ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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第19話  自己紹介

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 チリ~ン チリ~ン

 鈴の音というか、ベルの音のようなものが聞こえると同時に、ダーン ダーン バタバタバタと中々騒がしい足音が聞こえてくる。

「あっぶねー! 間に合った!」

 ベチン

「ギリギリすぎますよ。もっと余裕をもって行動しなさいと言われているでしょう?  おや?」

 駆け込んできたのは兎耳の男の子。先生らしい人に頭を軽く叩かれているけど、痛くは無いのか笑ってる。どうやらさっきの凄い足音は階段を数段飛ばして下りてきていたらしく、それも叱られている。兎だから飛び跳ねてしまったのか、遅刻しそうだから急ぐためにそうしたのか、仲良くなったら聞いてみよう。

 そんな事を考えていると先生らしい人と目が合った。頭の上に耳は無く、私と同じ場所に耳がある、猿族の方だろうか。尻尾は見えないけど、サルの尻尾は種類によっては短いから見えないのかも。

「貴女がヴィオさんですね、初めまして、ヒト族のポールと言います。座学の言葉や文字を中心に教えていますよ。
 あぁ、初めましての子供達も多いですからね、紹介しておきましょうね。自分で名前を言えますか?」

 小学校の先生みたいだなぁと思いつつ、丁寧に自己紹介をしてくれた先生に促され、先生の横に立つ。
 振り返れば教室にいる子供たちが目をキラキラさせて注目してくる。最前列のハチくんは机に懐いたまま、お顔の下に水溜りを形成し始めているけど……。

「はじめまして、ヒト族のヴィオです。熊族のアルクお父さんと住んでます。今日から勉強しに来ました。よろしくおねがいします」

 ペコリとお辞儀をしてご挨拶。ここでは皆種族を言ってるからそれに倣って言ってみたけど、正解だったみたいだね。

「あ~、母ちゃんが言ってたの、あの子がそうなんだ」
「俺、もう知ってた~」
「ちっちゃ~い。何才~?」
「魔法使えるの~?」

 子供達がザワザワしながら感想を述べ、質問も飛んでくる。

「コラコラ、初めてなのに沢山質問されたらびっくりするだろう? 君たちも名前を教えてあげなさい。ヴィオさん、質問は平気かな?  答えられないのは答えなくていいからね」

 先生が止めてくれたことで静かになる室内。存外素直な者たちしかいないようだ。質問に答えられると言えば、1人ずつ立ち上がって自己紹介と質問が飛んできた。

「おれトニー、兎族の6歳、なぁ、魔法使えるか?」

 遅刻ギリギリで来たのは1歳上の兎ボーイだったようだ。
 使える魔法の種類を聞かれている訳ではないので「生活魔法の練習を始めてるところ」と答えておく。

「冒険者になるんだったら攻撃も防御系も覚えた方が良いぞ? おれが教えてやってもいいぞ」

 自信満々な感じが可愛いですが、先生に「魔法の講師は別にいますから安心してください」と言われ、トニーくんは周りの人達から「お前もやっと最近使えるようになっただけだろ~」とか 「格好つけか~?」とおちょくられている。
 皆の耳や尻尾がピクピク、フサフサしているから、モフラーの私には大変目の毒でございます。

「はい、次!」
「俺はナチ。犬族の7歳。父さんはギルドの受付やってるんだ。冒険者の青銅ランクだ。ヴィオはこないだ登録したんだろ? お手伝いとかでポイント貯めてランク上げ頑張れよ」

 タキさんの息子さんだね。応援してくれるなんていい男。寝ぐせがそのままだけど、それも可愛いのでヨキ。

「あらぁ、私ねぇ。先ほど挨拶したけど改めまして。
 私はマーレ、羊族の9歳ですわ。三つ子ですの~。ヴィオちゃんは冒険者になるつもりなの~?」

 赤いリボンのマーレさんは『あらぁ』から始まる。

「はい、こないだ登録しました。今はお父さんと体力づくりから頑張ってるの。今日もお昼から薬草を調べて採集してみるつもりです」
「まぁ、次は私ね。同じく羊族の9歳、ミーレですわ~。
 アルクさんは冒険者としても優秀ですもの、ヴィオちゃんも直ぐにランクが上がりそうねぇ。村で困っている事は無いかしら~?」

 緑のリボンのミーレさんは『まぁ』から始まる。

「一人で歩くとまだ迷子になりそうだけど、練習してるから大丈夫! 村の人たちみんな優しいから困ってることは無いです」
「あらまぁ、それは嬉しいわぁ。私はムーレ。羊族の9歳ね。
 この村は大きな家族みたいだから、新しい家族は大歓迎よ~。よろしくねぇ」

 黄色のリボンのムーレさんは『あらまぁ』から始まる。
 3人は教室の最年長だからなのか、羊族という種族特性なのか、非常におっとりとしていてお姉さんって感じがする。白いフワフワの髪はとっても柔らかそうで触りたい衝動ががが……。

「僕はルン、猫族の7歳です。さっきはごめんね。アルクさんとはどんな練習してるの?」

 少し照れたように伏し目がちに謝る少年とか、萌えしかないんですが?
 しかも黒猫、しかも『僕』呼び。属性盛り過ぎじゃありません? ありがとうございます!

「んとね、まだ体力が無さ過ぎるから、裏の畑のお手伝いと、ここに来るまで歩く距離を延ばすところから練習中なの。今日も広場の手前でま…疲れちゃって、お父さんの抱っこで来ちゃったから」

 迷子と言いそうになったが、迷っては無い。断じて無い。

「えぇ~、ここまで歩くのも出来ないって、赤ちゃんかよ~。ロンでも走ってくるぞ?」

 隣のやんちゃな黒猫ボーイが赤ちゃん扱いしてくるけど、走って追いかけていた君の弟は、完全に猫の姿で追いかけてましたよね? 二本足のチビな人間と、しなやかで走る為の身体を産まれた時から備え持っている猫さんを同じにしないで頂きたい。

 ベチン

「いてっ、兄ちゃん何で叩くの~?」
「女の子には優しくしろって母さんにいつも言われてるだろ? それに自己紹介! 今日の事は母さんに言うからな」

 後ろの席に座ったルン君に頭を叩かれてジト目で見上げる弟レン君。必殺『母さんに言うぞ』は、全世界共通なんですね。泣きそうになっている顔も、私からすればごちそうです、ありがとうございます。

「レン、猫族5歳。お前体力無いなら、時々走るの付き合ってやってもいい」

 ムスッとしながらも、私の体力作りに付き合うとか……。えぇ? これが噂のツンデレ? デレギレ? どれ? 耳がヘニョっと倒れてるけど、尻尾が椅子の足に巻き付いてるけど、どこに突っ込めばいい? 可愛いでお腹がいっぱいなんですけど?

「うん、レン君ありがとう」

 ニッコリ笑ってお礼を言ったらびっくり顔でそっぽ向かれてしまった。だけど見えてるホッペが真っ赤なので、それもヨキ。
 後方のお姉さま方から「あらぁ、照れてるのね」「まぁ、真っ赤だわぁ」「あらまぁ、可愛いわぁ」なんて声も聞こえてるけど、それもスパイスです。


「あら、ハチはまだ無理そうね。
 では、私はケーテ。トカゲ族の8歳よ。得意なのは水魔法と木魔法なの。冒険者ランクは青銅で、将来は金ランクの上級になってへんきょうはくのごえいきしになるのが夢なの。あなたの目標を聞いても良いかしら?」

 ぱっちりお目目のケーテさん。
 トカゲ族は耳の特徴が無く、蛇族同様、訓練すれば尻尾も収納できるようになるらしい。ケーテさんには立派な尻尾があるけどね。
 辺境伯の護衛騎士ね、そんな夢もアリなのか。私は貴族に関わる気は無いから、その線はないかなぁ。

「うーん、まだ決めてないけど、一番近い目標はダンジョンに行くこと。その為に銅ランクになって討伐の経験をつめるように、今体力作りから始めてるの。将来はドラゴンにも会ってみたいかな」

 ダンジョンとドラゴンというのは、子供たちにとってもパワーワードだったらしく、教室がワッと湧いた。
 流石にその音で眠りから覚めたらしい子犬君。キョロキョロ見回して、服の袖でテーブルの水溜りを拭いた。クリーンじゃないのかい?

「だぁれ?」

 私と目が合った子犬が呟けば、後ろに座るケーテさんが「新しい子よ。今みんなの名前を憶えてもらうために自己紹介しているの」と優しく教えてあげている。
 あぁ、この席は自由席といいながらも、こうして近くの年上がサポートしやすいようになってるんだね。やんちゃ系兄弟は頭を叩けるように後ろに兄がセットで座るのもデフォかもしれないね。 
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