聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ

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春の穏やかな風が千紘の頬を撫で、気分を上げてくれる朝。
結局昨日は昼休憩で花畑に行くことができなかったため、今日も早めに学校に着くようじいやにお願いした。

校内を歩いていると生徒は見当たらないが、部活動に勤しむ声や、楽器の音が聞こえてくる。カナダで通っていた学校では、部活動は昼休憩の時間のみだったため新鮮に感じる。
また中学ではシーズンごとに活動する部が違っていたため、日本ではほとんどが三年間ずっと同じ部活動に所属することを兄さんたちに聞いて驚いた。

そういえば今日から1年生の体験入部が始まる。どこに見学に行こうかぼんやり考えながら歩いていると、いつの間にか花畑に続く場所まで辿り着いていた。
タイルを飛び跳ねて木々を避けながらくぐっていく。二回目であるのに、やっぱり秘密基地みたいで童心をくすぐられる。

柔らかな花の匂いが香り、顔をあげるともう花が一面に広がっていた。中庭のようなおしゃれに整備されたものも当然美しいなのだが、やはり千紘にとっては色も種類もバラバラで、でもなぜか雑然とは見えず綺麗に馴染んで見えるこの場所の方が好ましく感じる。
花を楽しみながら、ついでにサングラスも探していると、半球の屋根が見えてきた。そういえば昨日は入口付近で引き返してしまったことを思い出す。

近づいていくと、縦一枚だけ伸びていた心許ないタイルが横に広がり、歩きやすくなっていく。タイルが緑一色から白色も増えてきたころには、半球の屋根はガゼボであることがわかった。昨日の午後にあった校内の案内では当然ここは訪れていない。
もしかすると一般の生徒は入ってはいけない場所なのかもしれないが、もう既に遅いうえに朝だから誰もいないことを踏んで行ってみることにした。近くまで行くと、想像よりも大きく中の椅子には十人以上は余裕で座れそうだ。

千紘は腰を下ろして、目を閉じる。慣れない環境にかなり体は疲れを感じており、ここ数日睡眠時間をきちんととっても目覚めが悪かった。
そのためこの場所この時間に深い安らぎを感じながら、うとうとしていると、どさっと何かが地面に落ちる音が聞こえてきた。

それでもなぜか焦ることはなく、ゆっくり顔を向ける。するとそこには、ここに来た目的の相手が立ちすくんでいた。

「おはよう」
「……ビックリシタ」

相変わらずの似合わない高い声で少し笑いそうになる。サングラスは落とした本を拾ってガゼボに入り、千紘の向かいに座った。

「ココ、ハイッチャダメ」
「やっぱり?あれ、でも君も入ってるじゃん」
「オレハ、イイ」
「ふ、何それ。じゃあ俺も許可してよ」
「………スル」
「ははっ、するんだ」

この場所が原因なのか、眠たいせいかはわからないが、何だかいつもよりふわふわしているというか、リラックスした気分になる。気を張らず肩の力も入っていない。

「そういえば何年生?」
「3ネン」
「あっ...俺1年だから敬語使わないといけないか」

兄さんたちに年上には敬語を使うよう口酸っぱく言われていたのを思い出す。サングラスの影響か立ち姿から貫禄があったため、上級生の予感はしていたが、何となく声や喋り方から昨日に続いて崩れた話し方をしてしまっていた。
しかしサングラスは首を何度か振る。

「ケイゴ、イヤ」
「え?…じゃあこのままで」
「ウン。ウレシイ」
「ふっ嬉しいんだ。そうだ!名前は?なんて呼んだらいい?」
「………ウーン…」
「あ、サングラスのサンは?」

ずっと下を向いて沈黙していたくせに、それは嫌らしく激しく首を振ってきた。なんなら手も付けてきた。それならグラにしてやろうかと言いかけたが、先に口を開いたのは相手の方だった。

「……オ」
「え?ごめん聞き取れなかった」
「………レオ」
「レオ?」

今度はこくりと小さく頷く。

「じゃあ俺は千紘で」
「チヒロ…チヒロ…、」
「何?レオ」

なぜか名前を大事な物のように噛み締めるように何度か呼ばれる。お返しに名前を呼び返すとレオは嬉しそうに口角をゆっくり持ち上げた。
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