星乃純は死んで消えたい

冷泉 伽夜

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二年目

純が見た未来の話 2

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「……あのね、純ちゃん。私は、あの子たちで結果を残したいの。会長の反対を押し切ってまでデビューさせたんだもの。意地でも売れさせたいの。だからあなたの協力が必要だし、あなたにつぶされたくないの」

「安心してください。俺は自分から辞めようとは思っていませんし、スタッフの総入れ替えも望んでいません。パパと月子ちゃんに悪い虫がつくことなく、今後も活躍できるのであれば」

 社長が返すのは、盛大なため息だ。脱力したような声で言う。

「そう。あなたはあくまで、恵と月子のため、なのね。だから、イノギフにとっての最善を考えるのは二の次になる」

「そんなことは、ありませんが……」

 こればかりはしかたない。純の能力は純の意識下で使われる。純を取り巻く環境や純の精神、体調が整わなければ能力は活かせない。

 今の状態で、純がイノセンスギフトのために能力を発揮しにくいのは言わずもがなだ。

「……入れ替えをするにしても、今じゃないんです」

 イノセンスギフトの成長を優先させるべきなのはわかっている。せめて、マネージャーである熊沢の今後を見届けなければ気が済まない。

「せっかくグループとスタッフの課題が見えてきたんです。俺だって二年待ってもらったんです。一年くらいの猶予はあげないと、いきなりクビはかわいそうでしょ?」

 その穏やかな口調と笑みに、社長の背筋は凍る。

「スタッフたちはイノギフのことを下に見て、稼げる道具としか見ていませんよ。でもそんな俺の一言をうのみにする社長じゃないでしょう? 俺は、月子ちゃんじゃないから……変な脅しはかけないつもりです」

 ようは、あと一年のうちにスタッフの実態を把握し、ちゃんとした理由で入れ替えろと言っているのだ。

 社長はほほ笑みながらも、なんともいえない恐ろしさを純に感じていた。

 紅茶に口をつけて、気を落ち着ける。

「ほんとうに恐ろしいわ、あなたって」

 にこりと笑った純は、フォークとモンブランの皿を手に取り、再び食べ始める。フォークを口にくわえ、上を見ながら尋ねた。

「そういえば、来年度から二人、マネージャーが新しく加わるそうですね」

「……ええ。今のマネージャーを主任にしてね。……あ。そうよ。マネージャーの人選を純ちゃんに手伝ってもらうべきだったんだわ。月子のことが重なってすっかり忘れてた」

 頭を抱える社長の反応に、純は苦笑する。

「なにをおっしゃいます。社長の人選を俺は信じてますよ。そのうえで、新しく加わる方の履歴書と経歴書を見せてほしいのですが」

 社長はため息をつき、秘書に目配せした。

 モンブランを完食していた秘書は立ち上がり、社長のデスクへ向かう。ノートパソコンを立ち上げ、しばらく操作したのち、純のもとに持ってきた。モンブランと紅茶をよけて、純に画面が向くようテーブルに置く。

 秘書は純の斜め横に座りなおし、紅茶に口をつけた。

 純が見るパソコンの画面には、若い男性の履歴書が映っている。平山から聞いていたとおり、新卒のようだ。

「この人、ウチの元レッスン生なんですね」

「ウチの社員でそういう人、そこそこいるわよ」

 もう一人の履歴書に切り替えると、中年のふくよかな女性のものに変わった。

 こちらはマネージャー歴が長い敏腕のようだ。純が知っている先輩アイドルグループやタレントのマネージャーを、何人も経験している。

「主任がグループ全体のスケジュール管理をして、この二人が個人の仕事を管理していくことになるんでしょ? それなら俺は、新人さんをつけてほしいんですが……」

「マネージャーを育てるつもり? 経験豊富なマネージャーのほうがあなたにとってはいいんじゃない?」

「いいえ、イノギフのためにはこれが最良かと。新卒の人が一番……先がわからないので」

 少し含みのある言い方に、社長は首をかしげる。

「主任の熊沢に関してはどうなの? そのままでいいと思うの?」

 本来であれば熊沢は、すでにクビになってもおかしくないことをしでかしている。

 社長のようすからして、具体的な話までは耳にしていないのだろう。スタッフたちが純のために伝えることもなく、メンバーもわざわざ社長に伝えることはしなかったようだ。

「……それでいいんじゃないですか? 二年以内に辞めると思いますけど」

「とんでもないことをサラッというのね」

 純はひととおり情報を読み取って、ノートパソコンを閉じた。

「あなたがそう言うってことは、残す価値のない男ってことなんじゃないの?」

「そこは社長の判断にお任せします。でも、辞めさせる材料を、社長はもっていないでしょう?」

 顔に浮かぶのは優しい笑みでも、その裏にある本音を隠すつもりはなかった。

 月子のときは理性的で積極的だったのに、イノギフに関してはとにかく殺伐としている。

 社長は小さく息をついた。

「やっぱりあなたって残酷だわ。きっと、ただで辞めさせるつもりもないんでしょう」

 純は否定せず、ほほ笑むだけだ。

「きっとあなたも、月子と同じようなプライドがあるのよね。自分が惨めに思われるようなことは言えないし、言いたくないんでしょ?」

 月子と同じようなプライド。そんなものを、純は一度も自覚したことはなかった。

 とはいえ、誰も頼らないという点では同じなのかもしれない。

「わかるでしょう?私の言葉が本物だってこと。わたしはね、協力してくれる以上、私にできることは何でもしてあげたいと思ってるの。少なくともわたしはあなたの敵じゃないってこと、忘れないで」

「ありがとうございます。肝に銘じておきます」

 あくまでも本心を隠す笑みと言葉に、社長は再び息をついた。

 純は誰に対しても優しいが、さすがに聖人ではない。ためこんだ負の感情が爆発すれば、相手を見限ることだってできる。

 はたして純は、事務所とグループのためだけに、いつまで努力し続け、能力を貢献していくのか。それはまだ、誰にも予想できないことだ。

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