ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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エフタの谷

第499話 お酒の作り方 前半

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 超絶美味しい豚丼を食べたことは覚えている。
 滅茶苦茶美味しくて、夢の中では茶色いお肉プールを泳いでいたくらいだもの。
 夢って便利だよね。リアルで豚丼プールを泳いだら、ギットギトで大変なことになるはずだけど、全くそんなことなかったんだ。
 いや、この世界では結界鎧常備の私だから大丈夫かもしれないけどね。

「タニアさんベッドを占領しちゃってごめんなさい」
「うふふ、良いのよ。それより体調は大丈夫かしら? 私達、普段魔素の事なんて考えてもなかったからうっかり忘れてたの」

 へにょりと八の字眉毛になったタニアさんに謝罪されるけど、謝るのはこちらです。
 気持ちよく眠っていたのは、どうやら魔力過多状態になっていたのも原因だったみたい。
 学び舎で学んだ魔力過多。魔力回復薬を自分の魔力以上に回復させると起きると習った。あとは魔獣のお肉を食べる時も、強すぎる魔獣の場合はある程度魔素を抜いておかないとそうなるぞって習っていた。うっかりスッカリ忘れてたけどね。

『びお魔力がグルグルしてたのよ』
『とっても心配だったわ』
「ごめんね。凄く美味しいお肉だったから、自分の身体が興奮して熱くなってると思ってたの」

 まさか大量に取り込まれた魔素に身体が驚いて魔力暴発寸前になっていたとか、全然気付かなかったです。チアキさんが魔封じの腕輪を着けてくれたから、そっちに余分な魔力が流れ込んだ事で助かったみたい。
 美味しいものを食べて、文字通り昇天するところだったみたいです。恥ずかしすぎる死因。生きてて良かったです。

「あ! でも魔封じの腕輪を着けたままだったら食べれるって事ですよね?」
「はぁ~、普通は怖くてもう食べられないってなるもんだよ? どこまで食いしん坊なのさ」
「あの美味い肉をもう食えなくなるのは辛いよな? 余分な魔素を抜いてから食べれば問題ないさ」

 イブさんには呆れられたけど、あの美味しすぎる肉を食べたらそんな事言えなくなるんだからね?
 チアキさんに魔素抜きをすればいいと言われて、そういえば水生成魔法の時にやっているアレは、元々そのために冒険者は必須の魔法だと聞いていたね。
 あの魔法だったら得意だからね、ナイト以上の肉の時にはやるようにしましょう。

「それで、昨日は途中になっちゃったけど、お酒を作るのはどうする?」

 お肉の魔素問題の話が落ち着いたところでタニアさんから質問された。
 そういえばお酒の作り方を教えてくれるという話だったよね。豚丼に熱くなりすぎて忘れてました。

「教えて欲しいです。自分でも作れるようになったらこれから便利そうだし!」
「俺も興味はあるな。一緒に見てもいいか?」
「ええ勿論よ。どうせならサケノモトを取りに行くところから見た方が良いでしょう? 行きましょう」

 そういえばサケノモトというのは昨日も言ってたよね。生えると言ってたから何かの植物なんだろう。
 どんな植物なんだろうね、あっちの大陸でも同じ作り方なのかな。
 ワクワクしながらタニアさんのお家を出たら、昨日お酒作りを教えてくれると言ってたお兄さんが待っていた。

 どうやら一緒にサケノモトの群生地に連れて行ってくれるとの事。何人かが手を上げてくれたそうだけど、そんな沢山で行ってもしょうがないという事でお兄さん、ブルさんが代表になったんだって。
 折角なのでブルドラゴンに乗せてもらうことにしたんだけど、ルイスドラゴンとはまた違う乗り心地だった。
 なんだろう、外から見た鱗の感じは硬そうだったんだけど、背中の辺りは柔らかくて長いフワフワした毛が生えているから、柔らかい草原に座っているみたい。

 タニアさんにはチアキさんが乗って、イブさんは私の後ろに乗っている。
 よく考えたらタニアさんに三人乗ることはできる(集落に来るときはそうだったし)のに、分乗する必要はあったのだろうか。
 まあ気持ちが良いし、お酒の作り方を教えてくれるという好意を有難く受け取っておこう。

 集落は峡谷にあるから、崖の縁に立てば下からの吹き上げる風が凄い。
 真下を見れば波が打ち付けられて、時々強い波しぶきが風に乗って上がってくる。
 だけど風のドラゴンはそんな風を物ともせずに、崖から飛び降り、そのまま崖の上まで飛び上がる。
 海とは反対側、内地の方へ飛んでいれば、森がポッカリ開けた場所があった。

「カルデラみたいですね」
「カルデラって何?」
「えっと、火山の噴火とかで作られたくぼ地の事ですね。マグマが無くなって凹んだとか、噴火した時に山の上が吹き飛んで出来たとか、そんなやつだったと思います」
「ああ、近いかもしれないな。すぐそこに見えている山があるだろう? あれは火竜人族が多く住んでいる火山だからね。俺は噴火をしたのは見たことが無いけれど、大婆様からは神話時代に噴火した山だと聞いているよ」

 ベニ婆ちゃん以外にも長老はいるんだね。いや、そりゃそうか。
 神話時代ね、山になるサイズのドラゴンや巨大鉱山になるゴーレムに、巨大湖の底にいるかもしれない亀が大暴れしていた時代だと、そんな事があっても不思議じゃなさそうだ。

 私達の目的地はそのカルデラだそうで、黄色い絨毯が敷き詰められたようなそこに下りていく。
 中央は素材が駄目になりそうだから、少し離れた場所に降り立ったんだけど、間近で見たら圧巻の光景だった。

「うわぁ!!! 凄い! 綺麗! こんなの初めて見た!」
「これは凄いな。見渡す限りの向日葵ひまわり畑とは……」

 チアキさんと二人で口を開けっぱなしになるくらい、黄色い絨毯だと思った場所は全部が向日葵だったのだ。テレビとかSNSでも向日葵畑の写真を見たことがあるけれど、田んぼ一枚分とかだった気がする。
 だけどここはどれくらい? 東京ドームで例えたら四個は余裕だと思うよ。

「ひまわり? サケノモトってそんな名前だっけ」
「「え?」」

 イブさんの言葉に思わずチアキさんと言葉が重なる。
 そういえばサケノモトを取りに来たんだよね。それでここに立って、どう考えても向日葵畑を見つめているという事は、これがそうなの?
 向日葵はあっちの大陸でも見たことがあったけど、まさかアレもそういう事?
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