ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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エフタの谷

第500話 お酒の作り方 後半

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「綺麗って思って見たことはなかったけど、確かにこうやって咲いているのを見れば綺麗ね。襲ってくることは無いし安全よ」
「ああ、ここは日当たりも良いし、くぼ地になっているから風に晒されることも少ないからかなり群生しているんだ。他ではここまで纏まって咲くことは無いからな。さて収穫するか」

 腕まくりをしてやる気満々な竜人お二人。
 そうですよね。まあ日本の向日葵だって油を取ったりするわけだし、リスは種を食べる訳だし、他に何の役割があったか知らんけど、愛でるだけではなかったという事だろう。
 ああ、今後向日葵を見つけたら「お酒が作れる」って思いそうな自分が憎い。

 気持ちを取り直して採集作業を見学しよう。
 タニアさんとブルさんは手前の向日葵の茎をムンズと掴み、頭をシャッフルするが如く花を振り回し始めた。
 バラバラと音を鳴らして落ちていく向日葵の種。
 よく見れば花の真ん中は二色になっていて、外側の方が濃い橙色になっている。ブンブン振られて落ちたのは外側の濃い色だけで、中央は黄色い。
 種が取れる頃って花弁が枯れた頃だと思ったけど、違う植生のようだ。

「こんな風に振ればサケノモトが落ちるの。
 既に採っているのもあるから外側のこの部分が詰まっているものを選んでね。内側が白いのはまだ成長中だからそのままにしておいてね」

 タニアさんが何本か別の向日葵を見せてくれた。
 中央が黄色くて、外側が橙色なのは収穫期
 中央が白くて、外側が濃い黄色なのは種がまだ成長中

 どうやら採集してもそのままにしておけば中央の種が外に移動していき、新しい種が中央に並ぶことになるんだって。夏の花として有名だった向日葵だけど、この世界では一年中生えているそうだ。

「成程な。見たことあったわ。まさか向日葵が酒の原料だとは思ってなかったがな」

 日本での記憶があればそうなるでしょう。私だってびっくりですよ。
 という事で、手分けして向日葵の種……じゃないや、サケノモトを回収しますよ。

『私が拾うのを手伝うわ~』
『私は揺らしてあげる~』

 布を花の下に広げてキャッチする係と、花から種を振り落とす係、二人がかりでやる必要があるのでもう一人連れてきたらよかったねなんて言ってたら、精霊たちが張り切って手伝ってくれることに。
 風の精霊が花を揺らし、光の精霊が私と一緒に布を広げてキャッチする係に。
 タニアさん達はそんな様子を見て可愛いと悶えてましたが、まあ確かに傍目から見たらファンタジー感満載で可愛いかもしれないですね。
 やってるこっちは楽しくなってきた風の精霊が興奮しすぎないように宥めるのに必死でしたけどね。


 どれだけ必要なのかと思ったけれど、向日葵二十本分ほどで回収作業は終了。これでどれくらいの量の酒が出来るのか分からないけれど、ここの畑が枯れる心配は全くなさそうだね。

 再びドラゴンに乗って集落に戻れば、昨日の広場へ。
 数名の大人たちがニコニコと待っていてくれた。もしかして一緒にお酒作りをしてくれるのかな?

「お酒作りはとっても簡単よ。まずはこれを砕くの」

 種を鑑定したら≪酒の素≫と出ました。
 ザラザラと袋から取り出されたヒマワ……じゃなくて酒の素を片手で握りつぶしてボウルにザラザラといれていくお姉さん。
 えっと、カカオのように柔らかいという事でしょうか?

 試しに一粒取ってみたけどとてもじゃないけど潰せませんでしたので、私はすりこ木で潰しますよ。
 粉状にした方が使いやすいという事だったので、途中からチアキ謹製のフードプロセッサーで粉砕しましたけどね。
 お姉さん達はある程度砕いた後は、掌で籾刷りしてました。うん、それが出来るのは竜人族だけだと思います。

「あとは自分たちが飲みたいお酒の素材を準備するの。樽木によって味も変わるし、酒の素を沢山いれると酔いやすくなるわ。だけどあまり多く入れちゃうと苦くなって美味しくなくなるからその量を調整するのも大切なのよ」
「入れる素材によって酒の種類も変わるしな。組み合わせを考えるのも楽しいのだ」

 発酵のない世界の酒ってどうなってるのかと思ったけど、この種一つで酒になるって事? 
 色んな果物を切って樽にぶち込んだお姉さん、お水と果物を七対三で入れたら、酒の素をザラザラと樽に入れていく。それは何粒分ですか? え、目分量ですか?
 水に沈んだ果物、水に浮いた酒の素。
 それを長い柄杓のようなものでグルグル混ぜていれば、あ~ら不思議。浮いていた粉は綺麗に溶けて消えてしまいました。
 とはいえまだ果物は固形っぽいし、直ぐに酒になるという訳ではないようだ。

「しっかり酒の素が溶ければ良いの。後は蓋をして一週間くらいで出来上がるわ。先週作ったのがこれなの。ちょっと飲んでみて」
「流石にヴィオに試飲はさせれんからな、俺が頂こう」

 イブさんとチアキさんが赤い飲み物を受け取って一口。
 ジュースみたいに見えるけどアルコールなんだね。サングリアみたいな感じかな?

「へえ、これは飲みやすいね。これならヴィオも飲めると思うよ」
「良いんですか?」
「あ~、まあ大丈夫だろう」

 チアキさんが耳をトントンしてくれたことで、浄化の魔道具があれば大丈夫だということだと分かった。そうか、酔うというのも毒素だと思えば浄化されるって事だね。
 グラスに少しだけ入れた赤い飲み物を頂く。

「わぁ、美味しいです。ジュースみたいで飲みやすいし、お酒って感じがしないですね。もっと甘いのかと思ったけど、これならヘレシチューの時やソース作りの時に使っても良さそうです」

 サングリアというよりはカシスオレンジとかのお酒初心者でも飲みやすいカクテルのような感じ。あそこまで甘くはないけど、フルーツの爽やかな香りがあって、飲みやすい。
 料理にも使いやすそうだと言ったことで試してみようという空気になったけど、まだ他のお酒も見てみたい。

 二人目のお兄さんは薬草としても使える草系の素材を沢山入れたお酒だった。
 作り方は同じ、お水、素材、酒の素を混ぜて溶かすだけ。

「あっ、これいつも使ってたお酒と同じ味がします」
「おお、それは嬉しいな。これはあちらの大陸を旅していた時に教えてもらったレシピだったんだ。もしかしたら同じレシピが回ってるのかもしれないな。癖が無くて料理に使いやすいんだ」

 成程ですね。使っていた薬草類を見せてもらってメモをする。全部あちらの大陸で見たことがあるものだった。元々一つの大陸が神話時代に分かれてしまっただけだから、植生は大きく変わらないというのは有難い。これならこっちでも作れそうだ。
 ミドウ村でのお酒の味が違ったのは、樽と酒の素の量だろうと言われた。
 お兄さんが使っていた樽は魔木ではない普通の木を使ったものだった。
 後で調べて分かったミドウ村の樽はエルダートレントから作られたものだったので、かなり成分が濃かったのだろうという事でした。

 パテトだけを入れて作った酒は芋焼酎のような味がしたけれど、これって素材を変えれば無限に作れるって事じゃない?

「チアキさん、これって米で作ったら日本酒になりませんかね」
「おぉ! それはやってみるしかなくないか」
「また面白い事やるつもり? 本当二人って血が繋がってないのに親子みたいだよね」

 実験大好きなところは似ているかもしれないけれど、魔道具の実験はチアキさんとイブさんも大概だと思いますよ?
 酒作りを教えてくれていた人達も面白そうだと参加し、酒樽を何種類か持ってきてくれた。樽によっても味が変わってくるからと、普通の木、トレント製、エルダートレント製の三種を持ってきてくれる程。
 そんなに楽しみなんですね。
 そういえば竜はお酒が好きだと伝承などではよく語られるけど、間違いではないらしい。
 ドワーフ程酒があれば良いという訳ではないけれど、美味しい酒と魔素の多い肉があれば十分という竜人族は多いとの事でした。



※※※※※※※※※※※※

本編500話に到達いたしました~°˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°
お父さんとの別れは未だヴィオの心に大きくて深い傷を残していますが、ハチャメチャ勇者や、常識が通用しない竜人族、本来なら賢者と呼ばれるはずのハイエルフが苦労性になっていたり、自由な精霊がいることで、少しずつ傷を持ったままでも生きていこうと思えるようになりました。
兄達との再会は10歳と約束を決めたことで、本格的に修行を頑張っています。
ヴィオの冒険はまだまだ続きます。
どうぞ応援よろしくお願いいたします(`・ω・´)ゞ
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