ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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素敵な素材と魔獣

第443話 モフッコとの共存?

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「チアキさん、モフッコたちが禿げるかもしれません」

 どう伝えるか悩んだけれど、ここはストレートに伝えた方が良いだろうと思ったので、そのまま思っていることを伝えてみた。

「隠れることが出来たらという問題でもないってことか。さて、どうするか」
「森に帰すのか?」

 自宅に戻って今後の相談中、白雪さんはどちらでも良いとの考えだけど、私としては毛の加工もしたいし、定期的にカカオが手に入るまたとないチャンスだと思っているので、勿体ないとも思っているんだよね。

「それも一つだとは思うんですが、カカオをもらいに行ったとしても、竜人族の人達だときっと襲いに来ずに逃げますよね? 私と気配を抑えていたチアキさんだからこそ、彼らが来てくれただけだと思うんですよね」
「おっ! 加工は成功したのか?」

 チアキさんが反応してくれたので、試食をしてもらおうかな。薄く伸ばしているから多分もう固まっている筈だ。キッチンに行けば、ミケさんも反応を見たいと一緒に戻る。

「こちらのお皿は何も混ぜていないカボスカカオ単体となります。こちらのお皿はカボス一個にお砂糖を一匙加えたものと、二匙加えたもの、こっちは蜂蜜を同じ様に一匙、二匙加えたものです」

 薄いプレートの上にツヤツヤと黒光りするチョコレート。スプーンの腹でグッと押せば、パリンという気持ち良い音を立てて割れた。
 まずは何も加えていないものから試食してもらう。一番大きな欠片を選んだチアキさんは迷いなくそれを一口食べる。
 白雪さんはその様子を怖々見ているけど、こんな黒い食べ物は今まで存在しなかったもんね。ちょっとビビッても仕方がないと思う。

「いいな、俺が知っている濃いカカオよりも食べやすい気がするな。もっと苦いと思ったが、これだけでも食べやすいし、酒を混ぜたものを作るなら、これが一番いいかもしれん」

 私もそう思いました。アレンジチョコにするなら、中身が甘い分、チョコ本体はこれくらいで充分だと思う。だとすれば砂糖が不要な分、非常に安く作れると思います。
 次に砂糖を加えたものを試食したチアキさんからは、二匙分は甘すぎるとの答えが返ってきた。これは蜂蜜も同じ、カボス一つに対しての二匙は甘みが多すぎたのかもしれないね。

「うむ、じゃが我はこちらの甘みも好きじゃ」
「はい、とっても贅沢な甘みです。何だか高貴な人になったような気がします」

 そんな甘すぎチョコだったけど、白雪さんとミケさんには好評でした。二人からすれば、ノーマルカボスはちょっと苦くて、甘味だと思って食べたら驚くとの答えでした。
 私とチアキさんはその先の加工を考えているからこそだけど、これだけで甘味だと思うなら、確かに違うと思うのかもしれないね。ただ、匙二杯は甘すぎます。なんだろう、ジェリービーンズというか、甘いキャンディに砂糖が塗してあるお菓子みたいな甘さで、私はちょっと苦手です。

 焙煎は不要と分かったところで、今度はモフッコの生育をどうするかの相談だ。

「う~ん、この素材を貰えることが分かっている相手を育てないというのは勿体ないよな」
「じゃが、この村に置いておけば、奴らは心身疲労で早死にする可能性が高いと思うぞ」

 三人でウーンウーンと悩む。
 カッツェ村にその方法を伝えるのもいいかもしれないけど、今時点であれだけ調子に乗っている奴らにこれ以上の情報を与えたくないというのも大きな原因だ。それに彼らは家畜化されたモフッコを増やしているけど、野生化しているモフッコの討伐が出来る様な人は少なく、当時のミケさん達だって囮の役割で、多少戦える人達がその隙に討伐する方法を取っていたというから、無理だと思う。
 お茶のお替りを持ってきてくれたミケさんが、ずっと同じことで結論が出ていない私たちを見て一言。

「エルフの皆様にご依頼することはどうでしょうか……。ああ、いえ、私如きがそのような事に口出しをするなど、申し訳ありません」
「ミケ! そうだよ! なんでそれを考えなかったんだろう。奴らなら美味い物に目がないし、手先も器用で毛織物だってお手の物だろう。大森林だからモフッコも生活しやすいだろうし、気配を抑えればカカオだって採集は可能だ。ミケ、お手柄だぞ。それから、私如きなどと自分を貶める言葉は駄目だぞ。君は俺たちの家族なんだ。それは何度だって言っているだろう? 俺は俺の家族を貶める者は許さんよ、例え本人でもな」

 大興奮のチアキさん、エルフって事は伝説の白金ランクのあの人と連絡を取り合うのかな? ミケさんが自分に自信を持てないのは、あの家族に虐げられてきたからだろう。こんなに素敵なミケさんなのに、本当に許すまじ。
 チアキさんはミケさんを優しく撫でて、ちょっとギルドに行ってくると走って出て行ってしまった。

「は~、忙しないのう」
「チアキさんなら、遠くにいる人と直接連絡が出来る魔道具くらい作ってそうですけど、作ってないんですね」

 チアキさんがギルドに行ったという事は、速達便にしてお手紙を送っているのだろう。グロンディール大陸で冒険者ギルドを創設した相方、ハイエルフのイヴォンネさん。色んな魔道具を作った二人だし、電話か無線機に近い魔道具くらいはちょちょいのチョイで作ってると思ったのにね。
 そういえば、共和国での人身売買を一掃した時にはイヴォンネさんがベル君のお父さんたちを呼んだんだよね? それって通信魔道具じゃないのかな。その頃にはまだリルベルッティ大陸に冒険者ギルドは無かったはずだし、連絡の取りようがなかったと思うんだけど。

「イヴォンネが呼びかけたのは、彼の者の友であった木竜の一人じゃな。それが友に声をかけてベルの両親を含めた数名でグロンディール大陸に来たのじゃ。
 竜は生涯の友と決めた相手には、意思伝達がいつでもできるように特別な鱗を使って装飾品を贈るんじゃ。それを持っていれば、どこにいてもその竜に連絡が取れるという事じゃな」
「それって、番う相手に渡す物じゃないんですか?」

 特別な鱗って事は逆鱗とかですかね。それが無くなっても大丈夫なのかと心配になるけど、どうなんだろうか。

「番う相手とは離れんのが竜じゃからな。常に側にいるのに連絡道具は不要じゃろう? まあ寿命の関係もあるしな、渡す相手は限られることが多いが、木竜と風竜はハイエルフと友誼を結ぶものは多いぞ。
 ベルの両親はチャーキに渡す気じゃったが、チャーキが嫌がってな。それで側に住むことを願ってここに集落が出来たんじゃ」

 成程、チアキさんも私達ヒト族からすれば長命種だけど、ハイエルフや竜人族に比べれば短命だもんね。どうやって竜を呼んだのかが謎だったけど、そういう理由なら竜と誰かしかその特別な連絡は出来ないって事だね。
 まあ通信道具なんてできれば、きっと世界の進化は進むだろう。それは神様としては求める以上の進化となるって事で、きっと作ってはいけない道具のひとつなんだろうな。魔法陣の考察では作ることは出来そうだもの。チアキさんが考えなかったとは思えない。
 だけど、白雪さんの答えからしても、きっとそういう事なんだと思うので、私も作るのは諦めよう。
  
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