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登龍門を泳ぐ
聖女と二匹なら
しおりを挟む「しゅっぱーつなのー!」
ラピスの元気な声で登龍門に向かって泳ぎはじめる。先頭を引っ張るラピスは頼もしくて格好いい。穏やかな水流なので、尾ヒレを動かすとぐんぐん進んでいく。
「花恋様、疲れていませんか?」
「うんっ! 大丈夫だよ」
先頭はラピス、横にはノワル、後ろにロズが泳いでいる。本当はロズが隣を泳ぐ予定だったけれど、ぷんぷん怒ったラピスが順番を決めてくれた。テキパキ指示を出すラピスも一生懸命な天使鯉で、可愛すぎる提案にうなずく以外の選択肢はない。
「花恋様、登龍門は三段の滝でできていて、一段ごとに先頭を変えて進むつもりだからね」
「えっ、登龍門って滝が集まっているの?」
「下から見ると分かりにくいけどね、三段の滝だよ」
「へええ、そうなんだ!」
「異世界の登龍門も三段なんだけど、地球にある登竜門も三段の滝で、三段の滝を登る魚は龍になるという伝説が生まれたんだよ」
どちらの登龍門も三段の滝だと聞いて、すごい偶然にびっくりしてしまう。ノワルの話を聞いていると、段々水流が激しくなってきて目の前に気泡が増えてきた。
私のまわりに透明な膜ができていて、ぐんぐん過ぎ去る気泡は、窓ガラス越しに見ている感覚で鯉の鱗をなでる水は柔らかい。結界がなかったら、鯉の初心者の私なんてあっという間に流されてしまうと思う。
「ノワル、結界ありがとう……っ!」
「どういたしまして。龍に乗る時は、回転球のかんざしと矢車のイヤリングで結界が作れたけど、鯉の花恋様の結界は魔力の消耗が激しいんだよね」
「えっ!? そ、そうなの……? あ、あの、それって、最後まで結界は持つの……?」
当たり前のように告げられて、驚きで目を見開いた。激流の滝を結界なしで昇るなんて絶対無理だと思う。
「定期的に魔力の補給をした方が安全かな」
「…………ふえ?」
にっこり微笑むノワルの答えに、私のまぬけな声が漏れる。
「龍で飛行していた時も、魔力の補給休憩があったでしょう?」
「う、うん……」
ノワルの言葉で、魔力の補給でしていた大人のキスを思い出す。でも、龍の魔力補給は、ゆっくりくつろぎながらキスをしていたけど、激流の中は休めるところなんてない。
「でも、登龍門までずっと激流だし、泳ぎながらなんて危ないんじゃないかな……? わ、私、鯉初心者だけど、結界の魔力があんまり消耗しないようにできるだけ自分で泳ぐから……っ!」
結界がなくなるのも怖いけど、みんなが危険な目にあうのは絶対に嫌だから、胸ビレと尾ヒレを揺らして決意する。
「花恋様、かわいい」
「…………っ!」
ノワルが私の結界にぬるんと入ってきて、ちゅ、とキスされて胸ビレが跳ねた。
「二匹入れる結界にしたから、結界の中でゆっくり魔力補給もできるよ」
「ふええっ?」
「俺たち三匹と結界は繋がっているから、花恋様が泳がなくても流されないし、結界の外にいる鯉たちで引っ張って昇り続けるから平気だよ」
「そ、そうなんだ……じゃあ、魔力補給できるんだね」
「うん、そうなんだ。でも」
ノワルが言葉を切って、私を真摯なまなざしを向ける。
「俺たちは、魔力補給の為じゃなくて、花恋様が好きだからキスしたいと思ってる」
甘やかな言葉が私の胸のやわらかなところをきゅうう、と甘く締めつける。
「今だから言うけど、龍の魔力補給も別になくても平気だったんだよ」
「ふえ……? そ、そうなの……?」
「ただただ、大好きな花恋様とキスしたかったんだよ。怒った?」
「…………嬉しい」
魔力補給のためのキスじゃないと言われて、胸がどきどき早鐘を打つ。ノワルの言葉を聞いてこぼれたのは、素直な気持ち。
「登龍門に昇るときも、交代で花恋様とキスしてもいいかな?」
「うん……っ! 私も魔力補給の為じゃなくて、みんなが好きだからキスしたい……っ」
「ああ、もう、花恋様はかわいいね……」
ノワルの大きな胸ビレでうろこを撫でられ、尾ビレが跳ねる。柔らかなヒレで撫でられると、くすぐったさと痺れるような甘さが身体をめぐっていく。
「ん、んっ……」
「花恋様、かわいい」
私の口から吐息が溢れて、あぶくが生まれる。甘い泡をこぼす私の口をノワルに吸われ、胸ビレが揺れて止まらない。好きを交換するキスは蕩けるくらい甘くて──…
『のわるにいにーだいいちのたきのぼったのー! こうたいなのー!』
甘やかなキスをノワルとしている間に、第一の滝を昇りきっていた。
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