ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
29 / 584
学び舎に参加

第26話  初めての採集

しおりを挟む

 昼食が終わって、少しだけお昼寝。赤ちゃんじゃないんだからと言ったんだけど、お父さんに寝室まで運ばれて、布団の上からトントンされたら寝落ちてた。

 2時間ほど眠っていたらしく、起きたらスッキリしていた。初めての学び舎での経験と、途中で断念したけれど頑張って歩いたことで、5歳の身体は疲れていたようです。

「おぉ、よく眠れたか?  採集には行けそうか?」

 テーブルの上には採集用の小さな手袋と小さなナイフ、籐で編まれた籠が用意されていた。

「お父さん、これって……」
「ここにある薬草は素手でも採集できるがな、今後村の外でも採集することを考えれば道具の使い方には慣れといたほうがええ。ヴィオのマジックバッグはかなり特殊じゃ。マジックバッグは精度が色々あってな」

 お父さん曰く、マジックバッグは容量や性能がピンキリらしい。見た目も私の持つ肩掛け鞄のようなものもあるけど、ウエストポーチ型やリュックサック型もあるみたい。
 魔道具師により制作されるものもあるらしいけど、容量が鞄の倍サイズくらいの物であることが多いのだそう。容量が多い物の殆どがダンジョン産の物で、ほぼ市井に流れることはなく、取得冒険者が身に着ける。時々オークションで出品されるも、性能が良い物は恐ろしい金額になるそうで、大概貴族か大商人と呼ばれる人達が競り落とす事になるらしい。オークションとか貴族っぽい響きだよね。

 容量の大きさは最大がどれくらいか分からないけど、お父さんが持っていたマジックバッグはこの家一軒分くらいだったようで、息子さんが冒険者になった時に餞別で渡したらしいので、二つとも手元にはないらしい。
 ダンジョン産のマジックバッグには、時間停止効果が付いているものがあり、非常に珍しいとのこと。
 ……私のマジックバッグ、多分この家一軒分はあるし、回復薬がそのままだったことを思えば 多分時間停止機能も付いてる。

「そういう訳で、ヴィオのマジックバッグの効果が知られると危険じゃ。
 それにな、安いマジックバッグじゃと、普通の鞄と同じように、きちんと収納せんとぐちゃぐちゃになる。じゃから薬草なんかはこうした籠に入れておけば綺麗なまま納品しても怪しまれん」

 あぁ、そっか。母さんは素材採集の時にポンポン鞄に突っ込んでたけど、安いマジックバッグだとそうしたら潰れちゃうって事だね。安全な場所に移動してから選別して、5~10本の束に纏めてたからそういうものだと思ってた。

「全部を隠すのは無理がある。じゃが行き過ぎた能力や道具は周囲から狙われる。じゃから見せる範囲も調整しながら、ヴィオ自身も身を護る術を手に出来るように儂が鍛える」

 そこまで考えてくれているとは思わなかった。面倒だと手を離さずに、生きる術を教えてくれるお父さんは私の師匠だね。
 師匠って呼んだらお父さんが良いって言われたからやめたけど、心の中ではお父さん師匠と呼ぶことにしたよ。


 ◆◇◆◇◆◇


「奥まで行ったら川があるから、そこまでは行かんようにな」

 家の裏は木々が覆い茂り、私は森だと思っていた。広場に面するお店の一角が入るのと同じくらいの小さな森になっているらしいけど、子供の私からすれば結構大きな森だ。
 村を護る木塀に沿って数本の柱が立っている。 外は見えないけど、村の外にも一定間隔で柱があるらしく、それらは魔獣除けの道具らしい。街道に沿っても立てられているらしく、馬車はその道を通って各町を行き来するようだ。
 勿論大きな魔獣や、魔獣が溢れてしまうスタンピードが起きた時には、効果がないようだけど、昼日中に普通の魔獣は近づかないレベルではあるみたい。

 川はその限りではなく、普通の魚だけではなく魔魚と呼ばれる肉食の魚もいるらしい。ただし村人は魔魚を普通に釣るし、何ならうちの食卓にもすでに出ていたようだけど。
 海ではないから人を引きずり込むような危険すぎる魔魚は居ないようだけど、小さな子供が足を滑らせて落ちたら危険な可能性は高いと言われた。わたし知らなくて川で水浴びしてたし、ここまでドンブラコされたてたけど、よく無事にたどり着けたよね。

 薬草を見つけては、お父さんに確認してもらって採集していく。初めて使うナイフは初めのうちは上手く使えなかったけど、慣れたらとても容易に素材を切り取ることが出来、褒めてもらえるようになった。
 お父さんの合格をもらえたのは、カイフク草が20本、マリキ草も10本。初めの数本はナイフに集中しすぎて、葉っぱの部分を握りしめちゃったせいで駄目にしてしまった、勿体ない事である。
 回復薬の材料になるカイフク草と、魔力回復薬の材料となるマリキ草。非常にふざけた名前だと思ったけれど、誰でもすぐに覚えられるし、採集に行くのは小さな子供が多い事を思えば、覚えやすいのは良い事だ。
 マリョク草ではなく、マリキになったのは漢字がないこの世界ではフリガナの間違いという訳でもないだろうから、偶然なんだろう。

 この2種類は、各回復薬の基本材料だから10本1セットで50ラリの報酬が貰える。1セット納品で1回分の依頼達成ポイントがもらえるから、5セット納品したら5ポイントがもらえるのだ。
 錫ランクから青銅までは、50ポイントあれば上がることが出来るので、真面目に依頼を受けていれば一か月くらいで上がれる。

 青銅から銅までは、新たに100ポイントを貯める必要があるけれど、これも依頼内容の是非は問われない為、採集やお手伝いだけで頑張る子供たちが多い。
 ただし、銅ランクからは討伐以来が入ってくるため、銅ランクになる前に武器の扱いや魔法の扱い、回復薬などの知識を持っていないと大怪我では済まない結果になる。

 昔は銅ランクになって、知識が少ないまま討伐に出て帰らぬ年少冒険者が多く、現状を重くみたギルドが領主や国に訴え、リズモーニ王国では国が主体となって十数年前からギルドでの学び舎を設けることになったのだとか。
 結果、学び舎を出た冒険者の死亡リスクが減り、ギルド本部が推奨して各国に支援を求めているみたい。
 お隣の共和国も冒険者が多くいることから学び舎は設けられているそうだけど、皇国は冒険者を野蛮人と蔑んでいる為、冒険者ギルドも無ければ学び舎もない筈だということ。
 もう一つの隣国、メネクセス王国は広大で、大陸における冒険者ギルド総本部があるけど、王国全てのギルドに学び舎があるかは不明なんだって。
 ここプレーサマ辺境伯においては、三か国との境界を守護する地でもあり、武を尊ぶ辺境伯が冒険者の育成にも力を入れ、学び舎完全無料体制を作り出してくれたんだそう。今後も会うことはないだろうけど、プレーサマ辺境伯サマには感謝カンゲキ雨嵐で御礼申し上げます。


 10本1セットとなるように細い麻紐で纏めてから、お父さんが用意してくれた籠に並べ、学び舎に持っていく用の鞄に入れた。
 採集でも結構時間を使ったから既に夕方が近いらしい。ここから私が歩くのは時間もかかるし体力も足りないだろうという事で、お父さんの抱っこでギルドに行くことにした。
 マジックバッグに入れておけば、明日学び舎に行くときでも十分新鮮なんだけど、時間停止機能は秘密にしておくことにしたので、ちょっと遅いけどこの時間にギルドに納品することにしたんだ。

「明日からは資料室にも寄らんし、もう少し早い時間に始められるじゃろう」

 お昼寝が無かったらと言ったけど、それは駄目だって言われた。今日は資料室で写本もしてたから時間が遅くなったし、私が途中までは歩きたいって言ったから余計に遅くなっちゃったんだよね。
 ギルドではナーラさんという羊獣人のおじさんが受付をしてくれた。

「ひい、ふう、みい、よ……。カイフク草が20枚で2セット分、マリキ草が10枚で1セット分、合計150ラリの報酬と、3ポイントだね。
 アルクの娘さんとは聞いておったが、お前さんの娘らしく、初めての依頼達成にして素晴らしい採集技術だね」

 片眼鏡のモノクル? をかけて慎重に素材を検分されていた。数えられている間ドキドキしたけど、お父さんは楽し気に見ているだけだし、私も静かに見つめるだけにしてたんだけど……。

「ナーラさん、その薬草、私が採集したって分かるの? ズルしてお父さんが採集したかもしれないよ?」
「……ふっ、はっはっは、面白い子だねぇ。自分でズルしたかもしれないというなんて、馬鹿正直というかなんというか」
「可愛い娘じゃろ?」
「ふっ、そうだねぇ。孫たちが騒いでたのも頷ける。
 お嬢ちゃん、人は皆自分の魔力を纏っておるんだよ。たかだか素材採集でも、魔力を流さないような特殊な手袋でもしてなければ素材に魔力は多少移る。だからこの素材全てに纏わりついておる魔力が同じであれば、同一人物が採集したというのが分かるんだよ。
 ギルドカードに登録されている魔力と同じである事を確認しておるからね、不正はできんのだよ」

 マジカ。
 ナーラさんのモノクルは魔道具で、魔力を鑑定するギルドの道具なんだって。ちょいちょいハイテクを出してくるよね。

 査定が終わり、ギルドカードと報酬を手渡された。青銅の丸い硬貨が1枚と、錫の小さな丸い硬貨が5枚、お買い物の練習はしたことがあるけれど、自分で稼いだ初めてのお金だ。
 ギルドカードは何ら変わったところはないけれど、ポイントは何らかの形で蓄積されているのが分かるんだろう。なんたってハイテクなカードだからね。

 帰り道に、初の稼ぎでお父さんに何かプレゼントしようと思ったんだけど、将来の為に貯めておきなさいと言われてしまった。
 もう少し貯めて、1人でお買い物が出来るようになったらプレゼントを買おう! 新しい目標がまた一つ出来た。


しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

処理中です...