ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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スワンプの森ダンジョン

第477話 スワンプの森 その3

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 一階層で採集できる素材は無く、一日目は階層を満遍なく見て回るだけで終わりとなった。
 夕食の後、いつものようにお風呂を準備し、チアキさんが野営地を作った時には、マムさんと翼人族の皆さんが固まったけど、まあ想定内だ。

「快適だとは聞いていたが、聞くのと実際に体験するのでは全く違うな」
「これが今どきの冒険者って事じゃないよな?」
「当たり前でしょ! 僕だってそれなりに長く旅をしてたけど、こんなことするのチャーキとヴィオくらいだから!」

 マムさんは静かに頷き、アリオールさんは外の世界に慄き、イブさんがこんなのは普通じゃないからと訂正する。

「便利なのは良いことだ。魔力はあるしな」
「私の周りに普通の冒険者という人がいないので、お答えは差し控えさせていただきます」

 そもそも〖グロンディール大陸〗に住んだことがある人が私、チアキさん、イブさん、白雪さんしかいないのだ。その四人が一般的な冒険者をしていたことが無いんだから常識が分かるはずがない。
 快適で、他人に迷惑をかけなければいいんじゃないですか? 


 さて、気を取り直して二日目の冒険をはじめよう。
 チームは昨日と同じで変更は無し。
 二階からはそれなりに敵も増える筈だけど、素材に関しては謎のまま。
 だけど素材の見分けはタニアさんたちも出来るようになっているので大丈夫だろう。

 左右で分かれはするものの、ローリングで満遍なく見回るのは同じだ。
 一階層よりも湿地帯に生えている草が長くなり、普通に歩こうと思えば湿地に足が沈み、膝まで草が来るくらいにはなっている。チアキさんでそれだから、私だともっと埋まることになる。
 ということで、地に足を着けて歩くのはチアキさんとマムさんの役割となり、私と白雪さんはフワフワ浮いて歩いています。
 マムさんはこれまでも歩いて釣りスポットを探していたし、ここの水溜りくらいは気にならないとの事。白雪さんが浮いているのは汚れそうで嫌だからとの事です。

 現在ヒトの姿に翼だけを出して浮いているアリオールさんと、完全に雀の姿になってマムさんの肩にとまっているリザンドロさん。

「そういえば翼人族の皆さんも、鳥から人になる時にお着替えを瞬時にできるんですね」
「ああ、魔道具をイブが作ってくれたのだ」
「俺とイブの二人で考えた魔道具だったからな」
「チュン チュチュン」

 雀のリザンドロさんが誇らしげに片足を上げて、見せてくれたのは足輪。
 鳥の耳ってどこにあるんだろうと思っていたけど、成程足輪だったら問題ないのか。ブーツだと足首に当たるのではと思ったけど、ヒトになった状態だと、ピッタリ吸い付く感じの足輪になって邪魔にならないんだって。
 まあ、鳥のサイズと人のサイズ、全く違うのに使えるのであれば、サイズの自動調整もできるって事だろうし、便利なモノを作っていますね。
 というか、それだけの機能を入れる為には、相当ややこしい魔法陣が使われているだろうこともわかる。
 うん、着替えが楽そうだと思うけれど、私は色々お洋服もあるし、自分で着替えるのを楽しむことにしよう。

 魔道具の話や、翼人族の歴史の話、ハイエルフと一緒に住むようになった理由など、いろんな話をしながら二階層の散策を続けている。

「んげっ」「んげっ」「んげっ」

 素材に旨みのない虫ゾーンを抜ければ、乾燥して歩きやすい場所と、小さな池が点々とあるフィールドに変化してきた。
 その辺りで酔っ払いがえずいているような声が聞こえ始める。

「あの声はグラスモストードだ。近づけば攻撃してくるが、基本的にはああして声を出して場所を知らせてくるから近寄らなければ良い」
「うう、あれがここにもおるのか。我はあの気持ち悪いのは嫌じゃ」

 マムさんの説明に、非常に分かりやすく嫌がっているのは白雪さんだ。結構どんな相手も平気だと思っていたけれど、トードって蛙ですよね? 蛙は嫌いですか?

「蛙肉って鶏肉に似て美味しいって言いますよね」
「「えっ!?」」
「ピュッ」
「ヴィ、ヴィオ、其方、あの気持ち悪いのを食う気か?」

 チアキさん、アリオールさんに、リザンドロさんまで驚かんでも。
 鳥になると発語は出来ないけれど、こっちのお喋りは聞こえているからね。
 鳥でも驚いた時の表情って分かりやすいんだなと初めて知りました。

「試したことはないがそうなのか?」
「私が食べたことのあるお肉は美味しかった記憶ですよ」
「ふむ、今回は素材の確認だしな。試してみるか」

 マムさんだけが賛成してくれているけれど、他の面々は驚愕の表情のままですよ。この世界で食べたことは無いけれど、私の前世では食べたことがあるっぽいんだよね。
 白雪さんは姿もできれば見たくないという事だったので、少し離れたところで待機。チアキさんが見えないように何かしてくれるだろう。

「チュン」
「ヴィオ、リズが追い立てる役をするだと」
「あ、そうなんですね。リザンドロさんよろしくお願いします」
「チュン」

 鳥語は私には分からないけど、翼人同士なら分かるんですね。マムさんの肩で寛いでいた雀が何となく胸を張ってピョイと飛び立ち、草むらに急降下。落ちる寸前にまた急上昇をしながら背の高い草を揺らしていく。

「んげげ」「んげげげ」

 草むらから紫色の長い舌がミョーンと伸びるのが見えて、ちょっと気持ちが悪いなと思ったけれど、リザンドロさんの飛ぶスピードが速すぎて、全く攻撃が届いていない。
 追いやられるように出てきた蛙は……。

「うっわ、これは確かにちょっと気持ち悪いかも」
「む、久しぶりに見たが、こんな姿だっただろうか」

 出てきた蛙と思われる相手は、形容しがたい姿をしていた。
 何だろう、ぐちゃっと潰れた土団子が放置され過ぎて青カビに侵食されて、別のナニカになっているみたいな感じ。
 50センチ程の大きさのソレが、ノソノソと草むらから這い出てきて私達を目視した途端、敵と判断したのだろう。さっき見えた紫色の舌を伸ばして攻撃してきた。

「【エアカッター】」

 即座に舌を切り落とし、他の攻撃があるかと待機してみたけれど、身体が重いのか飛ぶことはせず、身体をブルブルと振るわせるだけだった。どうやら身体を震わせて毒を周囲にまき散らすらしいので、マムさんが凍らせて仕留めてくれた。
 数匹同じ蛙が出てきたので、舌攻撃が来る前にマムさんと順番に仕留めて肉を回収していく。ドロップアイテムのお肉は、大きな葉っぱに包まれた肉だから、味とかは全く分からない。

 もう終わったと思ったところでリザンドロさんのチュンチュンと鳴く声が。
 振り返れば草むらが盛り上がって、まるで草の津波が起きているようだった。

「えっ!? いったい何が?」
「ピュイ~」

 草は盛り上がるだけではなく、小さなリザンドロさんを飲み込もうとその葉を伸ばしている。下手な攻撃をすればリザンドロさんに当たりそうだと躊躇していたら、大きな影が私達の横を凄いスピードで駆け抜け、小さな雀を両足で抱えて、グィンと空に舞い上がった。

「アリオールか」
「か、格好良い……」

 鷲の本気の飛翔速度って凄いね。全く目で追えなかったよ。
 草の波は獲物がいなくなった事でその山を小さく戻し、その事態を起こしたであろう相手がモッソリと姿を見せた。

「我は見ない我は見ない我は見ないのじゃ」
「ああ、壁を作っておこうな【アースウォール】ヴィオ、頼んだぞ」
「あ~、はぁい」

 チアキさんからお願いされたけど、私もこれはかなり嫌だなぁと目の前の巨大蛙を見る。
 大きさはさっきのモストードと同じくらいだけど、見た目が酷い。
 長い草が前髪のように垂れ下がり、それが姿を半分以上隠している。ほんの少し七三分けのようになっているところから、じっとりした蛙の目が見えているのが更に気持ち悪さを倍増させている。
 なんだろう、ホラー漫画のストーカーオタクを彷彿させる、気持ち悪いと怖いのダブルコンボ。

「来るぞ!」

 あまりの気持ち悪さに固まっていたら、蛙が身体に纏っている草をブワリと伸ばして攻撃してきた。ああ、さっきの草もこの感じだったんだね。最高に気持ちが悪いので、もう終わらせてもいいかな。

「【ファイアウォール】からの【フレイムランス】」

 バレットにしたかったけど、肉は欲しい。ドロップアイテムまで吹き飛ばすわけにはいかないので、ランスにしておきました。周辺に飛び出してきた草ごと燃やし、本体を炎の槍で突き刺せば、キラキラしながら消えていった。

 お肉が美味しければいいんだけど、その場合でも次からは見ないで魔法かな。白雪さんがあまりにも可愛そうだもんね。
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