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素敵な素材と魔獣
第437話 モフモフを求めて
しおりを挟む「ミケさんただいま~」
「ヴィオ様、お帰りなさいませ。旦那様も、白雪様もお帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
「うむ、戻ったぞ」
野営地というには立派な建物が見えてきたと思えば、外に出てきてくれたミケさん。きっとダルスさんが気配察知をしてくれたとは思うんだけど、三毛猫にゃんが手を振ってくれているのが嬉しすぎてダッシュで飛び込んでしまいました。
驚きながらもギュっと抱きしめてくれるミケさんは、今日も太陽の良い匂いがします。肉球ハンドでよしよししてくれるのはご褒美でしょうか。
ミケさんは幼少期のトラウマから、あまり感情を表に出さないようにするんだけど、シッポがピンと伸びて、先がクルン、クルンとなっているから喜んではくれているみたいです。
「チャーキ様、森の浅い場所のモフッコは殆ど居ませんでしたね。ただ、谷を挟んだ奥にはそれなりにいました」
「そうか、では帰りに数匹捕獲して帰ろうか。ヴィオも野生と家畜の違いを見てみればいい」
「毛の感じだと羊ですよね? あっちの大陸ではムートンってのが居ましたけど、それとは違うんですか?」
ムートンといえばフッカフカの毛足が長い絨毯ってイメージだけど、日本の羊によく似た(デカいけど)が家畜として飼われているのはリズモーニを旅している中で見たことがある。
羊皮紙として使われているのは魔獣のムートンで、家畜のムートンは毛刈り目的なんだって。食肉も魔獣で採れるし、他にも肉は沢山あるから、毛刈りされて食肉加工されるって事は無いと聞いた。
結局モフッコの正体は教えてもらえなかったけど、明日会えるから楽しみにしておこう。
夕食後、買ってきたクッションを早速解体する。
中に入っている毛皮というか毛は、本当に柔らかくて、こんな気持ちいい物をこんな生地に、しかも雑に詰め込むなんてもったいないと思ってしまったのも仕方がないと思う。
「この毛で糸を作って布を作った方が良くないですか? これでパイル生地とか作ったら最高過ぎると思うんですけど」
「そう思うよな? まああいつらにそこまで教える理由もないし、毛を刈って、それを活かせば良いって言っただけだからな。あの村には糸紬と毛織物の工房はないんだ。何でか分かるか?」
ゆっくり見て回っていた訳ではないけど、どんなお店があったかな。ギルドっぽい建物は見当たらなかったけど、今でも冒険者を育成していないのかなって思ったぐらいだね。
糸紬は毛から糸を作る工房で、毛織物は機織りとかする感じだよね? ミケさんは器用だから、服を繕うのも得意だし、そんなお店もあるとは思うけど何でないんだろう。
「猫じゃからな、毛を糸にする時は糸巻きをするじゃろう? クルクル回るあれを見ると本能が擽られるらしくてな、猫をはじめとした一部の獣人はその職業に向いておらんと言われておるな」
な、なんと、それはアレですか? 毛糸の丸まってるのを見るとニャーって突撃するような、猫ちゃん動画によくあるアレをリアルでやっちゃうんですか?
蜘蛛のドロップアイテムは刺繍糸みたいにくるっとまとまった糸の状態で貰えるんだけど、あれを布に仕立てているのはランダさんじゃなかったのかな? もしかしたら糸は別のお店に渡して加工していたのだろうか。
猫獣人は器用な人が多いのもあり、服飾関係の仕事をしている人も少なくないそうだけど、一定速度で回る糸車とか、機織りのパタンパタンと動く踏木や、織られるたびに動く糸が気になってしまうんだって。まあ本能なら仕方がないよね。
「モフッコの毛を刈って、【クリーン】で洗浄したものを袋に詰め込んでいるだけだからな」
毛刈り技術さえあればいいって事か。勿体ないけど、糸の加工を別の人に頼むとなれば、それは手数料がかかるし、この場所だと運送費用も追加される。他所で加工して戻ってきた生地を更に加工して売り出すなら、今よりもっと価格を上げないと赤字になるだろう。
毛の販売だけして全て加工までお任せすれば楽だけど、その場合は村の収入が激減しそうだよね。今はあのクッションの取引があるからそれなりに稼げてるって話だし。
「まあ、明日は家畜化されて安全なモフッコを見せるのと、その毛刈り方法をヴィオに見てもらうのが目的だからな。ミケを連れていくことも考えてたが、今日のあの感じを思えばやめておいた方が良さそうだな」
まったくミケさんの事を心配する素振りもなかったもんね。ミケさんもチアキさんの言葉にホッとしたようで、実家なのに帰りたいと思えないというのは非常に悲しいことだと思った。益々あの猫オヤジが嫌いになるよね。
翌朝、ミケさん達にお留守番をお願いして、再びカッツェ村へ。門番の人も今日の再訪を知っていたので、スムーズに通してくれた。
クッションのお店に到着すれば、昨日はいなかった大人たちが増えていて、猫おじさんの親族だと紹介された。皆耳と尻尾しか猫成分がないから、三毛猫かどうかも分からない。おじさんの耳は黒、おばさんの耳は白というのだけ分かったけど、猫になったらサビトラと白茶かもしれないよね。
「今日はお嬢様に毛刈りの体験もして頂くのに、人手があった方がよろしいかと思いましてね、子供らにも手伝わせることにしたのです」
ワッハッハなんて言いながら、お店を通り抜けて裏側へ。子供という事はミケさんの兄妹って事なんだね。ミケさんより大きい人ばかりだから姉と兄なのかな?
揉み手をしているのは猫おじさんだけだけど、他の人もペコペコしている。この村で一番稼げるようにしてくれた人だからなのかな?
「さあお嬢様、こちらがモフッコでございますよ。飼い慣らされては居りますが魔獣ですのでね、お気を付けくださいませ」
そうとは言っていないけど、勝手にチアキさんと白雪さんの子供だと勘違いされているらしい私。二人もそれを訂正するつもりがないのか、今も私の両手を二人が握っているので『攫われた宇宙人』状態です。猫おじさん達が先導していたので、牧場に到着しても見えなかった目的の魔獣、おじさん達が左右に分かれたことで牧場内を長閑に動き回るモフッコがよく見えるようになった。
「アルパカ?」
「え、ええ、パカパカと歩いておりますでしょう? あれがモフッコでございます」
思わず呟いた言葉に猫おじさんが被せてくる。パカパカ歩いてはいないだろうが、子供の間違いをそっと修正しようとしてくれたのだろうか。チラリとチアキさんを見上げれば、ニヨニヨと嬉しそうに笑っているから、分かっていてこの見た目を言わなかったんだろう。
牧場にいるモフッコと呼ばれる魔獣は、動物園でも見たことがあるラクダと羊と馬を足して三で割ったような動物、アルパカにそっくりだった。
いや、もしかしたらアルパカよりもボリューミーだと思う。頭から足までモコモコの毛で覆われていて、その風貌はレストランの三ツ星ガイドブックを作ったタイヤメーカーのキャラクターに見える程だから。
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