【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣

文字の大きさ
44 / 95
儀式を泳ぐ

聖女と恋するそら豆

しおりを挟む

 塩ゆでしたそら豆を手にしたまま視線をお姫さまへ向ける。

「あの、お姫さま、もしかして酔ってます?」

 空耳じゃなければ、『かれんしゃま』って噛んだような気がする。でも、お姫さまのお猪口の勝利酒は、舐めた程度にしか減っていないし、顔色も赤らんでいないし涼やかなままなんだけど——。

「わたくしは、酔ってなどないもん」

 あっ、これ絶対酔っ払ってるやつだ。お姫さまは顔色変わらないまま酔っぱらうタイプらしい。
 そして、酔っ払いは必ず酔っ払ってないって言うんだよね、と思いながら改めてお姫さまの様子を窺おうとした時、リリエさんが「姫さまは、お酒に酔うと語尾が『もん』になります」とこっそり耳打ちしてくれた。
 えっ、なにそれ、すごくかわいい! あんなに美人でつんつんしているのに、酔うと『もん』って言うなんてギャップ萌えしてしまいそうで、萌え苦しい胸を両手で押さえる。

「かれんしゃま?」

 こてんと小首を傾げるお姫さまがかわいいけれど、勝利酒を舐めただけでこんなに酔うなんて大丈夫なのかな、と心配になってしまう。

「かれんしゃまは、そら豆、好きなんらもん?」

 もう一度こてんと首を傾けながら見つめられる。
 そら豆が好きかどうかがよっぽど気になるらしく、目の前でもそら豆について、なにやら呟いている姿が幼くみえて可愛らしい。

「はいっ! そら豆好きですよ」
「やっぱり、かれんしゃま好きなんらもん」

 酔っ払っている今なら色々質問をしても答えてくれるかなと思い、口を開く。

「お姫さまも好きなんですか?」
「はひ——。色がとってもきれいなんらもん」

 お姫さまはそう言うと、そら豆をひと粒つまむと手のひらの上にそっと置いて、うっとり見つめている。
 私も手に持っているそら豆の黒っぽい部分の『おはぐろ』の切り込みのところを、くっと押しながら皮をむいて口に運ぶ。茹でたてのそら豆から青い香りとほくっとした食感に初夏を感じる。うん、そら豆は茹でても天ぷらにしても美味しいし、好きだなとしみじみ思う。

「お姫さま、食べないんですか?」
「はひ。見ているだけしあわせなんらもん」

 こくりと頷いたお姫さまの瞳は、どこかせつなそうで、まるでそら豆に恋をしているみたい——?

「あっ、もしかして、ベルデさんの瞳の色にそっくりだから……とか?」

 ちょっと揶揄うような私の言葉が、お姫さまの耳に届いた表情をみた一瞬、瞳の奥がきらきら揺れて、お酒ではなく恋に頬を上気させたお姫さまの姿があった。

「はひ——。わたくしが、小さな頃にベリュデの瞳はそら豆に似てるって言ったら、それからずっと作ってくれるようになったんらもん。そら豆はとくべつなんらもん」

 きらきら瞳を潤ませて、つんつんしていたのが嘘のように、ちょっと舌足らずに教えてくれる。

「ああ、でもそら豆って確かにベルデさんに似てますね」
「はひ。優しくて穏やかな緑色なんらもん」
「えっと、瞳の色もですけど、そら豆って空に向かって伸びるから、お姫さまの空色の瞳や太陽みたいな金色の髪に憧れている感じが、ベルデさんとそら豆は、そっくりですよね」

 そら豆は、春から初夏にかけて全部のさやがみんな上を向いて育ち、天に向かって手を伸ばしている姿がお姫さまに憧れているベルデさんの姿に重なる。もしかしたらベルデさんは、そら豆に自分を重ねて、お姫さまにそら豆を渡していたんじゃないかな、なんて想像したらせつなくて、ロマンチックすぎて悶えてしまう——。

 この世界に花言葉があるのか分からないけれど、そら豆の花言葉は『憧れ』だったと思う。
 やっぱり二人は両想い、いやいや、よく小説に出てくる両片想いというやつだなと思うと頬が緩んで、にやにや、によによが止まらなくなってしまう。

「かれんしゃま」

 舌足らずなお姫さまの瞳がとろりと私を見つめる。
 
「わたくしの瞳と髪の色は、何色なんらもん?」

 舌足らずの口調なのに、お姫さまの大きな瞳から目が離せなくなり、その質問にすらりと答える。

「お姫さまは、金色の髪に青色の瞳の金髪碧眼っていうやつですよね?」
「やっぱり、かれんしゃまは、聖女しゃまなんらもん」
「ふえっ? な、な、なんで?」

 お姫さまの言いかたが、改めて確認するというより確信を持っていて目をまん丸にして驚いてしまった。
 別に隠しているわけではないけれど、わざわざ言うこともないと思っていたので、いきなり聖女だってバレちゃうなんて思っていなくて動揺して視線が左右に揺れてしまう。

「聖女しゃまと聖獣しゃまにしか、わたくしの瞳と髪の色は正しく見えないんらもん。みんなには、みんなと同じ緑色に見えてるんらもん」
「ふえっ? そ、そうなの?」
「はひ。そういうわけで、聖女しゃまのかれんしゃま、ベリュデをお願いしますもん」
「ふえっ? な、な、なんで? だって二人は両想いだよ?」

 あまりに驚いて、咄嗟に本音が飛び出てしまうと、お姫さまは一瞬、瞳をきらきら輝かせたけれど、すぐに困ったように、しおしおと元気がなくなっていく。その様子は、この村をはじめて訪れたときの立ち枯れていた草花を思い出してしまう。

「ベリュデは、この村の者じゃないんらもん。だからこの村にいることないんらもん。かれんしゃまと一緒なら好きなところ、違うところにいけるんらもん」

 酔っているせいなのか、言っている内容が理解できないけれど、曖昧に頷くこともできなくて困って視線が宙を漂っていると、お姫さまがそら豆をつまんで、愛おしそうにそっと口に運んだ。

「この村の者たちは、カルパ王国の先王に仕えていた者たちなんらもん。そして——わたくしは、カルパ王国の王女、ソレイユ・カルパなんらもん」
「……へっ? 本当に、お姫さまだったの?」

 こくりとひとつ頷いたソレイユ姫は、泣きそうな顔で笑った——。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  https://note.com/mutsukihamu ※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

私は、聖女っていう柄じゃない

蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

『完結・R18』公爵様は異世界転移したモブ顔の私を溺愛しているそうですが、私はそれになかなか気付きませんでした。

カヨワイさつき
恋愛
「えっ?ない?!」 なんで?! 家に帰ると出し忘れたゴミのように、ビニール袋がポツンとあるだけだった。 自分の誕生日=中学生卒業後の日、母親に捨てられた私は生活の為、年齢を偽りバイトを掛け持ちしていたが……気づいたら見知らぬ場所に。 黒は尊く神に愛された色、白は"色なし"と呼ばれ忌み嫌われる色。 しかも小柄で黒髪に黒目、さらに女性である私は、皆から狙われる存在。 10人に1人いるかないかの貴重な女性。 小柄で黒い色はこの世界では、凄くモテるそうだ。 それに対して、銀色の髪に水色の目、王子様カラーなのにこの世界では忌み嫌われる色。 独特な美醜。 やたらとモテるモブ顔の私、それに気づかない私とイケメンなのに忌み嫌われている、不器用な公爵様との恋物語。 じれったい恋物語。 登場人物、割と少なめ(作者比)

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

処理中です...