ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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山籠もり

第487話 拠点に到着

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 チアキさんから忍者に誘われて一か月。
 手裏剣も色々使ってみた結果、四つの三日月がくっついたみたいな形のものと、十字型のものの二種類に決まりました。
 棒状のものはイマイチだったんだよね。
 あれに殺傷力は乗らないし、それなら弓矢を練習した方が早そうだという事になったんだ。

「俺も行きたかった」
「ベル君がいたら楽しそうだけど、修行だからしょうがないね。また帰ってきたら一緒にダンジョン行こうね」

 夏の半ば、私とチアキさんは村の人達から見送りを受けている。
 チアキさんの提案で、山籠もりをしながら修行をする事になったのだ。

『忍者と言えば山籠もりだろう?』

 知らんがなと言いたいところだけれど、ダンジョンと森、リポップ時間の有無と、安全地帯の有無、この二つ以外は同じだと思い、修行に参加することにしたのだ。
 ベル君は両親からの許可が出ずに不参加。
 私の修行がメインだから、白雪さんも今回はお留守番だ。ダンジョンでも見守り隊ではあったけど、いてくれるだけで安心感はあったからね。
 そして多分この感じ、修行中にチアキさんは見えないところで気配を消すつもりだと思う。

 ボッチで山。
 8歳の幼女にやらせることかと思うけど、あと半年もすれば9歳だし、10歳になったらあっちの大陸に戻ることになっているからね。
 この一年半でしっかりチアキさんから受け取れるものは受け取らないとね。

 一応山籠もりは半年を予定している。
 年明けに戻れば、ダンジョンに行くことはベル君ママからも許可は貰っているのだ。今のところ、ベル君がダンジョンに行くのは年に二回までって事だね。

 皆に手を振って村を出発する。
 今回は身体能力の底上げも目的のひとつなので、ドラ移動はしない。最初から歩いて山を目指すのだ。
 いや、ちょっと違うな。ゆっくり歩くなんてことはなく、最初から走っています。
 チアキさんは軽いランニングだけど、ついて行く私は結構頑張ってます。
 ギルマスたちとの訓練の時には、走っている時に喋る体力はなかったけど、少しならいけるようになりました。

「ヴィオがこの村に来て一年だな」
「もう、そんなに、経ったんですね」

 お父さんが亡くなって一年でもある。
 誘拐されて、森で戦って、ベル君たちの治療をして(記憶はない)、ドラゴンに乗ってこの島に来た。
 最初は泣いて過ごしていたし、消えたいとも思っていた。
 だけど、お父さんと母さんが見守ってくれている事を知り、頑張ろうと思った。
 チアキさんが元勇者で、しかも元日本人で、白雪さんが聖獣で、ベル君たちがドラゴンな事を知って驚いた。
 そしてチアキさんが私に修行をしてくれることになった。
 伝説のエルフは思ったより普通の人で、獣人はモフモフ多めだった。
 お兄ちゃんや、ドゥーア先生、フィルさんとは会えてないけれど、連絡はとることが出来ている。
 私はまだ生きていて、修行をしながらダンジョンにも行き、日々を楽しんでいる。

「いいんだよ。生きている奴は頑張って日々を生きればいい。
 死んでしまった人の事を忘れる事なんて出来ないし、忘れる必要もない。
 彼らの為に生きろとは言わんが、彼らはヴィオが生きる事を望んでいるだろうと思う。そして悲しい顔して生きているよりは、楽しんで生きてくれてた方が嬉しいんじゃないかと思うぞ」

 夢の中でお父さんに会った事は、白雪さんとチアキさんには伝えている。驚いていたけど、白雪さんからは多分本当にお父さんが心配して夢枕に立ってくれたんだろうって言ってた。
 今でも時々思い出しては切なくなるし、こんなに楽しんでいいのかなって思う。
 ここにお父さんがいたらいいのにと思うし、これを母さんに見せたら喜んでくれるかなって考える。
 うん、でもそれで良いんだよね。
 できたら夢で良いからまた会いたいって思うけど、あれだってきっと凄く特別な事だったと思うから、だから見てくれていると思って頑張ろう。


 ミドウ村から走る事三十分、村から見えていた山に入る。
 流石に山の中では走らないと思ったのに、少し速度を落としたくらいで変わりゃしない。

「ちあき、さん、まさか、このまま、はしり、ます?」
「おお? 無理か?」

 無理かと言われるとそんなことないと言いたくなる自分がいる。

「この先に今日の拠点にしようと思う開けた場所がある。そこまでは行けるか?」
「だい、じょぶ、です」

 村から山までも、街道なんてものは無かった。
 飛べる人が殆どのこっち側には道を作る必要がないのだから当たり前だ。
 だけど山に入るまでは魔獣らしい魔獣は現れなかった。
 それもそのはず、山に沢山の食べ物があるんだから、態々少ない場所に行く理由がないという事だ。
 つまり、何が言いたいかというと、山に入ってからも走っているんだけど、魔獣も出てきているって事。

 手裏剣は現在使っていない。
 それは拠点に到着して以降使うように言われているから、今は魔法で対応中だ。
 サマニア村の裏山は危険な山だけど、赤いリボンの場所まではヒトの手が入っている。
 ダムに続く道のように舗装されていることはなかったけれど、今思えば下草が短くなっていたし、木々も密集はしていなかった。
 ヒュージボアはパーティーで狩ると言っていたように、数名が一緒に入ることもできる場所があった。きっと木々が密集しているところではなく、そういうところを通るように整備されていたんだろう。

 だけどここは全く違う。ヒトの手なんて一切入っていない自然の山。地面はボコボコしているし、草も伸び放題、枝も垂れ下がっているから走るのに邪魔でしょうがない。
 それらをひょいひょいと避けながら進んでいくチアキさんを見失わないように、そして足元から這い出てくるラット系の魔獣や、木の上から大口を開けて狙ってくる蛇、木の上から飛び掛かってくる猿などを打ち捨てながら追いかける。
【索敵】があるから、例え見失ってもチアキさんの気配を辿ればいいと思うでしょう? 
 ノンノン、チアキさんも使えるこの【索敵】なので、この人は時々気配隠蔽を使って消えるんですよ。集中すれば薄っすら見えるけど、現状そんなことしていたら危険すぎる。

 素材を回収していれば見失うことになる。残念だけど蛇以外は捨て置いている。
 蛇は魔法で倒して落ちてくるところを掴んでそのまま腰のポシェットに突っ込んでいるので何とか拾えているだけだけど。

「着いたぞ~。凄いな、途中で音を上げるかと思いきや、大したもんだ」
「はぁっはぁ、ぜぇぜぇ……」

 捨て置く気満々ですか? ってくらいに見えていたんですけど、無理だって言ったら止まってくれたのだろうか。まあ目的地に到着出来たから良いけどさ。
 流石に返事をする元気もないし、結界鎧と身体強化をしているにもかかわらず足が鉛のように重い。

「ここはダンジョンのような絶対的な安全地帯じゃないからな、体力を使い果たすほどに頑張り過ぎると死ぬぞ~。
 ヴィオは討伐に関して心配することは殆ど無いが、無理だと言えるようになるのが目標だな」
「…………善処、します」

 くそう、そういう事かよ。
 お父さんやお兄ちゃんは、いつだって私が疲れる前に休憩を入れてくれていたんだと分かる。
 魔道具ダンジョンの時、私を攫う為とお兄ちゃん達のマジックバッグを奪う為、破落戸に絡まれそうになった事があった。
 あの時、魔法を使い過ぎて魔力切れになって眠ってしまっている間にすべては終わっていたけれど、お父さんは魔力切れになることを狙っていたのだろうと今では分かる。
 お兄ちゃんたちはとても心配していたけれど、お父さんは眠っている間に終わらせることが出来て良かったと言ってたしね。

 だってあの時以外で、私が冒険中に魔力切れギリギリになるなんてことはなかったもの。使い過ぎている時には早めに休憩をしていた事を思えば、お父さんは私の魔力残量を把握していたんだと思う。
 体力もギリギリを攻めて訓練していた事を思うと、お父さんってば私のステータスバーが見えてたんじゃないかと思っちゃうよね。
 流石お父さんだよ。
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