ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ヒスの森ダンジョン

第432話 ヒスの森 その14

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 素敵ハチミツを無事に採集した事で、蜂との対戦は危険ではない事が分かった。ここからはハチミツもしっかり確保するために、凍結魔法を習得することにしたのはルイスさんとダルスさん兄弟。ベル君は他の魔法を習得するために凍結魔法の練習はしない事になった。
 風竜人族のタニアさんバレンさん姉弟は、見えない風の壁を習得すべく頑張っている。風魔法は生まれた時から使っているものの、あんな使い方はしたことがないと感動していた。

 結局、変異種のアベールはあの時の彼らだけで、他はハニービーだった。それでもとても美味しいハチミツだし、それを確保するためにバレンさんが10階ボスを一人で挑戦して1階に戻り、空き瓶を村から大量に持って帰ってくる(10階までの米を採集しながら)なんてイベントも起きたけどね。
 ローリングをしながら各階三日かけての散策は、大量の素材を確保することが出来ました。何故三日かって? それはドラゴン三名がローリング米確保の為に別行動をしていたからさ。ポアレス群生地は空から見ても分かりやすく、ぽっかりそこだけ茶色い草むらになっているから、空を飛んで直行って感じで良いらしいよ。
 広くなった階層、少なくなった人数、新しい素材回収の為に満遍なく採集して回る私達。そりゃ時間もかかりますって。

 そうそう、前に見たことがある小さな切り株くん。小さすぎて杖にもならない枝を落とす彼だけど、あの枝に使い道があったんだよね。

「おお! 森だからこいつが居たんだな。枝は拾って拾って!」

 15階を過ぎた辺りから出てくるようになったミニトレント、ここのメンバーにとっても敵ではなく、根っこを出してきたところで踏み潰すという攻撃をなさってました。
 小さな枝を落としたところでチアキさんから回収の指示があって、皆も何に使うんだと不思議顔をしながらも集めたんだよね。

「ヴィオがこれを使ってないのは驚きだな。これは美味いんだぞ~」
「え? この枝って食べれるんですか?」
「チャーキ、もしかしてこれはあの時のあれか?」
「よし、ベーコン作り以外にも役に立つところを見せるぞ? 今日の夕食は俺が一品作らせてもらおう。ふっふっふ」

 何だか非常に嬉しそうなので、お任せしようかな。白雪さんも知ってるみたいだし、本当に食べられるんだったら、あっちでも再現できそうだしね。
 ということで、普通の夕飯は私達が作りつつ、チアキさんもルンルンしながら準備を進めている。白雪さんはチアキさんに言われてゆで卵を大量に準備中ですよ。

 ささっと安全地帯近くにある木から大きな枝を切り落とし、木魔法を使いながら箱を作り始めている。なんだろう、中華料理屋さんの出前で使っているオカモチみたいな、一部分だけ上下スライドで開け閉めが出来るような形にしている。中も四つくらい棚が置けるような出っ張りがあるし、炒飯、餃子、レバニラ置けちゃいますよって……、え? マジでオカモチを作ってるの?

 そんな事を考えながら、本日の夕食、ビーフシチューを煮込んでいます。ビーフは深層階から新しく増えた牛さんで、ホルルタンに次ぐ新顔です。いや、あっちにもいたかもしれないけど、私が会ったことがなかった相手って事ね。
『ヘレ』という、既に肉の部位じゃねーかとツッコみたくなる名前の牛さんは、西部劇とかで見たことがある感じのお顔立ち、顔だけ白くて身体は綺麗な薄茶色。デカさは今までで一番大きいかな? サマニア村近辺のヒュージボアと同じくらいのサイズだね。軽自動車サイズの牛、それが低く構えたところから突進してくるのは、ラガーマンかレスリングのタックルを受けるような感じだろうと思うよ。両方受けたことはないけどね。

 そしてヘレは名前を裏切らない、肉だけを落としてくれるのです。一回に落とす肉量は今までで一番多く、張り切ってチアキさんがベーコンを作ってくれてました。酒が好きだったというチアキさん、そういうアテになるようなものは作った事があったらしい。
 トロトロに煮込んだビーフシチュー(鍋三個分)が完成したころにチアキさんの調理も終わったみたい。途中からテント替わりの簡易小屋の裏に隠れてしまって、何をしているのか見えなかったんだよね。

「チアキさ~ん、出来ましたよ~」
「お~、俺も完成だな。持っていくから少しテーブルの端を開けておいてくれ」

 小屋の後ろから聞こえてくる声は満足そうだし、先に戻ってきている白雪さんも楽しみにしているので、相当自信作なんだろうね。大人組も知っているのか、ワクワクしているから、私達もつられちゃう。

「よ~し、待たせたな」

 意気揚々と戻ってきたチアキさんの手にはオカモチが。そのままテーブルの端に置いて、スライド扉を開ければ、中に二枚のお皿が入っていた。
 スッと取り出した皿に乗っていたのは、茶色い卵と、いつもよりテカって見えるベーコンだ。だけどそれだけじゃなく、この色って……。

「もしかして、燻製?」
「あ~、まあヴィオにはバレるか。そう、燻製だ。これがまた美味いんだよ。食ってみろ」
「おぉ! 材料が無くなったから食べられないと聞いていた幻の! ミニトレントであれば山に潜れば直ぐですね。集めておきます!」
「懐かしいな。チャーキと出会ったあの頃は、このベーコンをよく食わせてもらったのを覚えておる」

 チアキさんが作っていたのは燻製卵とベーコンだった。例のミニトレントの枝はスモークチップになるそうで、ミニトレントの種類によって香りが違うんだけど、今日のは一番多いノーマルタイプだそうで、日本にあった燻製チップだとクルミとかに近いんだって。オカモチだと思った箱の一番下に火をつけたチップを入れ、蓋をすれば燻製されるというものだった。
 料理が殆ど出来なかったチアキさん、スタンピードで潜っていたダンジョンの旅の途中、焚火の薪にと拾っておいたミニトレントの枝から出る煙と匂いに燻製作りを思いついたんだって。

 聖女様は煙たいからと嫌がり、お付きのハーレム要員たちも怪しげな儀式をしているように見えたから嫌がり、結局エルフのイヴォンネさんだけが喜んで燻製肉を一緒に食べてくれたんだって。
 まあ日本でも、燻製食品を「色が悪い」「腐っている」「煙臭い」「硬くて全部同じ味」とか言って嫌う人もいたしね。確かに当たりはずれが無いとは言えないけど、私は好きだったと思う。うん、卵も黄身がトロッとしてて、味がとっても濃いね。
 ああ、ベル君は卵は苦手だったみたい。でもベーコンは気に入ってるね。それは半熟というか、トロッとしているのが嫌だったのかな? 子供なら燻製チーズとかが食べやすかったかもね。

 これは他のミニトレントも燻して香りを確認しないとだよね。燻製箱の作り方もチアキさんが快く教えてくれたので、お兄ちゃん達へのお手紙に書いておこう。きっと美味しい組み合わせはクルトさんが考えてくれるはずだから。
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