ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉リズモーニ王国 2

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 ~王都 ドゥーア先生視点~


「旦那様、ヴィオお嬢様から二通目の手紙が届きました」

 一度目の手紙が届いてから三か月半、待ちに待っていた手紙が届いた。
 前回とは違い『速達』と書いていない手紙は日中に届けられた為、学園から戻ったところでオットマールから渡された。

「今度こそ送り先の詳細はございますでしょうか」
「サマニア村宛の手紙にも書いていなかったようだからね。今回は書いている事を期待しようか」

 普段は手紙に興味を持つことのない使用人たちなのに、ヴィオ嬢からの手紙という事で手の空いている者が全員かと思うほど、多くの者たちが集まっている。思わず笑みがこぼれるが、彼女がうちの者たちに与えた影響がなせる業だという事だろう。
 前回の手紙には無事である事、ドラゴンに乗って未知なる大陸に渡った事、今は勇者だった方に保護されている事、しばらくはその村で勉強と鍛錬を積む予定だという事が書いてあった。

 ヴィオ嬢の無事を喜ぶとともに、あまりにも衝撃的な内容だったため誰も気付いていなかったのだ。前プレーサマ辺境伯ヨーナス、ヘイジョーのギルド、〔サマニアンズ〕の面々、関係各所への連絡をする必要があり、メネクセスの国王陛下直属の部下とのやり取りも始まって、ようやく落ち着いたのが半月後、その時になって返信先の情報がないことに気付いた。ただあの頃は、知らせるべき新しい内容もなく、ただ悪戯に不安を煽るだけだと分かり、二度目の手紙を待つことで皆が納得したのだ。

《ドゥーア先生へ
 こんにちは、二度目のお手紙です。
 皆は元気にしているでしょうか。お兄ちゃんたちは金ランクになれたかな? 
 私は元気で過ごしています。こっちの大陸はリズモーニ王国と同じくらいの大きさだという事なのですが、半分くらいは山や谷が多くて街を作るのは大変だそうです。ですが、空を飛べる竜人族や、翼人族の人達にとっては移動に困らず、静かに過ごせるという事で小さな集落が沢山あるんだそうです。
 ダンジョンもありますが、管理する村というのは特に作っていないというのも驚きでした。中身はあまり変わらないのかな? まだ比較対象が少ないので、沢山入ってきたいと思います! ポアレスはこっちでもありましたよ。それから、ハズレ袋の緑と青も大当たりでした。簡単なレシピは別の用紙に纏めておきましたので、そちらにもあるなら参考になると思うので、料理長さんに教えてあげて欲しいです。
 こちらには特殊ダンジョンも沢山あるそうです。他の集落を見て回る事も予定されているので、沢山経験を積んで帰りたいと思います。
 竜人族の人達がドラゴンに変身できるんですよ。ドラゴンの背中はトゲトゲしていなくて、風の壁で自分を包めばとっても快適な空の旅をする事も出来ました。だけど、できれば私も自分で空を飛びたいです。
 先生、オットマールさん、ブン先生、エミリンさん、皆に会いたいです。どうぞお体に気を付けてお過ごしください      ~ヴィオ~》


「「「…………」」」
「まぁ、ヴィオお嬢様ってば、お空を飛ばれたのですね。夢だったドラゴンにお会いになれたなんて、ようございましたわ」

 手紙を持ったまま固まっていれば、エミリンが嬉しそうにそんなことを言う。エミリンにとってはヴィオ嬢が楽しく過ごしている事と、夢を叶えたことへの喜びが大きいのだろうが……。
 竜人族という種族は伝説だし、その彼らがドラゴンになることができるなど、これは国家機密ではないか? ヨーナスに伝えればきっと喜びそうだが、相変わらず驚きが詰まっていると笑うしかない。

「あぁ、やはり送り先の情報はございませんね」

 封筒と内容をもう一度検分していたオットマールから残念そうに声が上がる。せめて村の名前があれば良いのだが、もう一度確認してもそれらの情報は無かった。


 ◆◇◆◇◆◇


 手紙が届いた数週間後、〔サマニアンズ〕とアスランがメネクセス王国の王子を連れて戻ってきた。王子は国賓でもあるため王城の離宮で過ごされると思っていたのだが、現国王陛下がサバーブで下宿生活をしていた事を知り、自身も下宿生活を希望された。流石にそれは下宿の警備にも問題が生じる事を告げて納得して頂き、東の貴族寮を使用して頂くこととなった。王子に同伴していた侍従たちは、陛下が育ったトルマーレ辺境伯の関係者だそうで、貴族寮であれば問題ないという事だったので、王子も渋々納得したというところだろう。

 入学申し込み書にあったガルデニア侯爵関係者の名前は全て入学辞退となっているし、皇国から入学予定だった聖属性持ちの令嬢一人も入学時期延期の連絡が来ている。
 皇国の連絡が来ているのは私が特別講義担当だからではあるが、さて、彼女が入学する可能性はあるのだろうか。

「護衛依頼ご苦労様、ヴィオ嬢から二通目の手紙が届いたよ」
「!!!」

 王子を寮に送り届けた後、〔サマニアンズ〕とアスランは馬車の返却の為に屋敷を訪れた。
 今回の手紙にも、彼ら宛の手紙が同封されていたけれど、こちらに向かっていると聞いていたため保管しておいたのだ。
 トンガ君とルンガ君は嬉しそうに手紙を受け取り、二人が並んで読む後ろから覗き込むようにクルト君とアスランが立っている。つい先日の私達のようで思わず笑ってしまいそうになった。

「――まじか」
「ドラゴンって竜人族の人達って事?」
「全てがというわけではないでしょうが、そうなのでしょうね。しかし獣人の違いは興味がありますね。部分獣化というのが我々でも可能なのか、その場合はどのような能力上昇、下降があるのかも調べてみたいですよ」
「野生じゃないなら、ドラゴンの姿画を描くことも出来そうだよな」

 驚いていたものの、直ぐに回復した彼らは其々の感想を述べはじめますが、やはり彼らはヴィオ嬢の家族なのですね。血の繋がりはなく、一緒にいた時間もそう長くない筈ですが、彼女の事をよく理解しているのが分かります。

「クルト君にはこちらも、我が家の分は既に写しを作っていますので、こちらはクルト君が持ってください。新しいハズレ袋のレシピですよ。
 まだこの色の袋は見つかっていませんので、数カ所の上級豊作ダンジョンへ採集依頼を出しています」
「あ、ありがとうございます」
「何々、ハズレ袋の青? ルメスには無かったっけ?」
「あんまり真剣に探してなかったしな。けど中級だったしなかったのかもな」

 確かに、これが見つかったのは上級ダンジョンだったと書いてありますし、何か別の条件があるのかもしれません。これに関してはダンジョンに入った時に確認してみるという事でしたので、結果を楽しみにしておきましょう。

「それで、そちらの手紙には送り先の情報はありましたか?」

 スティーブンの問いかけに、もう一度手紙を読み返しているトンガ君でしたが、どうやらなかったようですね。

「も~、ヴィオってばしょうがないなぁ。きっと『お兄ちゃん達から手紙が返って来ない。嫌われちゃったかな』とか考えてそうだよね」
「だな、俺らが父さんの事を知ったのは分かってるだろうし、前の手紙はそんな感じだったもんな。ほんっと、宛先が分かんねーと送れねえっつーの」
「気付いた時を見れないのは残念だけど、また百面相してそうだよな。返信するときにはこっちでもハズレの新色が見つかったって教えてやらねーとな」
「私もしばらくは鈍り過ぎた身体を鍛え直すために付き合いますよ」

 切り替えが早いのも彼らの素晴らしいところでしょうね。
 うちの騎士達への稽古も付き合ってくれた彼らは数日屋敷に滞在し、新しい豊作ダンジョン巡りをすると旅立ちました。
 魔馬はプレーサマ辺境伯の王都邸に預けてくれと連絡がありましたから、身軽に徒歩での旅を続けるようです。ヴィオ嬢からの手紙は私の元に一旦届きますから、彼らも所在地が常にわかるように連絡をくれることになりました。
 さて、次にくる手紙には送り先が分かる情報があるでしょうかね。ヴィオ嬢、お願いしますよ。
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