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エフタの谷
第496話 タニアさんのお家訪問
しおりを挟む長さんとのご挨拶が終われば、タニアさんのお家に招待してもらったんだ。
外は岩そのものだったけど、中は部屋ごとに絨毯が敷いてあって、とってもかわいいお家だった。
「この部屋はファニアのお家が素敵だったから真似して板張りにしたの。ベッドで眠るのが気持ちいいって知ってからは、他の子達も真似して板張りのお部屋を作っているのよ」
寝室だけはフローリングになっていて、大きなベッドが置いてあった。
私がお借りしている客室は畳のお部屋だしお布団なんだけど、チアキさん達の寝室はベッドなんだって。まあベッドの方が起きる時とか便利だもんね。
それまではドラ化していれば柔らかい寝床である必要もなかったという事だけど、人化したらやっぱり快適な寝具が良いという事なんだろうね。
ダンジョンでのハンモック風呂に感激していたタニアさんは、あのダンジョンを終えてから自分で野生のギガントボアを狩ってミドウ村に持って来たもんね。
その後、この集落の女性風呂として開放され、噂を聞いた男性陣も興味津々。バレンさんがもう一つハンモック風呂を作り、現在は男女別で順番にお風呂に入れるように解放されているとの事。
「あのお風呂は確かにすごく気持ちが良いから分かりますけど、あのギガントボアを単独で倒せるって竜人族の人達って凄いですね」
「大きいだけだもの。首だって狙いやすくて良いわ。小さい相手に傷を最小でって言われる方が大変よ」
成程ですね。人化した状態ではなくドラのままだとギガントボアは大変ではないという事ですね。
皮の加工だけして欲しいという事で、肉などは好きにしていいなんて大盤振る舞いだったから、村で焼肉パーティーを楽しんだもんね。
「料理の噂を聞いて戻ってきた子も結構いるんだけど、今回このお風呂でしょう? 多分また戻ってくる子が増えるのよね。空き家になってた場所がほぼ埋まってきちゃったのよね」
「みんな家出しちゃってたんですか?」
「ぶはっ、家出って……。いい大人になったら皆自分の住みやすい場所を探しに旅をするんだよ。家出……」
そんなに笑わなくてもよくないですか? イブさんって結構笑いの沸点が低いから、肩を震わせながらまだ笑ってる。
「そうね、五十を超えると集落からいなくなるし、百を超えるとあっちの大陸に行く子が増えるわ。
そのまま向こうで旅を続けて帰ってこない子もいるけど、二百年もすれば飽きて戻ってくる子が殆どかな」
年単位が桁違いなんですよ。
人間五十年なんて、もう終の棲家を決めて後はどうしようかなになっているだろう頃だし、百まで生きているヒト族はいないだろう。
通常エルフだと二百年はもう壮年だし、たしかドゥーア先生は130歳くらいだった筈。
流石千年生きる種族は違いますね。
そんなヒト達が集落に戻ってくるというのはかなり珍しい事で、余程美味しい食事に飢えていたという事だろう。
千年生きるんだから、もう少しそこを鍛えたいと思ったヒトがいても良いと思うんだけど、彼らが料理人を目指せば、それはそれは凄い料理人になりそうだよね。
『私のようになりたければ九百年は修行するように!』とか言われたら誰も太刀打ちできんやつ。
「最近はダンジョンの素材を教えたから、皆あちこちのダンジョンに潜ってるわ。一応ラスボスまで必ず倒してから戻るように伝えているから、北側のダンジョンは数百年スタンピードの心配をしないで良いと思うわ」
「それは助かるな。うちの里の者だけで見て回るのは広すぎるし、北側を竜人族に頼めるのであれば、翼人族には里から南を頼むことができる。彼らは君たち程のスピードで潜れるわけではないし、ボス戦を確実にするとなれば、それなりの人数で向かわないと駄目だからね」
「そうだな、豊作ダンジョンがどれくらいあるのかも再度確認しておきたいし、その辺りも調査が出来るのであればタニアたちに任せてもいいか?」
「ええ、もちろ――『グルルルルルルギュルル』――ん?」
大人たちが真面目な話を始めたので、その場から動き回る訳にもいかず、室内を見回していたらお腹が鳴った。
最近は少し大人しくなっていた筈の私の空腹の虫なのに、久しぶりに盛大に鳴きやがりました。
「あら、そういえばもうお昼を過ぎてたわね。チャーキ達の昼食はまだ?」
「ああ、タニアに連絡する前にどうするかと言ってたのを忘れてたな」
「そういば僕もお腹が空いてきた。今から作るんだと結構時間がかかりそうじゃない? 何か残ってなかったっけ」
恥ずかしいと思う暇もない感じで話が進む。
イブさんが自分のマジックバッグを探っているけれど、私の鞄に作り置きしていたものはこの数日で食べ尽くされているので残っていませんよ。
イブさんも、チアキさんも残っていなかったらしく、タニアさんも特に作り置きをする事は無いとの事。作るしかなさそうですよ。
「空腹を実感すると急に腹が減ってくるな」
「ですね。おかずを色々作るのは面倒なので豚丼でもいいですか?」
「ドンブリって米の上におかずが乗るやつだよね。僕あれ好き。豚丼は食べたことないけど食べてみたい。何を準備する?」
海鮮丼と牛丼は作った事があるけど、気に入ってくれてたもんね。
オークナイトのお肉は沢山あるので、お米を炊いて欲しいとお願いしておく。
「あ、ヴィオちゃん。もしよかったらそのブタドンもうちの人達に教えてあげてもいいかしら?」
準備を始めたところでタニアさんからお願いされる。
まあ別に問題ないけど、エルフの里みたいに共用キッチンがあるのかな?
『―・・―・―・――・』
窓から顔を出したタニアさんが言葉ではない何かを口ずさんでいる。
『あれはドラゴン同士での会話ね。鳥の子達も種族だけで通じる言葉を使うのと同じよ』
『お料理教室をするから集まれって言ってるわ』
精霊には他種族言語も理解できるんですか? 便利ですね。
タニアさんに案内されたのは、広場とは反対側にある広い空間だった。家が周辺にあるため風が吹き込んでくることもなく、かといって天井が高いので窮屈な感じでもない。
周辺の家は岩と土で出来ているから、火が燃え移る心配もないし、屋根の方はしっかり空いているから一酸化炭素中毒の心配もしなくて大丈夫だろう。
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