。そこでライバルとも呼べる仲である公爵家にフィーロを押し付けてしまおうと考えたわけだ。
騎士団長であるルーカスは立場上、一級魔術師であるゼンの実家の頼みを無下にはできない。仲は悪くとも互いに国を防衛する役割を担う機関のトップだ。それなりに礼儀はわきまえなくてはならないうえに、今回の婚約話が上手く行けば親交も深まる。
(けど両親はフィーロをオメガだと偽って婚約させるんだよな)
婚約の期間を設けてから婚姻が普通の流れだ。
フィーロはその期間でルーカスに恋をするが、ルーカスは早い段階からフィーロがベータだと気付いてしまう。
しかもフィーロの機嫌取りのために通っていた伯爵家でシャノンに出会ってしまうため、フィーロは婚約者からも愛してもらえず結局孤独は埋められなかった。
「お兄様考え事をされているんですか?」
「フィーロのことを考えていた。この先、きっと辛いことがたくさん起こるだろう。だが、俺だけはお前の味方だと信じてくれるか?」
唐突にこんなことを言われても驚くだけだとはわかっている。
それでも伝えたかった。可愛い弟が幸せを掴めるのであれば、仕える手はすべて使ってしまおうとすら考えているほどだ。
「僕にこんなにも優しくしてくれるのはお兄様だけです。お父様もお母様も僕のことを嫌っているし、使用人は妾の子だと言います。でもお兄様は違うから、僕はお兄様のことなら信じられます」
「ありがとうフィーロ」
なんて良い子なんだ!
こんなに可愛い子をいじめるなんて許せない。絶対に守ってやりたい。
そうと決まれば作戦を練らなければいけない。
(主人公ならどんなタイミングで出会っても大丈夫なんじゃないか?)
そんな考えが頭の中に浮かんだ。
シャノンを事前に見つけておいて、当日話し合いの場に連れてくればいい。そうすれば自然とルーカスはシャノンに目を留めるはず。なんたって二人は運命の番いだから。
そうと決まればシャノンを探そう。
「フィーロ、俺はこれから予定があるから部屋で好きに過ごしていろ」
「……はい」
寂しそうにしょぼんとした表情を浮かべたフィーロが立ち上がる。ゼンも立ち上がると、しょぼしょぼのフィーロの頭を撫でてやる。
ぱっと顔を上げたフィーロが、不安げな青い瞳を向けてきた。
「屋敷内には居るから安心しろ」
「っ、はい」
へにょりと顔を崩して笑みを浮かべるフィーロは本当に可愛い。こんなに可愛い子が悪役令息になるだなんて考えられなかった。
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