ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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エルフの里

第460話 お休みと緊急連絡

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 エルフの里〖ビリーヤ村〗に来て一週間。

 この村では何曜日に何をするという厳格な決まりはないようで、今日は天気が良いから毛刈りをしようとか、雨の日は家の中でできることをしようとか、臨機応変にやることが多いみたい。
 子供たちも遊びに行くこともあれば、乳しぼりや毛刈りを手伝うこともあり、勉強会も人が集まればやる感じだそうで、ベル君が非常に羨ましそうにしていました。
 私は自由だと言われるとサボってしまいそうだから、最初に予定を決めておきたいんだけど、人それぞれってことでしょう。

 今は私たちが来ているのと、新しい事業が始まったばかりだから皆が忙しくいろんなことをしているけれど、これも慣れてきたら以前のようになるだろうという事。
 聖の日は休みにしようと言われたので、モフッコの森に行くのも、料理教室もお休みで、子供達と本気の川遊びリベンジである。
 最初は手を使って水のかけ合いをしていたはずなのに、水を蹴り上げてかけ合うようになり、そのうち魔法を使ってかけ合うようになった。

「攻撃魔法は禁止だからね」
「壁は良いんだよね」
「ずっとの壁は面白くないから駄目だよ。瞬発力の練習にもなるから水が来た時だけにしよう」

 その場でルールが作られ、修正、追加が行われていく。
 魔法を使うようになれば精霊たちも川滑りを止めてこっちの方が楽しそうだと参加する。水の精霊たちは掴もうと思えば掴むことができるんだけど、彼らがすり抜けようと思えばただの水のように掴めなくなる。
 かけあう水に潜り込んだり、水の壁から顔を出してみたり、直接飛んできて子供にぶつかりに行ったりと自由だ。

「みんな~、そろそろお昼ご飯よ~」
「はぁはぁ、今日はここまでにしよう」
「ぜぇぜぇ、精霊が参加したから勝負の結果はお預けだな」
「はぁはぁ、つ、疲れた」

 水の中で遊んでいたはずなのに、水と汗でびっしょりだった。

『よく飽きないわね~』
『水の子は楽しそうだったわね』
『早くお昼寝しなきゃだめよ~』

 水の精霊たちは大満足のふくふく顔、光や風の精霊たちは呆れ顔? オカン気質だから心配してくれているのかもですが。
 全身ずぶ濡れでも【ドライ】をお互いにかけあえばすぐに乾燥するのだから便利だよね。
 広場に戻れば美味しい匂いが充満してて、私達のお腹が空腹を訴えてくる。

「お腹空いたね~」
「ペコペコだよ~」

 火の精霊は相変わらず鉄板の上でお気に入りのお肉や野菜に頬擦りしているし、本当に精霊って自由だな。
 私とベル君も列に並んで食べられる量だけお皿に入れてもらう。

「ヴィオ、それだけで足りるのか? 肉はもう一個貰った方がよくないか?」
「スープもあるし大丈夫だよ。足りなかったらおかわりするし、残す方が嫌だから」

 この村に来て安心した一つは、翼人もエルフも子供は私と同じくらいの食事量だった事だ。ベル君は12歳とはいえ体の大きさは私と変わらない。だけど食べる量は大人と同じくらいなんだから、そっちの方が驚きだ。
 今まで一緒にいた人が全員大食感だったから、私が少食なのかと心配していたけれど、ミケさんに続いてここの子供たちは同じくらいで安心した。
 足りなかったらおかわりをする、という言葉に安心したベル君はそれ以上に勧めてこなかったけど、多分これで充分です。

 お昼ご飯を食べれば、子供たちは自分の家に戻ってお昼寝時間。ハンモックに包まれて即落ちするのも慣れたもの。
 眠りに落ちてすぐだったのか、それとも目覚める直前だったのか、誰かがチアキさんを呼んでいる声が聞こえた気がして薄っすら目を開ける。

(チャーキ様にミドウ村からお手紙が届いています)
(珍しいな、なんだろう)
(態々連絡を寄越すくらいじゃ、急ぎなんじゃろう? この時間じゃったら戻るのもすぐじゃし、はよう手紙を読んだ方がええじゃろう)

 手紙とか、ミドウ村とか聞こえた気がするけど、まだぼんやりしている頭では繋がらない。何かあれば起こしてくれるだろうと思って目を閉じた。



「おはようございます」
「よく眠れたか?」

 いつかと同じやり取りだけど、違うのはチアキさんも白雪さんも冒険者装備だった事だ。

「あれ、チャーキ様も白雪様もどうしたんですか? 今日は休みって言ってませんでした?」

 ベル君の質問に、私も同じことを考えていたので答えを待つことにしたところに、タニアさんが戻ってきた。

「チャーキ様、ベルは流石に駄目ですって。私が一緒に残ります」
「え? 何? 俺は駄目ってどういうこと?」

 何が何だか分からない間に、ベル君は何かが駄目になったらしい。
 ちょっと涙目になっているベル君だけど、話の展開が分からないから泣きそうになっても仕方がない気がするよ。

「あー、起き抜けにすまんな。さっき村から連絡があってな、村で何かがあったという訳ではないから安心しろ」

 あ、全くその心配はしていなかったですよ。あのほとんど竜人族しかいない村で何かが起きるって相当な事だもんね。

「連絡の内容は特級ダンジョンが現れたって連絡だ」
「ダンジョンが」
「現れた?」

 思わず私とベル君が被ってしまったけど、ダンジョンって急に生えるものなんですか? いや、そういえば遺跡以外はある日突然って言ってた気がするな。でも特級って分かるのは誰かが入ったって事だよね?

「場所はカッツェ村のすぐ南、南部との境にある川近辺だな。行商の連中が見つけたらしい。
 南の冒険者が確認に入ったが、広さとフィールドから特級の可能性が高いと連絡があったんだ。行商が使う橋の近くだしな、通行の邪魔にもなるからどうにかしてほしいと連絡があったんだ」

 突然現れ、突然消える事もある特級ダンジョンだけど、ダンジョンコアを壊せばすぐに消えるのはもう知られている事でもあるから、チアキさんに依頼が来たみたい。

「あ、じゃあベル君が駄目っていうのは……」
「お、俺、ダンジョン行けないの?」
「ベル、特級ダンジョンは魔獣のレベルが不明なのよ。どれくらい強いのかは分からないけど、弱いって事は無いわ。だからまだ自分を守る盾に慣れていないベルは連れて行けないの」

 お留守番をすると言っていたタニアさんがベル君と目線を合わせて説明しているけど、ベル君は既に涙目です。

「でもっ、ヴィオは?」
「ヴィオは索敵が上手いからな、もし危険そうだったらルイスに乗せて帰らせるつもりだぞ」

 おぉ、私は参加予定だったんですね。初めての特級ダンジョンに興味はあったけど、我儘は言わないでおこうと思ったのに、ベル君には申し訳ないけど参加できるのは嬉しい。
 盾の練習に関しては、午前の水遊びの時にも不十分であることを実感していたようで、泣くのをなんとか堪えながら頷いている。

「今回の特級は無理だが、最初に約束していたダンジョンに行くのは変わらないから、そっちを楽しみにしておきなさい。それまでの間に子供達と一緒に盾の練習をしておくことと、白雪と一緒に料理の勉強をすればいい。最近は家でも練習していただろう?」

 ダルスさんにそう諭されて、涙を拭って頷いたベル君。

「うん、俺、まだ集中してないと盾が崩れちゃうから、もっと上手くなるように頑張る。
 一緒に行けないのは悔しいけど、でも、次は一緒に行けるようにするから……。
 ヴィオ、どんな場所だったか後で教えてくれよな」
「うん、ちゃんと魔物図鑑に書いてくるね」

 気持ちの切り替えがちゃんとできるベル君は偉い。
 もっと我儘を言っても、泣きじゃくってもいいはずなのに凄いよね。



「ヴィオ様と一緒に過ごすようになって、急成長しているんですよ。今までは子供が一人だけでしたから我慢をする必要もなかったですが、今はヴィオ様がいますからね。
 ベルも男ですから格好をつけたいんでしょう。この村で少し年上の子供や年下の子供と過ごすことで、さらに成長すると思いますよ。やはり同年代が近くにいるというのは大切なんですね」

 村から出たところでルイスさんからそんな事を言われた。
 確かに周りに大人しかいないと、何でもすぐに叶えてもらえるし、守ってもらえるから気付かない事が多いかもしれない。
 私は気付いた時に大人の記憶があったから色々制御して行動しているけど、子供のままだったらもっと無茶していたかもしれないしね。
 ん? 何か今でも大概やらかしているとか聞こえた気がするけど空耳かな。私のやらかしの半分はお母さんでできています。頭痛薬の半分が優しさでできているのと同じです、ハイ。
 あ、そういえばお母さんはこれも見てるんだったね。
 ……うん、多分そうだよねって納得していると思うから大丈夫です。
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