ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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素敵な素材と魔獣

第438話 モフッコの毛刈り

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「野生のモフッコだと、あそこまで毛量は多くないんだ。基本的に森で生活しているから木々に引っ掛かるしな」
「そうなのです、ここでこうして家畜化したことで、この素晴らしい毛質を保つことが出来ているのですわ」
「では、あちらの個体を毛刈り致しましょう。まずはうちの者が致しますので見学をなさってください」

 あの毛量では生活が大変そうだと思っていたら、チアキさんが教えてくれた。猫おばさんがそれを肯定するけれど、まあ森であれだと色んな所に引っ掛かって大変だろうね。
 猫おじさんの合図で、兄弟らしい二人が一匹のアルパカ――じゃなくて、モフッコに近付いていく。首輪もしていないけどどうやって連れてくるんだろうね。

「えぇっ!?」

 思わず声が漏れたのも仕方がないと思う。だって、お兄さんの方が突然モフッコの前で猫さんに早変わり。そのままモフッコの足元に纏わりつくように身体を擦り付け出したんですよ。これって猫が構ってほしい時にやるやつじゃない?
 そう思っていたらモフッコも気持ちがいいのか、猫さんの尻尾や身体をフンフンし始めて草を食べるのを止めてじゃれ始めた。
 そして猫さんに夢中になっている間に、もう一人が毛を刈り始めてるんだけどこれって二人一組でやらないと無理だし、片方は猫じゃないと無理じゃない?
 慣れた様子で身体の毛を刈り取ったら、猫さんが柵の上にヒョイと乗り上がる。そうするとモフッコも顔をあげて猫さんをフンフンしているから、首と顔周りの毛もシャシャっと刈っていく。

「す、凄い……」
「そうでしょう、そうでしょう。あのモフッコは猫獣人との相性が非常によろしくてですね、ああしてじゃれ合っている間に毛刈りを終えることが出来れば、大人しい状態で安全に刈上げることが出来るのですよ」

 すっかり綺麗に毛が刈り取られたモフッコは、毛刈りに気付いていないのかと思うくらい猫に夢中だ。最後に猫と顔をすり合わせれば、満足そうに他のモフッコがいる場所に戻って行った。
 大量のモフ毛を抱えたお兄さんは、用意されていた大きな袋に毛を突っ込んで【クリーン】を唱える。もう一人の猫さんの方は自分が脱ぎ捨てた洋服を咥えてどこかへ消えた。

〈ルイスさん達はお着替えしなかったと思うんですけど、猫さんは別なんですか?〉
〈ああ、ルイス達は魔道具を使っているからな〉

 種族秘密とかがあると駄目なので【サイレント】で聞いてみたら、そんな答えが返ってきましたよ。そうか、まあそうだよね。
 ベル君を含めた全員が着けていたのは覚えているけど、どうやら竜人族のお守りだと思っていたピアスは魔道具だったそうです。

〈あれ? 魔道具なんだったら白雪さんは使わないんですか? 白熊さんから着替える時にはいなくなりますよね?〉
〈白雪も着けているが、あのピアスに登録できる服装は一装備だけなんだ。だから冒険者装備にしている筈だぞ。白雪はお洒落が好きだからな。家の時は部屋に戻って着替えているんだと思うぞ〉

 成程、確かに普段お家にいる時の白雪さんは色んな着物を着ているもんね。今はダンジョンの時と同じ冒険者装備だけど、そっか、戦いの時でもなければそんなに慌てて変身する必要もないもんね。
 ちなみにピアスの魔道具はチアキさん特製で、ルイスさん達仲良しの竜人族だけが持っているんだって。
 リルベルッティ大陸の人達は獣化を自由にするから、そういう仕組みになっていると思っていたけど、そんな訳はありませんでした。

 お着替えの謎を知ったところで、猫おじさんから用意が出来たと声をかけられる。茶トラ柄の猫さんが小さいモフッコとニャンニャンしながら私たちの近くまで来てくれたようだけど、お姉さんが居なくなっているので、あの茶トラさんはお姉さんなのでしょう。

「では、こちらの魔道具を使いますからね。少し大きいかもしれませんから気を付けてお使いください」
「我が供に支えるので大丈夫じゃろう」
「おお、そうですな、それなら安心です」

 白雪さんが私と一緒にやってくれるようだ。大きなハサミだったら怪我をさせそうで怖いと思っていたけれど、渡されたのはバリカンだった。T字型になっているので刈れる範囲は結構広そうだね。魔道具のスイッチ部分に魔力を流せば、ブビビビンとバリカンが震える。

「おぉ! 思ってたより振動がくるね」
「ほぉ、ではヴィオの上から支えておるでな、動かすのはヴィオがやればよい」

 私の手の上から白雪さんがキュッと握ってくれた事で、振動が治まってくれる。猫おじさんが指示する場所からバリカンを入れてみれば、思ったよりスムーズに刃が進んでくれた。
 だけど、モフモフの毛がべローンと剝がれてくるので、それを避けながら次に行くのは中々大変だった。さっきのお兄さんは子供を丸刈りにする感じでシャカシャカやっていたけど、そんなに早くできそうにはない。
 ある程度まで刈れば一度魔道具を離して、毛を集めて袋に詰める。また魔道具に魔力を流して毛を刈り、ベロンと出た毛を集めて袋に詰めるの繰り返しだ。

「これ、思ってたより大変かも」
「はっはっは、そうでしょう。それでもお嬢様は凄いですぞ、モフッコの半身をこれだけ丁寧に早く出来るのは素晴らしい才能ですな。大人でも初めてだともっと時間がかかります」

 社交辞令なのか、本気なのかは分からないけど嬉しいです。
 残り半分は白雪さんが、首元などはチアキさんが楽しんで刈り取ってくれました。モフッコも嫌になるかと思ったけど、長く猫さんとイチャイチャ出来て満足そうでした。

 お兄さん達がやっていた作業時間の倍程かかったけれど、無事に毛刈りを終え、【クリーン】で綺麗になったモフッコの毛は、そのままクッションの袋に乱雑に詰め込まれて、商品棚に並べられました。何と勿体ない使い方をするのかと思うけれど、まあこの人達に何かを言っても仕方がないか。

「今日はありがとう、ヴィオも楽しめたようで良かった」
「いえいえ、こちらこそチャーキ様方にお会いできてお礼を申し上げることが出来て感謝申し上げます。今回の事で、親子で毛刈りをするという体験も良いと思いましたし、集客になりますよ」

 毛刈り体験を終えて帰ろうと思った時、猫おじさんとおばさん、それからさっきの茶トラのお姉さん(今は人型)がお見送りにきてくれた。おじさんは私と白雪さんが仲良く毛刈りをしていたのを見て、小さい子供は危険だからと断っていたけれど、良い集客になりそうだとお礼を言ってきた。
 そしてここまで静かだった猫おばさんもお礼を言ってきたんだけど……。

「ええ、チャーキ様方には我が家がこのように繁栄できるきっかけを頂きましたし、感謝しかございませんわ。あの厄介者はもう廃棄なさったのでしょうか? あれは使えませんでしたでしょう? もし必要であればうちの娘は気立てが良いのもおり――ひっ!!!」
「フシャー!」

 あまりの発言に、私だけじゃなくてチアキさんと白雪さんから怒りのオーラというか魔力が噴出しちゃったよね。猫おばさんはその場で尻もちをついてお漏らしをしたし、お姉さんは茶トラ猫さんになって背中と尻尾の毛をめっちゃ逆立てながら後退って、猫おばさんの後ろに消えた。

「不思議な言葉が聞こえたが、うちのミケのことを言っているのか?」
「あ、あの、いえ、そ、そんなことは、ミ、ミケという名前まで頂けたのでしたか……、は、ははは、ああ、あの子が元気で、やっているのであれば、よ、よかったです、ええ、はい」

 チアキさんからポンポンと頭を撫でられたので、私も怒りを抑えておきましょう。ただし猫おばさんの事は許さんよ? ミケさんの事を厄介者だと? 厄介者でしかなかった私を優しく包み込んでくれて、嫌がることなくお世話してくれていたあの優しいミケさんを? 絶対にモフッコの毛から素晴らしい糸を作って製品化してやる。
 アワアワする猫おじさん達を置いて、私たちは村を後にした。

「心配どころか、自分の娘を何じゃと思っておるんじゃ!」

 プリプリ怒り心頭な白雪さんを宥めながら、野営地まで帰りますよ。あの茶トラはミケさんの妹らしいけど、あれをチアキさんに押し付けようとしてたのも、白雪さんの怒り燃料となっていたみたいだね。

「だけど、なんであの人をチアキさんに預けようとしてたの? 毛刈りの人員は多い方が良いって思ってそうだったのに」
「こっちの大陸には勇者という大層な肩書など伝わってなかったんだがな、この大陸を回って冒険者ギルドの設立をしたり、ダンジョンの確認をしたりしていたからな」

 竜人族の彼らからすれば、チアキさんに仲間を助けてもらったというのもあったのだろうけど、ただの獣人からすれば竜人族は神様的な扱いというか、絶対逆らってはいけない種族という認識らしい。
 その竜人族を友人というか部下のように従えて行動するチアキさんは、恐ろしい人であり、非常に金持ちであるという認識だったそうだ。

「ん? 恐ろしい人って認識はまだしも、何で金持ちってイメージになるの?」

 あの村では大きなお屋敷に住んでいるし、多分財産というものに換算すれば相当な金持ちではあるかもしれないけど、どちらかと言えば質素な生活をしているよね。

「ああ、この世界でも何故か『ドラゴンは金銀財宝が好きで集めている』という認識なんだよな。俺が今まで出会った竜人族でそんな奴はそんなにいないんだけどな」
「まあ土竜くらいじゃないかの。風のは気儘に旅をするのが多いし、水のは物を増やしたくないのが多い、名前から考えて光のは好きそうじゃが、あれは空から下りてくることが無いから分からんしな」

 ちなみに火竜は火山の近くに住むことが多いので、そんな燃える&溶けるかもしれないものは集めないだろうとの事、木竜も自然と森が大好きだから、石には興味がないだろうという事で、土竜と推定光属性の竜だけが集めているのではないかという事でした。
 ドラゴンにも趣味嗜好が色々あるようですね。
  
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