84 / 95
登龍門を泳ぐ
聖女と変身
しおりを挟む赤色と青色の鯉が優美に泳いでいるのを見つめていたら、ノワルが龍の実を川に向かって高く投げた。
「ロズ、ラピス、龍の実を忘れてるよ」
水の跳ねる音が鳴って、二匹の鯉が飛び跳ねる。空中で龍の実をキャッチする姿も優雅で惚れ惚れするしかない。鯉ってこんなに魅力的だったんだなあ。はあ、ロズもラピスも素敵で見惚れちゃう。
「花恋様は、ロズとラピスがどんな姿になっても好きなんだね」
「もちろん! あっ……、でも、ロズとラピスが大人の姿になるのは心の準備が必要だけどね……」
「どうして? 大人のロズとラピスは嫌だった?」
困ったように眉を下げたノワルが首を傾げる。
「そんなことないよ! もちろんちがうよ……っ!」
慌てて首をぶんぶん横に振って否定した。
「ロズは色っぽくてドキドキしちゃうし、ラピスもかわいいのに格好いいからドキドキしちゃう……っ! いきなりあんなに格好よくなるなんて反則すぎだよ!」
思い出したら胸が苦しいくらいにドキドキしてきて、両手で胸を押さえてもだえる。
「うう、心臓が爆発しちゃう……っ」
「そうだね。花恋様の心臓が爆発するのは困るね」
「そ、そうなの……っ! だから、心の準備をさせてほしいなって思ったの」
胸に手を押さえたまま涙目でノワルを見つめる。伝わってよかったと安堵の息をついた途端。
「日本に帰るまで時間があるから、心の準備ができてよかったね」
「ふ、ふえっ……?」
「俺のかわいい弟たちとも、昨夜みたいにいちゃいちゃしてあげてね」
「……っ、ひ、ひゃああっ……っ!」
悲鳴をあげた私を見て、くすくす笑いはじめたノワルをじとりと見上げる。
「花恋様、かわいい」
私のおでこにキスが落とされた。なんでもないように微笑むノワルを見ていると、これからも敵わないような気がする。まだ大人なロズもラピスもドキドキしちゃうけど、もしかしたら甘やかな夜を超える日が来るかもしれない……。
「花恋様は、本当にかわいいね」
大人のロズとラピスのことを考えて、耳まで熱くなった私の顔をノワルが覗き込む。
「そろそろ、花恋様も鯉になろうか」
「ノワル、そういえば、どうやって鯉になるの……? 私がなにかするの?」
三人が変身するところは何度も見ているけれど、自分が変身するなんて想像もできなくて首をひねる。
「魔力を使って、花恋様を鯉に変化させるんだよ。花恋様がなりたくないものは魔力の消費が激しくなるから、鯉になりたいって思ってほしいかな」
「あっ、う、うん……。やってみるねっ」
今朝、ロズとラピスが変身できたのは、聖女の魔力で変化できるからだと教えてもらった。私が変身を望んでいれば魔力の消費は少ないと聞いていたので、まぶたをとじて、お祈りポーズをとる。
「鯉になりたい……ロズとラピスみたいに鯉になりたい……!」
ロズとラピスの鯉の姿を思い浮かべながら、お願いを口にする。雄大に泳ぐ二匹は素敵だったから、一緒に泳いだら楽しいと思う。
「うん、いいね。その調子で願ってみて」
「わかった……っ!」
ノワルの指先が頭につけたかんざしに触れて、耳についているイヤリングをしゃらりと鳴らした。
音色と共に、まわりの空気が凛と澄み渡っていく──…
「花恋様」
ノワルの優しい声で見上げると、黒い瞳と視線が絡む。
「登龍門を昇って帰ろう」
「うん」
「日本に戻っても俺たちと一緒にいようね」
「……うん」
どこまでも甘やかで愛おしく見つめられていて、目を逸らすことができない。ノワルの手がイヤリングから頬に下りてきて添えられて、甘い予感に瞳を閉じる。
「大好きだよ──俺たちの番」
ちゅ、と触れるようなキスをされると私の身体が淡く光りはじめた──
1
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど
睦月はむ
恋愛
剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。
そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。
予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。
リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。
基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。
気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。
連載中のサイトは下記4か所です
・note(メンバー限定先読み他)
・アルファポリス
・カクヨム
・小説家になろう
※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。
https://note.com/mutsukihamu
※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています
『完結・R18』公爵様は異世界転移したモブ顔の私を溺愛しているそうですが、私はそれになかなか気付きませんでした。
カヨワイさつき
恋愛
「えっ?ない?!」
なんで?!
家に帰ると出し忘れたゴミのように、ビニール袋がポツンとあるだけだった。
自分の誕生日=中学生卒業後の日、母親に捨てられた私は生活の為、年齢を偽りバイトを掛け持ちしていたが……気づいたら見知らぬ場所に。
黒は尊く神に愛された色、白は"色なし"と呼ばれ忌み嫌われる色。
しかも小柄で黒髪に黒目、さらに女性である私は、皆から狙われる存在。
10人に1人いるかないかの貴重な女性。
小柄で黒い色はこの世界では、凄くモテるそうだ。
それに対して、銀色の髪に水色の目、王子様カラーなのにこの世界では忌み嫌われる色。
独特な美醜。
やたらとモテるモブ顔の私、それに気づかない私とイケメンなのに忌み嫌われている、不器用な公爵様との恋物語。
じれったい恋物語。
登場人物、割と少なめ(作者比)
推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について
あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる