聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ

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「す、すみません…初対面の方なのに取り乱してしまって…」
「全然。転んだって言ってましたけど怪我は大丈夫ですか?」

今気づいたかのように、いそいそとスラックスを捲し上げ、地面についたであろう膝を確認する。幸い少し赤くなっているくらいで、出血もしておらず安心したように二人して大きく息を吐いた。

「すみません、いろいろと…ご迷惑をおかけして」
「え?別に迷惑なんてかけられてないですけど」
「…本当にいい人だ……」

いい人要素なんてこの短い間にひとかけらもなかったと思うが、判定がゆるすぎるのか。この人にとって接した人間全員がいい人にカウントされそうだ。
お互い大した怪我がないことも確認できたし、俺は花畑に向かうために立ち上がった。

「じゃあ俺はこれで」
「あ、すみません!あ、あの…何年生なんですか?」
「1年生です。あなたは?」
「あ…!ぼ、僕も一応1年です…!」
「一応?」
「あ、めちゃくちゃ1年です」
「めちゃくちゃ?」
「あ、…1年です。今年16の歳で、……今年16歳になるのに精神年齢は6歳で止まったままの身体だけ成長した未熟野郎です…」

急にネガティブがまた発動した。どこがスイッチなのか検討がつかないが、ここまで来るとネガティブがデフォルトなのかもしれない。行き過ぎているとは思うし、生きづらそうだが。

「僕の名前、く、……、か、奏汰っていいます。1年2組です。あなたは?」
「俺は千紘です。3組です」
「……ぇ、?」
「え?」

奏汰は突然彫刻のように動かなくなった。顔の前で手を振っても反応はなく、ただ俺の顔を凝視し続ける。瞬きひとつない、呼吸ができているかもわからない。だが声をかけても顔の前で手を叩いてみても一切反応がなかった。
お互いに自己紹介をしていただけなのに、奏汰の中で何か引っかかることがあったのだろうか。そのため千紘はただ待つことしかできず、様子を窺う。
しばらくすると今度は発作のように唇をすごい勢いでかきむしり始めた。ガリガリと擦る音が痛々しい。

「おい、やめた方が…」
「ぇえ…、嘘、うそうそ、うそうそうそ…ありえない…だって、だって…ありえないありえない…」

ただでさえ青白い顔色は屍のように真っ白になり、睫毛が綺麗に並んだ目元にはじんわり涙が浮かぶ。突然の乱れ方に今度は千紘が動けないでいたが、相手の唇がじんわり出血し始めて我に返った。

「何がありえないんだ?何が嘘なんだ?」
「…ぁ、ありえないんだよ…だって、そんな……」
「何がありえないのか教えてくれないか?自己判断だけじゃ本当に真実かどうかわからない。俺も一緒に考えるから」

真剣に対話しようとする千紘に、手を止めておそるおそる目を合わせてくる。潤んだ瞳の中には千紘だけが映っている。
長い沈黙の後、真っ赤に腫れた唇を薄く開き、今にも死にそうなか弱い声を発した。

「……、俺の名前、久遠奏汰…。聞いたことあります、よね…?覚えて、…ますよね?」
「え?ないけど。有名なのか?」

顔が綺麗だし芸能人だったのかもしれないが、生憎日本にいなかったから覚えがない。奏汰の顔を見ても特に思い当たらず首を傾げていると、少しずつ顔色が戻ってきた。

「そっか…ちーくんじゃないんだ…そうなんだ…!そっか…そうだよね、うん。ちーくんがこんなところにいるはずないし」
「ちーくん?」
「あっ…ごめんね!本当に、勝手に騒ぎ立てて、勘違いして、迷惑かけっぱなしで…死んだ方がいいよね…」

自分がしたことを振り返ったのか、どんどん頭が沈んでいく。突然固まって発狂して、元気になったかと思えばまたネガティブになる。

「はっはははっ、奏汰って面白いな。奏汰の中にある感情が外に出やすいからか見ていて飽きない」
「え!?は、はじめて言われた…面白いなんて…僕には縁がない言葉なのに」
「へー多分口に出してないだけか、気づいてない間抜けかどっちかだろうな。こんなに面白いのに」

奏汰の白い肌が少しずつ赤みを帯びていく。そのとき予鈴が校舎を駆け抜けた。
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