ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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エフタの谷

第497話 お料理教室

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 タニアさんに案内された広場にチアキさんがキッチン台を準備してくれました。折角だからスープも作ろうという事で、火台は三台お願いしましたよ。

「この場所は子供達の訓練場になることもあるんだけど、最近は大勢に料理を教える時に使ってるわ。竈なんかは用意していないけど、チャーキ達には不要でしょう?」
「成程な、じゃあここに準備して良いって事だよな」

 大きなテーブルも作業台として準備してもらったので、必要な道具と野菜を並べていく。

「イブさんはキャベチをスライサーで細切りにしてもらっていいですか?」
「わかった」

 千切りという言葉は通じなかったので、細かく切ってほしい時は細切りと指示をしている。あの千切りというのは何を千に切ることを想定していたんだろうね。
 タニアさんも一緒にいた時に作っていたスープはレシピとして伝えているので、この集落の人達も作れるようになっているとの事。

「お料理教室ってこっちで良かったかしら?」
「おぉ、もしかしてこの子達はタニアが言っていた子供達か?」
「間に合ったか? おお、今からか。よろしく頼む」

 ワラワラと集まってきたのは年齢不詳な美丈夫達。
 ベル君ママもタニアさんも髪色は小麦色なんだけど、集まったヒトたちは青、茶、緑と髪色は色々だった。
 瞳の色は緑色という共通だし、ドラ化した鱗は緑なんだけど、髪色はバラバラなんだね。

 女性よりも男性の方が多いのはちょっと想定外だけど、エルフの里でもマムさんを筆頭に、翼人族の人達は男性しか料理には参加していなかった事を思い出す。
 ところで子達というのはチアキさんも含まれているのでしょうか。
 183歳児でも子供扱いとなれば、私なんぞ赤ちゃんではなかろうか。バブー。


 集まったヒト達は新レシピを食べてから料理に目覚めたヒト達だそうです。
 食べるのは好きだけど、作るのは面倒だという人も一定数はいるし、魔素が多ければ料理は不要という強者も勿論いらっしゃいます。それでいいと思います。

 ヤル気満々な大人たちしかいないので、説明が楽ですよ。
 ハズレ袋各種も皆さん其々豊作ダンジョンに行って収穫してきているので、いちいち説明しないでも良いのがありがたい。
 しかも、チアキさんが醤油、米、豆板醤などと日本での呼び名を伝えているので『ハズレ袋の黒』とか言わないで良いのが非常に楽なのだ。

 シロネギをフォークで裂いてから五センチほどにカットして大量の白髪ねぎを作っていれば、お姉さんドラゴンがドラハンドで器用にネギを裂いている。
 その爪、まな板までサクっと切れません? ああ、調整してるから大丈夫なんですね。

 醤油、お酒、ハチミツを混ぜてタレを作っておく。
 あ、そういえばお酒がもうなくなるんだった。

「タニアさん、ここの集落ってお店はありますか?」
「お店? 特にお店は無いけれど、洋服作りが上手な人とか、器用な人はいるわよ」

 おっと、全部同じ様な建物でお店とか分からないと思っていたら、そもそも店がありませんでした。
 そういえばエルフの里も工房は無かったし、お肉も野菜も皆で収穫、皆で食べるって感じでしたね。

「ヴィオ、何か足りないものがあったのか?」
「あ、まだ足りないという事は無いんですけど、料理に使っているお酒がもう少なくなってきたので買わないとなって。ミドウ村のお酒は地元で使ってたのと少し味が違ったんですけど、お酒ってどうやって作ってるんですか? お酒もダンジョン産?」
「酒が無ければ持ってくるわよ~。どれくらい必要? 二樽で足りそう?」

 今までに酒屋さんというのは見たことが無く、ミドウ村では雑貨屋さんで売っていた。樽売りもあったけど瓶詰めもあったので、私は瓶で買っていた。
 お料理教室に参加していたお姉さんがちょっと待っててとダッシュでどこかへ行ってしまったけれど、今すぐなくなる訳じゃなかったんだけどな。

「酒か……、店で売っていたと思うが、ダンジョンで酒を見たことは無いな」
「ダンジョン産? まあサケノモトはダンジョンでも見つかるけど、外の方が多いんじゃない? この辺って生えてないんだっけ?」
「サケノモトね~。生えるんだけど風が強いからこの近辺では直ぐに折れちゃうから無いわね。もう少し南に行けば群生地があるわよ」

 サケノモト? 初めて聞く単語だけど、パンダ印の味〇素と同じアクセントだから、何か振りかける素材みたいに感じてしまうんですが、酒という単語があるというならば酒を作るためのナニカなのだろう。
 そういえば村でもお酒の話を聞いた時、種族によって好む酒が違うという話を聞いたね。どんな風に作っているのか、これは企業秘密とかなのかな?

「なんだ、美食の女神は酒の作り方は知らぬのだな」
「そりゃ酒と食の神は違うだろうさ。それにまだこんな小さな子供じゃ酒は流石に飲まんだろうよ。
 飲むのではなく料理に使うというのであれば、俺が酒作りを教えてやろう」
「えっ、いいんですか?」
「はっはっは、遠慮するな。これだけ美味い飯を教えてくれているのだ。酒だけだと礼にもならんが喜んでもらえるなら嬉しいぞ」

 髭ダンディが優しく頭を撫でながら、酒作りを教えてくれると言ってくれた。
 なんだろうね、竜人族の人って頭を撫でるのが好きなのかな? 長さんもそうだけど、お喋りをする人は皆撫でてくれるんだよね。
 竜人族の人達はドラ化した時にはムキムキというか、ガチガチのドラゴンなんだけど、人化するとムキムキじゃないんだよね。どちらかといえば細マッチョな感じ。
 威圧感も無いんだけど、獣人からすれば竜の気配がビシバシらしく恐怖の対象なんだって。ただの優しい大人達なんだけどね。

〈ねえ、前から思ってたんだけどさ、ヴィオって感覚が鈍くない? 獣人だから竜が怖いと思ってるけどさ、人でも竜人族って気絶する人いるよね〉
〈気配を抑えていない時はそうかもしれんな。だが今は彼らも気配を抑えているだろう? ヴィオは魔力視も得意だし、魔獣の気配は俺より早く気付くぞ?〉
〈いや、それって【索敵】の範囲が広いからってことでしょ? 気配を抑えてても彼らの魔力の多さで中てられる奴らが多いって言ってんの。――って、ああチャーキも鈍感な方だっけ〉

 お姉さんが両肩に大樽を二つ抱えて戻ってきてくれたので、慌ててそれを受け取っている現在。流石ドラゴンと言っていいのか何なのか。
 樽の大きさは何リットル入ってるんだろうね。鏡開きとかで見たことのある樽と言えば分かるかな。あれを見た目可憐なお姉さんが両肩に抱えてるんですよ。
 チアキさん達は何やら話し合いをしつつ、キャベチを山盛り作ってくれているので、それはお任せでいいかな。
 まさかの酒樽は料理教室のお礼だと言われ、お支払いは拒否されてしまったんだけど、豚丼以外もお伝えした方が良いかしらね。とりあえずおながぺっコリーナだから、またあとで相談しましょう。
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