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今はこうしていたい
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「レゲンデア様が助けてくださったおかげです!治癒魔術を使ってくださった方にもお礼をお伝えしたいッス」
「ゼンでいい。シャノンにも伝えておく」
「ゼン様ありがとうございます!噂よりも優しい方でびっくりしたッス!」
独特の語尾だなと思いながら話を聞いていたら、唐突に褒められてしまい動揺してしまった。
ゼンは褒められることに慣れていないため、そういった言葉にとことん弱い。
「……やめろ。責任を果たしただけだ」
「でもまだ要請前だったのに来てくれたじゃないですか!予知能力でもあるのかってくらい完璧なタイミングでしたし!」
予知能力と言われてどきりとしてしまった。
前世の記憶というのは予知能力のようなものだろう。それがバレるのは困ってしまう。
「たまたまだ」
「そうだよ。予知なんて普通はできるわけがないんだから」
ルーカスも同意してくれてた。
アーノルドも「そうっすよね!」と明るい声で返事をしてくれる。それに安堵して、ゼンはほっと息を吐き出した。
「そういえば今は巡回の時間じゃないか?」
「あっ!さ、サボってないっすよ!団長の姿が見えたからつい……俺、仕事に戻ります!ゼン様、本当にありがとうございました!」
勢い良くゼンへお辞儀したアーノルドは、顔を上げるとニカッと無邪気な笑みを浮かべてから先ほど走ってきた道を戻り始めた。
その背を少し見送ると、ルーカスへと視線を戻す。
「元気なやつだ」
「アーノルドは騎士訓練所を卒業したばかりの新人なんだよ。ああ見えても剣の腕は一流だよ。ただ無鉄砲な所がたまに傷かな。角狼の巣でも成果を上げたいと気が焦ったみたいでね。夢中で討伐をしているうちに仲間とはぐれてしまって、一人になったときにリーダーの角狼に襲われてしまったみたいなんだ」
「新人にはよくあることだな」
魔術師にもたまにそんなやつがいる。基本は接近戦に弱いとされる魔術師だが、たまに近距離で戦おうとする無謀な新人が現れてフォローするのも一苦労だ。
「ゼンなら優しく教育してあげそうだね」
「俺は基本他人には優しくないぞ」
「うんうん。そういうことにしておこうか」
含みのある言い方に眉を寄せる。
ルーカスの余裕な態度は気に食わないが、貶されているわけではなさそうなのであえて突っ込むことはしなかった。
「帰ろうか」
「そうだな」
柄にもなくはしゃいだ一日だった気がする。
ルーカスと一緒にいると時が経つのが早い気がした。それをあえて伝えてやるつもりもない。
──楽しかったなんて言えるわけがない。
こういうときシャノンやフィーロなら素直に楽しかったと伝えただろう。
「ゼンと一緒にいると時間があっという間に過ぎていくよ。楽しかった」
考えていたことをそのままルーカスに言われてしまい、胸の奥がギュッと締めつけられるような感覚がした。
「……まぁ、悪くはなかった」
「ふふ、そうだね」
気持ちはバレてしまっているだろう。
いつかルーカスの余裕な態度を崩してやりたい。ずっと昔からルーカスを負かしてやりたいという気持ちはあった。
いつも笑顔で澄ましている彼を焦らせてやりたい。
そんな好奇心にも近い感情がくすぶっている。
(一度だけ見たことがある気がするんだがな)
記憶を探ってみても答えには辿り着けない。今世じゃない。もっと昔の──
「ゼン、俺は君と一緒に過ごせる今が幸せでたまらないよ」
穏やかな声音で発せられた言葉を受け取ったゼンは、その言葉が胸の中にじんわりと浸透していく感覚を味わいながら、瞳を微かに潤ませた。
どうしてこんなにも泣いてしまいそうなのかはわからない。
最近はわからないことばかりだ。
決められたストーリーが少しずつ変化していくなかで、登場人物たちの心も変化していっている。
それはゼンにとってとても嬉しくて、けれど物悲しさも残る変化だ。
「送るよ」
手を取られて、ルーカスの体温を直に感じた。
いつもなら振りほどくはずなのに、今はもう少しだけこの温度を感じていたいと思う。
「馬車を待たせているからそこまででいい」
「わかった。またデートしようね」
ゼンはその言葉に軽く頷いて返事をした。
それが嬉しかったのか、ルーカスが輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
ルーカスのことが嫌いだったはずだ。避けようと必死になっていた。
婚約破棄を願っていたはずなのに、いつの間にかこの男にほだされている自分がいた。
まるで抗うことのできない運命のように、ゆっくりと惹かれ合っていく。
ゼンは、その感情の波を漂いながら自分の心に何度も問いかける。
──俺はなにを忘れている?
前世の記憶と現在の自分。
前世のことを思い出そうとしても、小説のストーリーと現代日本に生まれたことしかわからない。
年齢も職業も前世の名前すら思い出せない。まるでずっと昔からゼン・レゲンデアであったかのように──。
記憶に思考を巡らせていると、いつの間にか馬車の前まで来ていた。
「ゼン、おやすみ」
ルーカスに抱きしめられたが、抵抗する気は起こらない。
細く見えるのにしなやかな筋肉のついた腕と胸に包まれていると、モヤついていた思考が消えていく。
「ルーカス苦しい」
「ごめんね。でも、もう少しだけこうさせて」
人通りも少ないためか構わないが、ほんの少し気恥ずかしい。
そう思いながら、ゼンもルーカスの背にそっと腕を回した。
「ゼンでいい。シャノンにも伝えておく」
「ゼン様ありがとうございます!噂よりも優しい方でびっくりしたッス!」
独特の語尾だなと思いながら話を聞いていたら、唐突に褒められてしまい動揺してしまった。
ゼンは褒められることに慣れていないため、そういった言葉にとことん弱い。
「……やめろ。責任を果たしただけだ」
「でもまだ要請前だったのに来てくれたじゃないですか!予知能力でもあるのかってくらい完璧なタイミングでしたし!」
予知能力と言われてどきりとしてしまった。
前世の記憶というのは予知能力のようなものだろう。それがバレるのは困ってしまう。
「たまたまだ」
「そうだよ。予知なんて普通はできるわけがないんだから」
ルーカスも同意してくれてた。
アーノルドも「そうっすよね!」と明るい声で返事をしてくれる。それに安堵して、ゼンはほっと息を吐き出した。
「そういえば今は巡回の時間じゃないか?」
「あっ!さ、サボってないっすよ!団長の姿が見えたからつい……俺、仕事に戻ります!ゼン様、本当にありがとうございました!」
勢い良くゼンへお辞儀したアーノルドは、顔を上げるとニカッと無邪気な笑みを浮かべてから先ほど走ってきた道を戻り始めた。
その背を少し見送ると、ルーカスへと視線を戻す。
「元気なやつだ」
「アーノルドは騎士訓練所を卒業したばかりの新人なんだよ。ああ見えても剣の腕は一流だよ。ただ無鉄砲な所がたまに傷かな。角狼の巣でも成果を上げたいと気が焦ったみたいでね。夢中で討伐をしているうちに仲間とはぐれてしまって、一人になったときにリーダーの角狼に襲われてしまったみたいなんだ」
「新人にはよくあることだな」
魔術師にもたまにそんなやつがいる。基本は接近戦に弱いとされる魔術師だが、たまに近距離で戦おうとする無謀な新人が現れてフォローするのも一苦労だ。
「ゼンなら優しく教育してあげそうだね」
「俺は基本他人には優しくないぞ」
「うんうん。そういうことにしておこうか」
含みのある言い方に眉を寄せる。
ルーカスの余裕な態度は気に食わないが、貶されているわけではなさそうなのであえて突っ込むことはしなかった。
「帰ろうか」
「そうだな」
柄にもなくはしゃいだ一日だった気がする。
ルーカスと一緒にいると時が経つのが早い気がした。それをあえて伝えてやるつもりもない。
──楽しかったなんて言えるわけがない。
こういうときシャノンやフィーロなら素直に楽しかったと伝えただろう。
「ゼンと一緒にいると時間があっという間に過ぎていくよ。楽しかった」
考えていたことをそのままルーカスに言われてしまい、胸の奥がギュッと締めつけられるような感覚がした。
「……まぁ、悪くはなかった」
「ふふ、そうだね」
気持ちはバレてしまっているだろう。
いつかルーカスの余裕な態度を崩してやりたい。ずっと昔からルーカスを負かしてやりたいという気持ちはあった。
いつも笑顔で澄ましている彼を焦らせてやりたい。
そんな好奇心にも近い感情がくすぶっている。
(一度だけ見たことがある気がするんだがな)
記憶を探ってみても答えには辿り着けない。今世じゃない。もっと昔の──
「ゼン、俺は君と一緒に過ごせる今が幸せでたまらないよ」
穏やかな声音で発せられた言葉を受け取ったゼンは、その言葉が胸の中にじんわりと浸透していく感覚を味わいながら、瞳を微かに潤ませた。
どうしてこんなにも泣いてしまいそうなのかはわからない。
最近はわからないことばかりだ。
決められたストーリーが少しずつ変化していくなかで、登場人物たちの心も変化していっている。
それはゼンにとってとても嬉しくて、けれど物悲しさも残る変化だ。
「送るよ」
手を取られて、ルーカスの体温を直に感じた。
いつもなら振りほどくはずなのに、今はもう少しだけこの温度を感じていたいと思う。
「馬車を待たせているからそこまででいい」
「わかった。またデートしようね」
ゼンはその言葉に軽く頷いて返事をした。
それが嬉しかったのか、ルーカスが輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
ルーカスのことが嫌いだったはずだ。避けようと必死になっていた。
婚約破棄を願っていたはずなのに、いつの間にかこの男にほだされている自分がいた。
まるで抗うことのできない運命のように、ゆっくりと惹かれ合っていく。
ゼンは、その感情の波を漂いながら自分の心に何度も問いかける。
──俺はなにを忘れている?
前世の記憶と現在の自分。
前世のことを思い出そうとしても、小説のストーリーと現代日本に生まれたことしかわからない。
年齢も職業も前世の名前すら思い出せない。まるでずっと昔からゼン・レゲンデアであったかのように──。
記憶に思考を巡らせていると、いつの間にか馬車の前まで来ていた。
「ゼン、おやすみ」
ルーカスに抱きしめられたが、抵抗する気は起こらない。
細く見えるのにしなやかな筋肉のついた腕と胸に包まれていると、モヤついていた思考が消えていく。
「ルーカス苦しい」
「ごめんね。でも、もう少しだけこうさせて」
人通りも少ないためか構わないが、ほんの少し気恥ずかしい。
そう思いながら、ゼンもルーカスの背にそっと腕を回した。
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