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勇者と修行
第414話 魔法の訓練 前半
しおりを挟む砂浜でのランニングはキツかった。
一時間しっかり走ったところで膝が笑って、まるで生まれたての小鹿になった気分だった。
「ですが海が初めてという事は、砂浜での訓練も初めてなのでしょう? それでここまで走れたのは素晴らしいですよ」
「おお、俺だって最初は途中で走るの止めたんだぞ。一時間走ったのは凄いぞ」
ルイスさんに抱っこされたままお屋敷への帰り道、抱えられた私を慰める為か、周囲をウロウロしながら凄かったと褒めてくれるベル君に、居た堪れない気持ちになる。
いや、そうだよね。初めての砂浜訓練で最後まで諦めなかっただけ頑張ったという事にしておこう。サマニア村にいた時だって、最初は地階に行く階段すら一人で下りるのが大変だったんだもの。きっとこれも続ければ慣れるはず。そう自分に言い聞かせてお屋敷に戻った。
「さて、どうしようかな。俺もちょっと久しぶり過ぎて、通常のヒト族の子供の体力を忘れてたからな。流石にこの後身体を動かすのはしんどいだろうけど、休むのも嫌だろう?」
お屋敷に到着したところでチアキさんからそう聞かれた。確かに下半身がプルプルしているのと上半身も多少筋肉痛になっているけれど、元気ではあるんだよね。回復魔法を使うと、折角育とうとしている筋肉すら回復しちゃうから、使用禁止と言われているので自然回復を待つしかない。これはお父さんとの訓練で慣れているので大丈夫だ。
「魔力は全く使ってないから、魔法の練習がしたいです」
「おおそうだな、それならいけるか。ん~、そしたら今ヴィオがどれくらい魔法が使えるのかを確認しておきたいが……。安全を考えてギルドの地下に行くか」
しばらく考え込んでいたチアキさんが指定したのはギルドの地階。あそこは魔法をぶっ放しても大丈夫な設計になっていたもんね。このギルドもそうなっているのは間違いないだろう。
再びルイスさんの抱っこでギルドへ。訓練をするのに自分で移動できないとか情けなすぎるけれど、これは仕方がないと受け止めよう。
「ベル君は魔法も得意なの?」
「うっ、俺は……」
「ベルは空を飛ぶことに夢中だったからな、そっちの練習ばっかりで普通の魔法は殆ど練習してない筈だぞ? ベルはヴィオの障壁の魔法を格好良いと言ってたからなぁ、やっと練習する気になったんじゃないか?」
そういえば飛ぶときには風魔法を纏うって言ってたもんね。私も空を飛べれば最高だけど、羽がないから流石にそれは無理かな。
「そういえばヴィオの得意属性は何だった?」
「全部です。母が聖属性持ちで、父が闇属性持ちだったので、両方をしっかり貰ってます」
「おぉ、それはあっちで見られた時には騒ぎになっただろう?」
チアキさん以来の全属性持ちだろうと言われたけど、場所がサマニア村のギルドだったからね。サブマスは興奮してたけど、お父さんもギルマスも、隠す方を一緒に考えてくれたくらいだったよね。本当に私は恵まれた環境にいたと思う。
「そうか、良い父ちゃんと村の人達に育ててもらったんだな」
チアキさんが優しい顔で笑う。うん、私もそう思ってます。
「よっし、そしたら先にベル坊から今使える魔法をやってみるか」
「えっ!? 俺?」
「まだヴィオ様は回復途中ですしね、元気がまだまだ有り余っているベルフォンスからやる方がいいのでは?」
切り替えるように魔法訓練を始めるなら先にベル君から見せてみろと言われて焦っているけど、そんなに使えないのかな?
「いいえ、ヴィオ様の障壁を見ていますからね、自分の未熟な魔法を見せるのが恥ずかしいと思っているだけですよ」
こっそり小さな声でルイスさんが教えてくれた。男の子のプライドというやつでしょうかね。
チアキさんから的との距離を指示されて、ブツブツ言いながらもやることにしたベル君が呪文を唱える。
「深淵より湧き出《い》でし清き流れよ、鋭き槍となりて敵を穿て【ウオーターランス】」
え?
何かめちゃんこ厨二心を擽る格好良い呪文が聞こえたんですけど? そういえば【ファイアボール】もそんな呪文があった気がするね。学び舎の子供達のように片手を突き出してはいないけど、自分の腹の前で両手を重ねて魔力を練っている? か〇はめ波でも打つのかと聞きたくなる準備をしてから片手を上げれば、数メートル離れた的に水で出来た槍が刺さった、というか当たった。
「的に当たるようになっただけ成長しましたね。練習していたのかもしれませんね」
私の移動を手伝ってくれるルイスさんは隣に居てくれるんだけど、呪文に突っ込みがないという事はこれが通常って事なんですね?
うんうん、お兄ちゃんたちは元々魔法を使うヒトじゃなかったから、私を見ながら使うようになったので、呪文はトリガーワードしか唱えない。
レスさん達は長年呪文ありきで使っていた事もあり、短縮ではあるけど呪文は唱えていた。こんなにガッツリ、こっぱずかしい呪文を聞くのは久しぶり過ぎて、聞いているこっちが恥ずかしくなる。
その後も水属性、氷属性、風属性の魔法をいくつか練習して終了したんだけど、うん、なんだろう、一生分の厨二呪文を聞いた気分です。
「ちぇ~、全然的が壊れなかったぞ」
「それはそうでしょう、あの的はかなり強化していますしね。ベルフォンスも訓練をしっかり続ければそのうち破壊できるようになりますよ」
「そうだな、あれだけの距離を飛べるようになったんだ。魔力操作は大分上達している筈だろう? 後は攻撃魔法も障壁も反復練習するだけだな」
少し悔しそうにしながら戻ってきたベル君だけど、魔力切れという事はないみたい。魔人族、竜人族、エルフ族は産まれた時から魔力が多いというから羨ましいものです。
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