25 / 148
一年目
最高のご褒美 1
しおりを挟む事務所についたマイクロバスから、メンバーが次々と降りていく。その先でたたずんでいた人物に気づくと、みなが息をのんだ。
「ほら星乃! 早く降りろ!」
悪態をつきながら降りた熊沢も、目の前の人物に凍り付く。
純は外の異様な空気に気づきながら、バスを降りた。
「あ」
みんなが固っているのも無理はない。
「遅かったな、純。迎えに来たぞ」
ロック調の派手な私服でサングラスをかけた恵が、快活な笑顔で待ち構えていた。芸能人オーラを隠そうともしない。その隣で、熊沢と歳の変わらないマネージャー、青寺が手を振っていた。
「純くん久しぶり~」
純は責めるような目を青寺に向ける。
「え? なに? 怒ってる?」
あとで青寺にも伝えなければならない。事務所で恵と純が接触してはならないということを。恵がそうしたがっても、彼が止めてくれなければ困る。
「あ。星乃さん」
熊沢がわれに返り、恵に頭を下げる。
「お世話になっております。イノセンスギフトマネージャーの熊沢です」
恵はにこやかに見返すだけで、頭は下げない。
「純を面倒みるのは大変でしょう? ダンスも覚えられないし、グズでとろくて、テレビで変なこと言っちゃうんですよね。俺に似て」
熊沢の顔が引きつる。肯定することもできなければ、全否定することもできないようだ。
角田が先ほどのことをもう伝えたらしい。あきれて息をつく純を横目に、恵は輝かしい笑みを浮かべていた。
「イノギフ、今日はもうおしまいですか?」
「あ、はい……」
「じゃあ純をつれていっても?」
「どうぞどうぞ」
恵は純に対してついてくるよう手招きし、イノセンスギフトに背を向けた。純はその後を追う。
「パパ……」
「悪かったよ! 今日は許せ! どうしても俺がつれてってやりたかったんだ」
恵の特徴的な甘い声が、裏口に響く。
「同じ事務所なんだから俺が迎えにいかないのも違うだろ」
行きつく先には、送迎車が停まっている。青寺が先回りしてドアを開けた。乗り込んだ恵に、純が続く。
「どこに行くの?」
「ついてからのお楽しみ」
純はとなりに座る恵の顔を見る。サングラスをシャツの胸ポケットにいれた恵は、正面を向いて目を合わせようとしない。
「そうやって俺の思考を読むのはナシだ。おまえのことびっくりさせたいんだから」
青寺がドアを閉め、助手席に乗り込んだ。車は出発し、青寺が行先を言うことなく道を進んでいく。
「……じゃあ、当ててみせるよ」
純は恵を見るまでもない。
正面を向き、助手席に座る青寺の反応を見る。
「……ご飯を食べるくらいならこんな大仰なことはしない。驚かせたいってことはなにかを見せたいんだ」
青寺が興奮した若い声を返す。
「お、さすが純くん! 鋭い!」
瞬間、青寺の反応を見ていることに恵は気付く。純と青寺を交互に見ていた。
「でもプレゼントではないし、テーマパークでもない。パパはプレゼントごときでこんなことしないし、俺が騒がしい場所を好きじゃないのも知ってる。見せたいもの……映画? 違うな」
青寺がふふっと笑う。その反応に、恵が「青寺!」とたしなめた。青寺の口がぐっと閉まる。
「映画だと、わざわざこの日じゃないとだめって理由がない。この日、この時間じゃないとだめ……」
目を伏せて考え込む純に、恵は短く息をついた。
「おまえなぁ。そこまでくれば自分が行きたかった場所を思い出せばいい話だろ。なんで他人のことはよくわかるのに自分のことについては疎いんだ?」
「そんなこと言われても」
ここ最近、グループでの活動に忙しく、どこかに行きたいと考える余裕もなかった。
「……あ」
そういえば、ひとつだけあった。『見に行きたい』と口に出したことが。
「もしかして、月子ちゃんの主演舞台? の、千秋楽? もしかして今日なの?」
恵は満足げに口角を上げる。正解だ。
助手席から明るい声が続く。
「さっすが純くん。ごまかしはききませんね」
「いや、でも、どうして……おれ、パパには、月子ちゃんのこと、話したことないよね?」
その反応に、恵は満足げに目を細めた。
「それは、現場に着いたら教えてやるよ」
†
某テレビ局に隣接する劇場は、名のある監督の舞台がよく公演されていた。ここで公演される舞台は、メディアに大きく取り上げられ、話題になりやすい。
夏休み中に公演されていた月子主演の舞台は、回を重ねるごとに評価が高くなっていった。
舞台に興味のない者でさえ、月子の歌とダンスの評判を耳にする。舞台は公演期間の序盤から満員で、鑑賞した者によるSNSの感想コメントが絶えない。
――以上が、スマホで早急に調べた舞台の情報だ。純はスマホの電源を切ってカバンにしまい、恵と一緒に劇場へ入る。
0
あなたにおすすめの小説
朔望大学医学部付属病院/ White Dictator
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
White Dictator______通称:『白衣の独裁者』
<ホワイト・ディクテイター>
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
圧倒的な「実力」と「技術」で捩じ伏せ・現場を支配する凄腕たち。
___ ごく僅かな一瞬の隙も逃さない神手の集まり。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる