ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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勇者と修行

第415話 魔法の訓練 後半

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「では次はヴィオの魔法を見せてもらえるか?」
「は~い」
「ヴィオ、無理すんなよ」

 ルイスさんが手伝ってくれようとしたけれど、見学中に小鹿状態からは回復しているから大丈夫です。二人に手を振って訓練場の中央に立っているチアキさんの元へ小走りで向かった。

「まずは攻撃魔法からやってみるか、どれくらいの攻撃力があるかも知りたいから全力……ではなくていいか、八割くらいでやってみろ」

 八割……。
 変異種とかじゃない、普通の相手だと思ってやればいいかな。

「チアキさん、対象相手によって変わるんですけど、誰を想定しますか? オークとゴブリンでも大分違うんですけど」
「ああ、そうか。ヴィオは銀ランクだからそれなりに魔獣とやり合ってんだな。ん~、だとしたらノーマルのオークを想定しようか」

 オークなら脂肪の厚みもあるし、それなりに表皮も硬い。とても馴染のある相手だから良いね。

「わかりました! じゃあ火属性からやりますね。
【ファイアボール】【ファイアアロー】【フレイムランス】【フレイムバレット】」

 一つ目の的に集中できるように、ボールは十二時部分、アローは五時部分、ランスは八時部分に中てて、バレットで的を穴だらけにしてみた。うんうん、前回はバレット前に的を壊したから他の的に魔法が飛ぶというミスをしたけど成長しているね。

「次は風――」
「ちょ、ちょっと待って。ちょっと待とうか」

 納得しながら次に行こうとしたところで止められた。どうしましたか?

「ヴィオ、詠唱は?」
「長いので唱えてないです。トリガーも無くて良いんですけど、一応何の魔法を出すか分かるように、人と一緒の時には言うようにしてます」
「完全無詠唱……。いや、理論上は出来るのは分かってるけど、格好良い呪文に憧れなかったのか?」

 何故かショックを受けているチアキさんだけど、チートしまくりの現代人なら無詠唱が当り前にならなかったのかな? いや、分かっているという事は出来るんだろうね、やらないだけか。

「あの厨二感あふれる呪文はちょっと……」
「ちゅ、厨二……」

 がっくりしてしまいましたが、そういえばチアキさんの勇者伝説でメテオっぽい魔法も使ってましたよね? あれも厨二溢れる魔法のひとつだなって思ってたけど、もしや昔は眼帯とか着けてたタイプのヲタクでしたか? 私はコスプレとかはしなかった系のヲタクだったと思います。
 呪文云々に関しては深堀するとチアキさんの黒歴史が掘り返されるという事で、完全無詠唱で良いんじゃないかなとなった次第。

「すっげ~、ヴィオ、お前ヒト族のチビなのに魔法がすっげ~んだな!」

 凹んでいるチアキさんをよそに、危険がないと思って駆け寄ってきたベル君がすげえを連呼しております。こういうところは少年らしいというか、レン君たちと同じに見えるね。

「ええ、あの的はそれなりに丈夫に作られている筈ですのに、最後のフレイムバレットで粉々になってしまいましたね。あれほど高度な魔法をあのスピードで唱えることが出来るとは、どれだけ訓練してこられたのかと感心致しますよ」

 寿命が長い彼らは、そのうち上達するからという理由で然程真面目に訓練はしないらしい。元々のスペックが高いのもあって、どうにでも出来るというのもあるのかもしれない。
 チアキさんは種族のスペックに、前世知識で努力しまくったから凄いチートになったけど、聖獣の白雪さんですら練習していない魔法は使えないらしい。

「聖獣といえば神様みたいに生き返らせるのもできるくらい回復の専門家かと思ってた」
「そんな訳ないじゃろう。聖獣が聖属性持ちなのは絶対じゃし、何となく使い方は教えてもらわんでも出来るようになったが、練習をしておらんと上達はせん。実際に、あの時は其方の回復の方が上手かったしな」
「おお、白雪も来たんだな」

 砂浜は暑いから行かないと言っていた白雪さんだけど、訓練場は暑くないもんね。というか聖獣のイメージがまた変わったね。この世界の聖獣は神様からの伝言を皆に伝える使命がある以外は、本当に普通のヒト達と同じなのかもしれないね。
 白雪さん曰く、そうでもなければ、それこそ監禁待ったなしになるだろうとの事。確かになんでも治せる凄い聖獣が居たら、王様とかに監禁されそうだよね。

「ヴィオの攻撃魔法は威力も命中力も十分だな。その威力で他の属性も使えるなら俺が教えることもないだろう。使ってみたい魔法があれば聞いてくれ。俺が分かる魔法なら教えるぞ」
「えっと、じゃあ空間魔法を覚えたいです。この訓練場も空間拡張しているんですよね? マジックバッグを作りたいし、アイテムボックスみたいなのを作れないかなって思ってるの。
 後、鑑定魔法もありますか? 自分で考えてやったら失敗して、ある意味成功ではあったけど、やりたい鑑定とは違ったんです」
「あ~、インベントリみたいな魔法だな。出来なくはないけど魔力を使い続けることになるから使い勝手は良くないぞ。物に付与する方が魔力消費はないし、自分で鞄を自作した方が拡張は出来るから便利だと思うぞ」

 なんですと?
 どうやらファンタジーあるあるのアイテムボックス魔法は『作る時』と『中に何かが入っている間』は魔力が消費されるらしい。四次元ポケット的に別空間にあるから、空間の扉を閉じれば魔力消費はないものだと思っていたんだけど、その空間を維持し続ける魔力が必要らしく、とてもじゃないけど実用的ではないと諦めたんだって。ちゃんと実験しているのがチアキさんだよね。

 その点マジックバッグは魔法陣の中に『空間維持』も入っているから、特に魔力を使い続ける必要はないとの事。そして自作するのであれば『拡張』を入れておけば、定期的に作成者の魔力を鞄に注ぐことで成長するマジックバッグを作ることができるとの事。これは絶対に作るべきだよね!

「その場合は使用者制限も入るからかなり複雑な魔法陣を書く必要があるぞ。その練習は魔道具の日に練習するか」
「はい、お願いします!」

 うっほ~い! マイマジックバッグが作れるよ。鞄部分はミケさんに頼めば作ってくれるというので、どんなデザインが良いか相談しながら作ってもらおう。
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