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閑話
〈閑話〉ファイルヒェン・ドライ・メネクセス その1
しおりを挟む大陸歴 570年
俺が育った町はトルマーレ辺境伯という場所で、大国メネクセス王国の中では東に位置する 広大な領地だった。
3つの国が国境にあるが、敵対国ではないため 平和な街ではあった。
広大な領地であるからこそ森も広く、ダンジョンもあった為、武力を持つ騎士も多かった。
育ててくれた前トルマーレ辺境伯は 俺の両親がこの国の国王だと言っていたが、それが本当であれば 何故王子であるはずの自分は王都に住んでいないのかと不思議で仕方がなかった。
きっと両親がいない俺を悲しませないために そう言ってくれているのだろう、そう思っていた。
前辺境伯の娘が 王の側妃だそうだが、その息子が俺だという。
実際 今、辺境伯を纏めているのは 俺の母親だという人の弟で、俺の叔父らしいけど、叔父は王都のタウンハウスで執務をしているからか、会った事はない。
まあ 架空の人物を甥っ子として紹介するわけにもいかないだろう。
祖父母にあたる 前辺境伯夫妻が この広大な領地を管理しており、俺はそこで育ったのだ。
だが、祖父母と孫という関係性を実感したこともない。
ある程度自分で自分のことが出来るようになるまでは、辺境伯の大きな屋敷で過ごしていた。
普通の貴族がよく分からないが、食事は部屋で行い、勉強も教師が部屋に来る。
剣の訓練をするときだけ訓練場に出ることが出来たものの、基本は部屋で過ごすのだ。
祖父母と共に食事をした記憶はない。
現辺境伯には子供がいるらしく、タウンハウスで育っていると聞いた。
となれば後継者はその子供なのだろう。
俺は一体何故この家にいるのか、跡継ぎとしての勉強をさせられることはないし、祖父母から何かを強要されることもなかった。
誰にも、何にも期待されていないという事がよく分かった。
7歳の時に洗礼式を受けた。
教会で洗礼を受けた時に、闇・土・火の得意属性だと宣言されたことで、その場に出席していた全ての貴族へ 司教から口外禁止の命令が出された。
多くの子供が持つ属性が2つほどなのに 俺は3つもあった事に加え、珍しい闇属性を持っていたからだそうだ。
闇属性は 元々あまり持つ人間が少なく、この国では王族や公爵などの高位貴族で時々出現するくらいなのだそうだ。
口外禁止といっても 子供達も出席していたのだ。子供同士で接する場所では噂話としてその話が出ることは仕方がない。
俺のことが王族の関係者じゃないかと噂になったのも仕方がなかったのだろう。
瞳の色が 王と同じ菫色だったから、トルマーレ辺境伯は「それこそ王族の証だ」と言っていたけれど、そのせいで「王族の落胤じゃないか」と言われるようになった。
だけど 王の髪は金髪らしく、次の王である王太子も、第二王子も金髪らしい。
俺は灰白色の髪だったので、近所の貴族達からは 「魔法と目は似ているけど、髪があれだけ貧乏くさい色なんだ。きっと出来損ないのラフターラの落胤なんだろう」とからかわれていた。
ラフターラとは 今の王様の伯父で、プライドだけが高い能力のない公爵らしい。
女癖も悪くて、正妻以外にも あちこちにラフターラ公爵の落とし胤と言われる子供がいるらしい。本人は菫色の目でもないのだが、隔世遺伝じゃないかとさ。
そんな子供時代を過ごしたが、12になる年に前辺境伯は学びの機会を与えるためか、近所の貴族達から離す為か、隣国の魔導学園へ通わせてくれることになった。
「学園で沢山の人と接することで、自分の視野を拡げてきなさい。
もし素晴らしい出会いがあり、旅に出たいと希望するならそれも良い。
だが 私たちは何時でもお前が帰ってくることを待っている。私たちはお前の親にはなれなかったが、息子だと思っているのだから。」
学園に行く前日にそんなことを言われた。
それまで両親のような対応をされたことはなく、付かず離れずな関係だったのに、何故そんな事を急に言われるのかと驚いたくらいだ。
だが、この街や貴族と離れることが出来るなら嬉しいと思った。
完全寮生活となっているらしく、貴族として通う生徒は 使用人を連れて行くこともできるという。
だが俺は元々この家でも 洗礼以降は 使用人宿舎で生活をしていたから、自分のことは自分でできるし、余計な金を使わせて 後々請求されても困るから、2人部屋の寮に入ることにした。
「これまで生活をさせてくださったことを感謝いたします。
私はこれより魔導学園に通い、卒業後はそのまま冒険者として大陸を周り、見識を深めて来ようと思っています。」
最後に辺境伯の執務室に礼を言いに行ったら 非常に悲しげな顔をされたが、やはりよく分からなかった。
◆◇◆◇◆◇
学園のあるリズモーニ王国までは船で移動した。
陸路であれば 2か月はかかるであろう距離も、トルマーレ辺境伯にある大きな川船で海沿いの町まで行けば、3週間という短い時間で到着することが出来るのだ。
ヘイラン、フィムロ、ミラドという3つの小さな国を経由するが、どこも港町では様々な交易がおこなわれているらしくて、人が多く動き回っている様子を船から眺めているだけでも楽しかった。
「この船は常に陸地が見える場所を進むのだな。
もっと離れた場所の方が真っすぐに進めるのではないのか?」
船は風魔法と水魔法が得意な者達が船員として乗り込んでおり、彼らが船の進路や 風を受けてスピードを調整しているらしい。
1週間ほど航行していると 顔馴染みになるもので、彼らに聞いたら 呆れた顔をされてしまった。
「坊ちゃんは 大国出身だったな。海にはな 魔獣がいるんだよ。陸の魔獣も大小色々あるんだろうが、海の魔獣は でっけえのが多いんだ。
特に陸から離れれば離れるほど、育つ場所が広いからな。陸から離れるなんて自殺行為だ。
夜にはそれなりに浅い場所まで魔獣は上がってくる。だから夕方には陸に上がる必要があるんだよ。」
船の上から冒険者と言われる人たちが時々 討伐を行っていたのは見ていたので知っているが、まさかそんな事になっているとは知らなかった。
訓練場で各種武器の扱いや魔法の練習はしたものの、冒険者に登録することは出来なかった。
魔獣については 騎士達から聞いて学んできたが、海が近くなかったあの土地では海の事は学べなかったのだ。
毎朝 日が昇り切らない早朝に船を出し、昼を越えて少ししたら港に寄っていた理由が分かった。
夜にも進めばもっと早く到着するのにと思ったが、そんな事は危険すぎで出来なかったのだ。
港には魔獣除けの道具が置かれているらしく、到着順にもやいが結ばれるため、遅くなれば魔獣除けの範囲から遠くなる可能性もあるという。
だからこの大きな船は まだ日がある時間に港に入るのだと。
「ファイ……なんだって?フェネルヘン?ややこしい名前だな。もうフィルでいいだろ」
「おお、フィルは2属性あるのか。火と土があるんだったら冒険者としても十分やっていけるんじゃね?土は防御に使えるし、攻撃だったら断トツ火だからな」
2週間を過ぎれば 船の護衛についていた冒険者とも仲良くなった。
弓使いが二人、魔法使いが二人、の4人パーティーで、船の護衛をメインにやっているらしい。
「船旅では剣士は殆ど活躍できないからな。よっと」
「そうそう、海は空からくる鳥系か、海からくる水棲魔獣だから、飛び道具がないと攻撃が届かんからね。〈風の刃で切り裂け【ウインドカッター】〉」
弓使いのマルセロとクズマは 海や空を見ながら警戒し、時々撃ち落としている。
風魔法が得意なレーゼルは 話しながらも 空に向かって魔法を放っている。
水魔法が得意なディルクは 向かってくる魚群に対し 水の壁を作って防御しているらしい。
ファイルヒェンという名前は長いからと、フィルと呼ばれるようになり、陸に上がった昼過ぎから夕方にかけて 魔法や弓も教えてもらった。
冒険者は 同じくらいの技量を持つ仲間を募って パーティーを組むことが多いらしい。ソロの冒険者もいるが、ダンジョンに入る時などは危険性が高くなることから 臨時でパーティーを組むらしいけど、臨時であればその為人が分からなければ、魔獣以上に危険な可能性があるという。
俺は……ソロが良いんだけどな。
彼らは【水龍の盾】というパーティー名で、パーティーは自由に名前を決めることが出来るらしい。
船の護衛を主にしている事からその名を付けたらしいけど、龍とかドラゴンを付ける人たちは多いらしい。格好良いから分かる気がする。
「じゃあな、フィル。学校で頑張れよ」
「おう、坊ちゃんが一流の冒険者になったら、帰りは船の護衛として雇ってやるよ」
3週間の船旅を終え、フォンタナという港町で 水龍の盾の皆と、船員たちと別れた。
彼らと共に過ごすことで、俺の知らなかったことを沢山教えてもらえた。
あの町では馬鹿にされていたこの瞳だが、やはり他国では珍しいらしい。
魔導学園のある王都では色変えの魔術具があるらしいので、それを使って瞳の色は隠した方が良いと言われた。
やはり王族の落とし胤かもしれないというのは、あまりよくないらしい。
それから、冒険者登録は洗礼以降なら自由にできるらしく、魔導学園の学生も多くが登録しているらしい。平民も通うことが出来るとあって、生活費を自分で稼ぐためにも冒険者登録をしているらしい。
そういうことだったので、俺の第一目標が決まった。
王都につけば まずは色変えの魔道具を購入し、その足で冒険者ギルドに行き 冒険者登録をするのだ。
銅ランクにならなければ討伐依頼はないという。
であれば 学園が始まるまでの間に小さな依頼を受けて行かなければならないのだろう。
冒険者は自分の実力でランクが上がる。
誰にも何にも期待されなかった俺だけど、自分の力でどうにか出来るというのはやる気に繋がる。
銀ランクの中級というのが 水龍の盾たちのランクらしい。
そこまで行けば かなりの実力があると認められるというので、そこまでは俺も伸ばしたいものだ。
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