ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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素敵な素材と魔獣

第442話 新しい甘味

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 レシピが確定すれば皆に教えることになるんだろうけど、まだ実験段階だからね、チアキさん宅のキッチンで少しずつやっていきますよ。
 まずはマジックバッグから種を六個取り出し、再度【クリーン】で綺麗にする。
 鞄に収納する時点でやってるけど、何しろモフッコのお口の中でモグモグされたやつですからね。

「これが新しい食材ですか?」
「う、うん、多分そうなると思うの。だけど私が知っているのとは少し違うから、色々実験してみようと思ってるの」

 カカオ豆って何かの中身で、種みたいなやつを熟成させて、焙煎して、殻をむいて、すり潰してっていう工程があった筈なんだけど、この種って既に皮を剥かれた状態っぽいんだよね。
 木の実状態の時は焙煎云々という状態でもない、元のオレンジカカオの外皮とかのレベルじゃない硬さで別物だったんだけど、あのモフッコの唾液はどうなってんだろうか。
 鑑定眼鏡で種を調べてみれば、こんな風に表記されました。

 分類:種子
 素材名:カボス
 成分詳細:熟成により食用可能
 採集地:森

 カボスって、緑のミカンというか、スダチの仲間というか、レモンに似ているアレではないの? というツッコミと、採集地『森』って範囲広すぎないか? っていうツッコミと、成分詳細が熟成って事は、モフッコの口内で熟成されたってことかぁ。というツッコミが脳内で駆け巡っています。

「何か分かりましたか?」

 はっ! そういえばミケさんが待っていたのでした。

「この種はカボスという名称だそうです。既に熟成しているという事なので、焙煎が必要なのか、不要なのかを試してみたいと思います」
「カボスですか。初めて聞く名前ですが、その眼鏡は便利なのですね」

 成程と頷いてくれるミケさん、まずは焙煎が終わっている状態と仮定してやってみよう。
 すり鉢はあるので、その中に一つの種を入れて、すりこぎ棒でグリグリと押しながら種を砕く――つもりだったんだけど、ニュルンと潰れた。そういえば森でも握りしめて形が崩れたな。
 粉状にしてから湯煎で溶かすつもりだったのに、既にドロリと形を変えているカボス。これはすり鉢ではない方が良かった予感。

「思ったよりも柔らかいので、平らな板の上か、ツルリとしたボウルの中でやった方が良いかもしれないです」
「その様ですね。では私はボウルの中でやってみますね」

 という事で、すり鉢から天板の上にヘラでこそぎ落とす。ボタリと落ちたそれを指で掬って一舐めすれば、ちょっと苦みのあるカカオだった。
 何なら大人用のチョコならこのままでも良いんじゃないかと思うくらいなんですけど、え、これ工程がこんなに簡単とか、凄くない? モフッコのポテンシャル凄くない? 毛は極上で、吐き出す種はカカオって、最高の魔獣ちゃんじゃないですか。ここで飼うのが彼らのストレスになるなら可哀想だし、森で自由に過ごしてもらって、時々種攻撃を受けに行く人たちに安全対策を施すだけで良くない?

 そんな事を思いながら、ヘラで滑らかになるように粒々を無くしていく。一つはこのまま小さな板に薄く延ばして、冷蔵庫に入れて冷やしておく。勿論この冷蔵庫も魔道具ですよ。

「ヴィオ様、こちらはどういたしますか?」

 ミケさんの手元はすっかり泥状になっているカボス、砂糖を入れてどれくらいの甘さになるのか確認したいね。
 という事で、カボス一個に砂糖を一匙、この匙が9グラムかどうかは分からないけど、この家で使っている匙なので、これで合わせれば良いと思う。
 二つ目のカボスには二匙、三匙いれるのは多すぎっぽいので二匙までにしておいた。
 蜂蜜でも試しておきたいので、こちらも蜂蜜一匙、二匙を混ぜて、しっかりネリネリ、其々を薄く延ばして冷蔵庫に。全ての分量が分かるようにメモ書きも忘れずに乗せておく。

 あとは固まるのを待つだけだと伝えたら、ミケさんがとても驚いていたけれど、私もこんなに簡単だと思っていなかったから驚きですよ。

 という事で、時間が余ってしまったので、モフッコの様子を見に行こうと思います。
 モフッコが元気そうなら毛刈りもしようと思うんだけど、あそこで見せてもらった安全な毛刈りをするには、ミケさんに獣化してもらう必要があるんだよね。まだ家畜化していないあのモフッコに、非戦闘員のミケさんを近づけるのは危険だし、これはチアキさんが帰ってきてから相談するしかないかもね。
 モフッコの様子を見に牧場へ行けば、柵から身を乗り出すように覗き込んでいるベル君がいた。勿論それ以外の大人たちも、畑作業をしつつ、チラチラと気にして見ているみたいだけど。

「ベル君おはよう。モフッコを見に来たの?」
「おはようヴィオ。う~ん、見に来たんだけど、あいつらあっちの木の影に固まってて出てこないんだ」

 確かに、牧場は結構な広さがあるのに、住人たるモフッコたちは未だに木陰に隠れたままだった。猫獣人に飼われることを苦としないモフッコたちは、多分森の中でも平和主義者なのだろう。
 カカオを吐き出しているのも、もしかしたら集まってくれた魔獣(モフッコの敵を排除してくれる仲間)への感謝の貢ぎ物なのかもしれない。
 そんな平和主義者で弱いモフッコたちからすれば、竜人族というかドラゴンなんて弱肉強食の最上位だろう。気配だけでビビッて出てこないのは仕方がないのかもしれない。

 しばらくそうしていたら、チアキさんの気配が近づいてくるのが分かる。
 空を見上げれば、水色のドラゴンが優雅に空を飛んでいた。

「おぉ! ドラゴンが飛んでるよ!」
「いや、ヴィオもこないだ乗ってただろ」

 いや、まあそうなんですけどね。こうやって下からドラゴンが飛んでいるところを間近で見られるとか、凄い貴重じゃない? 乗ってると全体像は見えないですからね。

「ドラゴン、格好良いね」
「他種族の方からそうして褒めて頂けるのは素直に嬉しいですね」
「俺だって、あと十年もしたら大きくなれるんだからな」

 水色の鱗が空の青とマッチして、煌いて見えるのがまた美しいのだ。危険がないと分かっているからだけど、ドラゴンをこんなにゆっくり眺めることができるのは、この大陸ならではではないだろうか。ウットリ眺めていたら、ルイスさんが嬉しそうにお礼を言ってきた。そしてドラ化するとコロンと可愛らしいベル君は、ちょっと悔しそう。あれはあれで、貴重な子ドラで可愛いけどね。

 私達の姿に気付いたダルスさんは、牧場の側にゆっくり下りてきてくれた。風魔法を使っているからだろう、着陸の衝撃も、音もなく静かに降り立った。

「おぉ、皆で出迎えか?」

 嬉しそうなチアキさんには悪いけど、出迎えのタイミングになったのは偶々です。言わんけど。
 木陰で隠れていたモフッコが更に小さくなってプルプルしているのが見えたのか、ダルスさんは直ぐに人化してくれたけど、気配は隠せない。
 チアキさんはマジックバッグから取り出した木々を牧場内にどんどん移植していくから、彼らが隠れることが出来る範囲が増えるんだけど、隠れたからと言ってどうかという話だよね。
 さて、どう伝えるかね。
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