【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣

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儀式を泳ぐ

聖女は秘密を打ち明けられる

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 泣きそうな顔で微笑んだソレイユ姫は、ふたたび言葉をつむぐ。

「かれんしゃま、この髪と瞳の色は王族だけなんらもん。見つかったら大変だからこうやって隠れているんらもん」
「えっ、そうなんですか?」
 
 こくりと頷いたふわふわと酔っぱらっているソレイユ姫が話してくれた内容をまとめるとこういうことらしい。

 カルパ王国は、青空のような色をした龍と金色の美しい髪の可憐な少女が、種族を越えた恋に落ち結ばれ、その子供は金髪碧眼で生まれた。以降、カルパ王国の王族は神に祝福されたような金髪碧眼で生まれるという。

 ソレイユ姫のお父さん——イニーツ王も金髪碧眼だったが、一夜にしてその金髪と碧眼が枯れてしまったような色に変わり、反対に一夜で金髪碧眼に変わったのがジャーノ公爵だった。このジャーノ公爵が私をカルパ王国に聖女召喚した人物らしく、あのねっとりした絡みつくような視線を思い出し、ぞくりと寒気がして両腕をさする。

 新たに誕生した金髪碧眼のジャーノ公爵の存在がカルパ王国内部の火種を生み、新しく金髪碧眼を持つジャーノ公爵が王に相応しいと支持する者と金髪碧眼を失ったもののイニーツ王を支持する者の二極化が起こり、王の座をめぐる争いを始めた。

 金髪碧眼は、王位継承権に直接関わるものではないが、やはりカルパ王国の象徴であり、イニーツ王の枯れたような髪と瞳の色が与える影響は大きかった。
 当初はイニーツ王が優勢だったもののジャーノ公爵の巧みな情報戦術によって勢力を伸ばし、カルパ王国の王の座についたらしい。

 イニーツ王は、娘のソレイユ姫だけは逃れることが出来るようにと、信頼する一族と同じ緑色の髪と瞳に見えるようにソレイユ姫に魔法を掛けた。この魔法は魔法を掛けたものより上位の魔力がなければ見破ることが出来ないもので、イニーツ王はカルパ王国随一の魔力量を有していた。ソレイユ姫は、イニーツ王から聖女と聖獣以外には見破ることは出来ないからと聞かされ、闇夜に紛れてカルパ王都を逃れたのだそうだ。

 しかし、ジャーノ公爵はカルパ王国の王の座に就いても金髪碧眼を持ち、自身の王の座を揺らがしかねないソレイユ姫を執拗に探したらしい。危険を感じる度に、カルパ王国の辺境へ、森の奥へと逃れていく生活はソレイユ姫の心身を疲弊させていった。そんな時に出会ったのが迷子と言い張る、おそらく捨て子のベルデさんだった。

 ベルデさんを連れていくと言い張ったのはソレイユ姫で、なにも事情を知らないベルデさんと過ごす時間はカルパ王国の王女だということを忘れることが出来て、ただの村の娘になれた。ベルデさんに想いを伝えることは、この重荷を背負わすことになるから伝えられないと目を潤ませていた。
 ようやく今いるここを拠点にソレイユ姫たちは身を落ち着けた頃、瘴気が濃くなり病いに罹った——。

「ジャーノは、わたくしが辺境の地にいると思って、聖女召喚を少なくしてるんらもん。瘴気を浄化する回数が減ってしまって、カルパ王国の民が辛い思いをしているのが、わたくし許せないんらもん——」

 ソレイユ姫の声が、部屋の中に溶けて静かに消えた。
 目の前のソレイユ姫の口がまだ動いているけれど、なにも耳に入ってこない。頭の中が何かでいっぱいなのに、まるで空っぽになってしまったような感覚に襲われる。心がざわりとした感触を感じるように、もやもやとした感情がうごめいていく。

「——聖女は……?」

 ぽつりと言葉がこぼれる。

「かれんしゃま、どうしたんらもん?」
「ソレイユ姫……、聖女は、聖獣は、異世界から勝手に召喚されて——それってひどいと思わないの? カルパ王国の人たちの為なら、何をしてもいいの……?」

 夏障子のすきまから吹いてきた涼やかな風に髪をさらさらと流される。
 ソレイユ姫は一瞬、瞳を大きく見開いたけれど、すぐに困ったような表情を浮かべた。

「かれんしゃま、わたくし達が召喚する聖女と聖獣には秘密があるんらもん」
「秘密……?」

 ゆっくり頷いたソレイユ姫の空色の瞳にまっすぐに見つめられる。

「聖女と聖獣は、決してその世界で結ばれることのない——運命の相手、なんらもん……」
 
 そう言うと、ふっと力が抜けたように身体がぐらりと傾いていく。ずっと黙っていたリリエさんが慌ててソレイユ姫の身体を支えると、三十分くらいで目覚めると思いますと言いながらソレイユ姫を横たえたのを眺めた。
 
 目をゆっくりつむる。目の奥がちかちかと煌めくように瞬いた。

 ソレイユ姫の言葉が、ずしり、と心に重たい。

 三人がたっくんの鯉のぼりで、結ばれることなんてないのは初めからわかっていたことだった。最初からわかっていたのだから落ち込む必要なんてどこにもない。元のいる世界に戻りたいと言ったのは私だし、三人はたっくんの鯉のぼりなんだから——

 すっと気持ちが軽くなったのは一瞬で、すぐに鉛をのんだみたいな心の重さがつきまとう。
 だけど、この心の重さの正体を突きつめようという気持ちにはどうしてもなれなかった。いや、ちがう。怖くてできなかった……。

 ソレイユ姫の軽い寝息を立てる音が聞こえている。

 私はなにひとつ気持ちを整理することが出来ないまま、ただただノワルとロズとラピスに会いたいと思っていた——。
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